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アンノウンディザスターオンライン  作者: レンフリー
10日目~17日目 立夏のお散歩イベント
169/291

55.お散歩イベント AfterDay その2


サポートユニット「ケレナ・プラトーン」視点


ご主人様とその友達が部屋で話をしている。

下っ端管理職を長年してきた僕だからわかる。

ご主人様よりあのお友達の方がドロドロして怖い。


そのお友達が喜々としてご主人様と部屋から出ていく。

ここへ来たばかりだけどこれだけはわかる。

きっと(ろく)でもない事が起こるという事は…。


---------------------------------------------------------------------------


「ようやくやって参りましたね!昨日までの頑張りが今日(むく)われますわ」


「そうだね、二日目にアンズが馬鹿やらかさなければ昨日まで頑張る必要は無かったはずなんだけどね?」


「…そ、そこはもう過去の事ですから忘れましょうね!ニミリ」


わいわいと(しゃべ)りながらブラックマーケットワールドの市役所に入っていく。

建物の中にいる市役所職員のNPCといったら()れ物を扱うような恐れた目でこちらをチラチラと見ている。

まあ今からアンズがやろうとしている事を考えれば妥当な反応と思う。

そんな視線は敢えて切り捨てているアンズは窓口へルンルンと移動するとNPCに話しかける。


「昨日約束したアンズです。もう皆様揃っていますわよね?」


『は、はい!全員三階の市長室にいますのでそのままお進みください!い、いえ案内させていただきますので少々お待ちください!』


「という事なのでニミリ行きましょう」


私達は受付のNPCに先導されて階段を上がっていく。

そういや奥に入った事は無かったね?


「それにしても意外だね?あの諦めの悪そうな顔してるのが逃げないでいるなんて。出張とか急用とか言って逃げると思ったんだけど?」


「ええ、その為に昨日、本人へ釘をさしておきました。「如何(いか)な理由であろうと今日逃げたら契約書は履行させるし、逃げた分もっと不幸になるよう余罪も追及しますわよ?」ってね♪」


あのとんでもな最終日が終わった後に恫喝をするためにここへ一回来ていたのね…。

相変わらず油断も隙も無い。


しばらくすると目的地へ着いたので先導していたNPCがドアをノックする。


『市長、板崎さん。お客様がお出でになりました。』


「入って貰ってください」


可愛い女の子の声が返ってくると共にNPCがドアを開けてくれるのでアンズを先頭に私も入室する。

会議室の中はテーブルを挟んで今にも死にそうな青い顔で恨めし気にこちらを見てくる板崎と満面の笑みを浮かべている青髪幼女がソファーに座って対面している。


『お待ちしておりました!』


『来てしまったか。くたばってくれればいいものを…』


「契約書には私が同席する必要があると明記してしまいましたからね。億劫(おっくう)ですが同席させていただきますわ」


嘘だね。

絶対に板崎の絶望する顔を見たさにそんな項目を入れたでしょ?

そして板崎の反応もおかしい。


『…そうだったのか!?』


今さら契約書を見直している。

…そういうのは契約前にしっかりと確認すべき事なのだけど…そうさせないためにアンズは板崎を(あお)りまくったんだろうね。


『さすがはお姉様です!』


…こっちのちびっこもなんかおかしいね?

いや何といいますかアンズを見る目が爛々としている。

これは何とも…面白くなりそうだね!


『まあいい、確かに君達の勝ちだ。これは認めざるを得ないだろう。だが話はこれで終わりだ。今から私の処遇について話あわなければならん。来て早々すまんが退出してもらえるかな?』


板崎はそう言うとシッシと手払いをして追い払うような仕草を私達に向ける。

何というか往生際が悪いというか死の盆踊りを踊っているというかアンズは物凄く楽しそうに板崎を見下ろしている。


「あら、契約書を(くつがえ)せるとでも?」


『そこはこれから市長と一対一で話し合うのだよ。君たちのおかげで色々な物が台無しだ。何、真摯(しんし)に向き合えば私が如何に必要かわかってくれるはずだ』


なるほどなるほど、子供だから脅かして宥めれば意見が変わるとでも思ってるのだろうか?

NPCにしては随分と枠に捕らわれない行動するよね?

ある意味こいつはレアなのじゃないかな?

…欲しいかと言われるといらないけど。


『板崎と話すことなどありません!契約書の内容の通りでいいのです!』


『そんな事を言わずに、私が抜けると市役所の組織運営が回らなくなりますよ。組織崩壊待ったなしです。ここは馬鹿な考えは捨てて是非もう一度私の雇用をお考えに…』


あー、結局こういう形になるのかな?

解決はまだ先というドラマ的な展開でまた足を引っ張られ続ける展開になるのだろうか?

