2.実績確認
我ながらいいきれの蹴りを叩きこんだと思ったのだが、ポコンという音がなりアンズの頭の側で蹴りは止まってしまう。
やはりユーザー間の接触はマイルームでも無理だったか。
昨日heavenで他のユーザーに触られそうになった時にも接触できなかったのでもしやと思ったけど、いや我が友の頭にいい蹴りを入れなくて済んだことを喜ぶしかないね。
「ちょ、ちょっとニミリ!?何するのよ?」
「ごめん足が滑った。」
「いや、もらったとか言ってたよね?狙ってたよね?」
アンズは腰が引けているのかぺたんと座り込んでしまった。
ちょっと悪ふざけが過ぎたかな?
「うん、ごめんね。昨日からかわれた恨みをここで清算しておこうと思ってね。ちょっとやりすぎた。」
「んもう、本当に今のはびっくりしたわよ。」
軽く拗ねているがこれは…わざとだね。
まだ随分と余裕があるようだ。
「まあ、ニミリもフレンド登録しないとお互いに触れることができないからふざけただけだよね。」
「え、そうだったの?」
まさかフレンド設定していたら思いっきり蹴りぬけたのかな?
少しもったいなかったかもね。
「そうだったのって…それじゃ本気で蹴る気だったの?」
「ごめんね、割とそういう気分だった。」
私が謝るとアンズが深くため息をつく。
「行動一緒になるはずだからニミリとフレンド登録しておこうねと言おうと思ったんだけどなんだか危険に思えてきたわ。」
「その考えは残念ながら否定できないね。」
そう答えるとアンズは苦笑いしながら深くため息をつく。
「まあニミリらしいと言えばらしいわね。」
「友人がこのようなお嬢様ですから自然とこのように育ちました。」
「会った時からこんな調子だったような気がしますけど?」
…そうなのかな?
そうだったかもしれない。
「まあいいですわよ。時間がもったいないですしフレンド登録しておきましょう。」
「ほう、割り切ってしまっていいんですか?後悔しませんね?」
「やめて、決意が鈍るから。」
そうアンズが苦虫潰した顔をしながらコンソールを操作するとメッセージコンソールが目の前に表示される。
『プレイヤー「アンズ」が「ニミリ」へのフレンド追加を求めています。承諾しますか?』
ネタ的には一度断ってさらにいじるのも悪くない。
けどここまで私のせいでぐだぐだしてしまったのである。
これ以上貯めこませて爆発させたら後が怖い。
流石に私もここは承諾しておく。
『おめでとうございます。実績を達成しました。コンソールよりご確認ください。』
よくしゃべるコンソールである。
最初の辺りはこれが流れ続けるのでしょうかね?
「多分フレンドによる実績解除よね?そう言えばニミリの実績ってどうなってるのかしら?」
そう言われてみれば昨日は時間がぎりぎりだったため全然確認してなかった。
…しまったナップサックもあのままだ…という事は猫の死体もそのまま放置してしまっていたのか…中を覗くのが怖い。
「確かに気になるから少し確認するね。」
「あ、私も見たいわ。ちょいと横借りるね。」
マイルームの固定コンソールを操作する私の横に立ち顔を近づけてくる。
こういうことは男性にやったほうが喜ばれるのにね?
何で私にするかね?
まあ待たすのも悪いしさっさと確認してみますかね。
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【「ニミリ」の実績】
・『heaven挑戦者』
獲得条件 :heavenワールドへログインした。
実績解除報酬:無し
・『veryhard挑戦者』
獲得条件 :veryhardワールドへログインした。
実績解除報酬:無し
・『veryhard生還者』
獲得条件 :veryhardワールドで1時間以上探索しセーフエリアよりエスケープした。
実績解除報酬:1,000ウド
・『はじめてのフレンド』
獲得条件 :フレンドが1人以上できた。
実績解除報酬:フレンド設定機能追加
・『マイカー所持』
獲得条件 :車両を持参してエスケープした。
実績解除報酬:マイルームへの「車庫」エリア追加可能
・『銃携帯者』
獲得条件 :銃火器を持参してエスケープした。
実績解除報酬:マイルームへの「ガンラック」エリア追加可能
・『変異生命体ハンター』
獲得条件 :変異生命体(生死を問わず)を連れてエスケープした。
実績解除報酬:統合研究所エリアへの進入権獲得
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ああーー、見ていたら昨日のことを思い出すねこれは。
veryhardに、あんな倒せない化け物だらけの所に一時間以上もいたのか…そりゃ疲れるわけですわ。
「ちょっとニミリ、いつの間にこんなに持って帰っていたのよ?そう言えば何持って帰ってきてたか聞いてなかったわね。」
「まあ心当たりはあるけど…少し時間かかるけど一個ずつ確認させてもらうね。まずは1,000ウド…ウドって何?」
「わかりませんわね。何かの単位だとは思いますけど?」
「苦そうな単位だね…とりあえずわからないという事でパス。」
次はフレンド設定機能かな?