けどアンズは二人の平行線の話に割り込むように市長…女の子の横にドカッと座り込む。

急にソファーに座り込んで話の腰を折られた板崎は目をきょとんとさせてアンズへ食って掛かってくる。


『何のつもりだ!不躾にもほどがあるだろ!?』


「私も用事がありましたので…じゃあ(たつ)ちゃん私に任せてもらってもいいかしら?」


『はい!お姉様にお任せします!』


…私の知らない間に何かあったのだろうか?

呼び方からやけにこの二人の親密度が高い気がする。

これは…面白くなりそうな予感がするね!


『何で部外者の貴様が話に入ってくる!邪魔だからさっさと出ていけ!』


「…契約書のここの所、声に出して読んでいただけるかしら?」


アンズが板崎の持っている契約書の下の方の箇所を指差す。

そこに目を近づけると板崎が音読を始める。


『市長が勝った場合はプレイヤー「アンズ」を市長の後見人として採用し、市長の許可の元で権限を振るう事ができる…何だこれは!?』


「どうせ腹立たしくて見たくもない契約書だから再確認もしなかったのでしょうね?その記述の通り今から交渉は私が請け負いますね?まずは貴方の懲戒免職は覆りませんし、当然再雇用はありません。即刻、私物だけ持って出ていってもらえるかしら?」


『何も聞いていなかったのかね?ここの組織運営は私中心に回って…』


何か喋り始める前にアンズは人差し指を立てたまま静かにとでもいうように板崎の口の前に持って行く。

そのまま言葉は続かず雰囲気だけで黙らされていく。


「ええ、その点はご心配なく。昨日のうちに全て手は打っておきました。龍ちゃん問題は?」


『問題なくすべて実施しています!今日中には滞りなく完了予定です』


「予想以上に手を入れるところが多くて時間がかかってしまいましたからね」


アンズは困った顔でそのまま優雅に息を吐く。

これで何かを察したのか板崎の顔も悪くなっていく。


『まさか貴様ら既に…』


「勿論ですけれど市長権限で見れる所は全て拝見させていただきました。まずはこの世界での投資ターゲット、顧客情報は全て把握させていただきました。これに対して顧客へ如何なる接点を持つか複数パターンを検討してコネクションおよび窓口強化のプランは既にこの子に渡してあります。投資ターゲットについては、利益・資産・将来性・公共性等の観点でパラメータ化して有力な物は複数の事業として立ち上げてプロジェクト化致しました。この際邪魔になるので人材についても部門毎に縦割り行政をやめて横串による連携力強化をした新たな組織プランと人員配置を策定して複数案を市長に提案済みですわ。更に今回のような馬鹿を出さないために市長直属の非公開の監査部門も設置しました。」


…何を言っているのかまるでわからない。

難しそうな言葉を適当に並べただけじゃないのかな?


「更に詳しく説明しますと、総務、財務、調達部門に関しても市長直轄に変えさせていただきましたわ。今後は市長の許可なくこの部署の決済が通る事はありませんわよ?まあ普通でしたら全て目を通していたら市長が過労死してしまいますけれど、こんな世界のせいかほとんど業務は無かったみたいですけれどね?」


…私は考える事を止めた。

もう右から左に聞き流そう、そうしよう。


『たった一日で好き勝手しやがって!こんな事したら混乱をきたすだろうが!?』


「また、板崎さんの息がかかった調達先や不審なお金の流れも全て把握済みで手を入れさせていただきましたわ。混乱についてはこんなゴミを残しておく方が後の為になりませんからね。これを機に全て掃除した方が後がよろしいかと思いますわ」


『お…俺を追い出したってまだ市役所内には息のかかった連中が…』


「そちらも一切問題ありませんわ板崎さん。貴方のシンパは既に全員把握しておりますので今日中にはすべて処分が完了しますわ。心置きなく出ていくだけで問題ないですわ。残った人の心配させる手間も省けて板崎さんも嬉しいですよね?」


どこに持っていたのかアンズが名簿を板崎に投げ渡すとがっくりとうなだれる。

そしてぐったりとしている板崎にアンズはさらに追い打ちをかけていく。


「後は市役所の加入条件も大幅に緩和しておきましたよ。よくもまああれだけの暴利をむさぼろうと思いましたわね。しかも一日の税金と利子の六割が板崎さんのポケットマネーになるよう仕組んである上に市役所から離れてもお金が落ちて来るようにしてるなんて…お主も悪ですわね?」