固定コンソールを操作するとフレンドの項目が操作できるようになっているのできっとこれだろう。
「なるほど、ボディタッチのレベルの許可とか物品のやり取りの許可とかそういうものができるようだね。まあお互いに許可しないとできないみたいだけど。」
とりあえず今の所は杏子だけなので問題ない。
全て許可に設定する。
「あら、固定のコンソールじゃなくて呼び出しの方でも設定できるようですね。私の方もやっておきますね。」
とりあえずフレンド機能はわかった。
これで次からはアンズの顔に蹴りを入れることができるようになったということだ。
さて、次はと言うと…。
「この追加可能というやつかな?可能ということはどこかに…。」
固定コンソールを操作してマイルームの項目を表示させると追加可能な機能が表示されている。
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【マイルームへの追加可能機能】
・「車庫」エリア
価格:700ウド
マイルームに隣接する車庫エリアが追加される。
広さは15メートル×5メートル×5メートル(高さ)
・「ガンラック」エリア
価格:400ウド
マイルームに隣接するガンラックエリアが追加される。
広さは5メートル×5メートル×5メートル(高さ)
壁掛け式「ガンラック」および立てかけ式「ガンラック」の家具が2つ付属されます。
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なるほど、ここでウドを使うのか。
しかしマイルームが広くなるにしても…。
ナップサックから回転式拳銃を取り出しながら眺める。
「あ、それが拾って来た銃なの?」
「うん、しかもアンズの頭を撃ち抜いた一品だよ。」
アンズがすごく拳銃を睨んでいる。
まあこれのせいで昨日はほとんどゲームにならなかったわけだ。
間違っても私まで恨まないでほしい。
「それでもってなんと弾もないのです。」
「弾がないって意味はあるんですの?」
「とりあえず鈍器としては使えることは実証できてるね。」
銃なのに撃たずに撲殺で倒している時点で私がおかしいのだろうか?
まあ弾がない拳銃のために銃置き場を買う気はさらさらない。
必要が無かったら部屋の隅にでも転がしておけばいいだけだと思う。
「次は車だけど…。」
「一応自転車も車扱いということですわね。」
私は部屋の隅に置きっぱなしになっている自転車に視線を向ける。
まあ見たまんま壊れているんだけど手を触れてコンソールを開く。
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【シティサイクル(半壊)】
ママチャリと呼ばれる。
ハンドルとサドルと前輪が辛うじて無事。
後ろ半分が潰されておりこのままでは乗れない。
重量:7キログラム
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そう、多分エスケープする前にセーフエリアからはみ出ていた部分が蟹に潰されてしまっていたのだろう。
このままでは使う事すらできない。
分解して鈍器にでもならないかな?
こちらも使えないもののために車庫エリアを購入する気はない。
これまで通り部屋の隅に陣取っていただく予定だ。
「最後に統合研究所エリアだけど…。」
「ニミリ、よく化け物を倒せたわね?」
「運よく小型の化け物が単独行動してたのでなんとかなったね。」
その後大量の猫に追い回されて肉片にされる寸前のところまでセットだったけどね。
あそこでママチャリに出会わなければどうなっていた事か…。
…それはそれで早く解放されていただけかもしれないね?
「進入許可ということはワールドアクセスに追加されているのではないでしょうか?」
アンズの考えになるほどと思い、固定コンソールよりワールドアクセスを選択すると一番下に「統合研究所」という項目が追加されていた。
「なるほど実績解除から行けるエリアが増えるのか。それ以外にもオープン記念エリアもあるね。」
こちらが本日のメインだろう。
オープン記念エリアは既にchannelが九個もある状態だ。
「ではこちらはまた後日ということで今日のメインの方に行く?」
アンズの方を見るとかぶりを振っている。
おや、イベントの方じゃなくていいのかな?
「どうせなら研究所というエリアも見ておきたいですわね。こちらはニミリ同伴じゃないと行けないみたいですし軽く覗いてみませんか?」
いつでも付き合うのに…ああ、私が確認したいというから律義にあわせてもらってるわけか。
これは申し訳ない。
まあ興味があるというのも事実だろうしさくっと行ってみよう。
「わかった、ありがとね。それじゃ早速行ってみますか。」
私は「統合研究所」を選択しアクセスボタンを押す。
『統合研究所の初回アクセス時は変異生命体を持参することをお勧めします。』
電子的な注意メッセージが流れ私はなるほどと思い、床に置きっぱなしだったナップサックを手に取る。
そしてアクセス確認のメッセージに同意した私達は統合研究所エリアへと転送されるのだった。