最後のよりどころだったのか板崎がグロッキーになりソファーから転げ落ちる。

そこにいるのは生気の無いただのアンズに怯えるおっさんであった。


『どうしてだ…何で俺だけ…他にも賄賂取ったり悪い事したりしてる奴がいるだろう…』


板崎の呻きにアンズは溜息をつくと仕方ないというように言葉を投げつける。


「賄賂を取るなとも言いませんし汚職もある程度は許容しますわよ?けれどそれはその分きちんと働いている人だけに許される事でしてよ?働かない、問題しか起こさない。こんな人はいるだけで無駄ですし更に給料も払わなければいけないとか…どんな罰ゲームかしらね?」


『お前…お前達さえいなければ!』


「ええ、その考えは正しいですわね。けれど私はここにいますからね?その仮定は虚しいですわよ」


まあそれ以前に板崎はアンズのからかいの挑発に乗らなければこんな事にはならなかったのにね。

アンズに余計な事はしてはいけない。

私は昨日身をもってそれを味わったからね。


その後生ける屍のようになった板崎は警備員に両肩を掴まれて市役所から叩き出されたのだった。

消えていく板崎の後ろ姿を見たアンズは満足気にソファーから立ち上がる。


「気持ちいい終わり方で大変よろしかったですわね。私達はこれで…」


『お姉様!少しお待ちください!』


アンズが市長の方に振り向くと…何故か固まってしまった。

何かこの女の子が怖い顔でもしてるのかなと思って覗き込んだけどそんな事は無かった。


アンズはフリーズが終わったのかカクカクと人形みたいに頭をこちらに向けてくる。

…ゲーム的にも怖いから止めてよね?

そして予想外の顛末を口にする。


「特殊サポートユニット「青山龍子(あおやまたつこ)」を入手しましたと表示されたのですけれど?」


『はい!末永くお世話になります!』


…おおう、アンズの物凄く困った顔だ。

NPCとは言え悪意が無いせいか対処の判断がついていないんだろうねこりゃ。


「人を養えるほどの物資持っていないので残念ながら…」


『そのような物は必要ありません!私はここに基本いますのでお姉様の手伝いが必要な時だけお助けに参ります!』


「あのね、板崎ほどじゃないけど私も悪い人ですからね?」


『大丈夫です!契約書で後見人になっていただく時から覚悟を決めていました!』


板崎にはあんなに一方的に攻め立てていたアンズが次々と論破されていく。

いやーこれはもう…見ていて楽しいね!

おっと、龍子ちゃんがアンズの足元に抱き着いたぞ。

うわーひどく混乱した顔になっちゃってるね。

そしてこっちを見て助けを求めているようだけど…どうしようか?


…そうだった!

その前にアンズには言っておくことがあったんだった。

忘れないうちに伝えておかないとね。


「せっかく子供が懐いているんだから少しは相手してあげたら?後、忘れてたけど私は明日からゲームログインできないからそのつもりでいてね?」


「…?何か家の用事でしょうか?私に心当たりが無いのですけれど…」


アンズが困惑顔から真面目な顔に戻すと不思議そうに首をひねっている…だけど何で私の家の家庭事情にアンズが心当たりがあるのかな?

まあ付き合いが長いし気付く点もあるという事かな?


「実はホームステイの人が来ることになっててね。明日はその出迎え行かなきゃいけないし、それ相応に対応しなきゃいけないから当分はね」


「え…ホームステイの受け入れですか?確か募集中でマッチングした事は無かったのでは?」


…そういえば杏子に全く言ってなかったような?

これは明らかに私の連絡ミスだ。


「ごめん!言うの忘れてた。実は飛び込みでホームステイのマッチングがしたらしいの。そういう事だから私はもうゲームからログアウトするね?アンズも仲が良いのはいいけどほどほどにね」


「待ってニミリ!そんな話は初耳…ってこら離れなさい!」


抱き着かれているアンズを余所に市長室のドアを閉めると私はすぐさまエスケープを押してゲームからログアウトするための処理を取り始める。

それにしても…子供に懐かれるなんて慣れていないだろうからこの先も苦労するだろうね。


苦労するのは私だけで無いとわかるとほんの少し気が楽になった気がした。

この話で本章は終わりとなります。

話をまとめるのが下手過ぎてこんなにのびてしまい大変申し訳ありません。


そんな中多数の感想をいただきありがとうございました、励みになります。

評価、ブックマークも想定を超えていただきありがとうございます。


そんな中大変申し訳ないですが次回は現実編となりゲームの話はお休みとなります。

ご了承ください。


最後にこの話を書いて気付きました。

私はざまぁを書くのが苦手なようです。

無念である。



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― 新着の感想 ―
[一言] ホームステイ受け入れ…そういえば少し前にマークス(だったかな?)の孫もホームステイに行くと言ってたような そして部下だか知人だかに気にかけてもらうとかなんとか さらにさらにそんな伝がありそう…
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