45.イベント最終日 既知との遭遇
さてと…コンテナ向こうにいるプレイヤー達はどうしようか?
セーフエリアの場所の検討がついた以上は関わっている時間が勿体なさそうなんだけどね。
そうは言って警告を無視して下手に動いて撃たれでもしたら…まあこの植物ボールが殺されるぐらいだから割とどうでもいいような気がしてきた。
けど、仕方ないので返事だけはきちんとしておこうかな。
あまり待たせすぎて相手をイライラさせるのはよろしくないのでとりあえず返事はする事にする。
「こっちは化け物の捕虜を取っているので武器を下ろすことはできません!納得できないなら離れますのでお構いなく」
「あのクソ野郎を捕虜にしただと?…ちっ仕方ねえ一人ずつこっちへ出て来い!妙な真似をしたらど頭ぶち抜くからな!」
うーん時間が勿体ないんだけどなあ。
ここは仕方ないこじれないためにさっさと片付ける事にしよう。
そして時間がかかるようなら強引に抜け出してしまおう。
「ちょっと顔出してくるから待ってて」
「…乱暴そうですし関わらないほうがよろしいんじゃなくて?」
アンズの言う事ももっともなんだけどね。
こじれた後に妨害されたらもっと困るかもしれないと判断しましたよ。
『…できれば私は置いていってもらえると助かるのですが?』
「うるさい、元を正せばお前が全部悪いんだからね」
植物ボールを置いていっても碌なことにならない気もするので私と一緒に出てもらう。
さて、この行動は吉と出るか凶と出るかどうだろうね?
「ここから出ますので撃たないでね!」
コンテナの陰からゆっくりと歩いて姿を見せつける。
植物ボールにサブマシンガンを突きつけるのを見せつけるのは忘れずに。
私が歩き始めるとすぐに障害物の上から棒状の銃器がパッと動き銃口が私に向けて正確に向けられる。
きちんと胴と頭に狙いが定められてるというのが実に嫌らしい。
女性への対応を何だと思っているのか。
「…確かに大丈夫かもしれないな。ゆっくりそのまま…ん?」
あれ?
何か様子が変になった。
このまま警戒されながらの顔合わせになるかと思ったけどそうは行かないみたいだ。
ひょっとしてこいつが変な事でもしたのだろうか?
手元を見てみるけどビクビクとおとなしくしているだけだ。
なら、何だろうと思って見ていると障害物から隠れていたプレイヤーが姿を現した。
「おい、ウィル!見てみろよ!やっぱりあの時の女の色気が理解できてない女だぜ?」
「驚いたな確かにあの時のガールだ?いや、モンスターが擬態している可能性もあるぞ」
…何か見覚えがあるというか思い出してきた。
そう、あれは忘れもしないゲームのどこかの会場。
私の女としての尊厳を全て踏みにじって滅多打ちにしてきたマッチョでファンキーな五人組がいた。
駄目だ思い出しただけでイライラしてきた。
『…知り合いですか?』
「…出来ればもう会いたくなかった」
遭遇しただけで私の心が打ちひしがれているとあちらの方から声が聞こえてくる。
「なら確認すればいいだろ?おいそこの女!俺達と会った事があるならお前が俺達にやった事を話してみろ」
そうかい、そんなに聞きたいのかな?
いいだろうならば全て話してやる。
「やった事ね…確か私がアンズの水着を後ろからずらした事かしら?」
「おお!?本物じゃないか?いやぁあれは素晴らしかったな!」
あっちはワイワイ盛り上がってるようだけど私の話はまだ終わっていませんよ?
私はトーンを極力落としながら低い声で続けていく。
「そしてその後に私が似た事をしたら色気が無い、新鮮さが無い、女性らしさが無いとかよくもまあ好き放題言ってくれましたよね?」
私が言い切ると辺り一面を沈黙が支配する。
流石にまずいと思ったのか申し訳なさそうに頭を下げながらぞろぞろとこちらへ出てくる。
「何というかその…すまんな!」
「そして今も女の色気も理解できないとか言いましたよね!全く反省してないでしょ!」
思いっきり右手で殴りかかったけどプレイヤー間の接触はできないためにはじかれてしまった。
もっとも相手も瞬時に反応してガードをしてたのでどちらにせよ防がれてたんだけどね。
あの後暴れる私を止めに来たアンズが姿を現すとこの四人が更にヒートアップしてお祭り状態になってしまった。
今回は私もかなり悪かったと思うけどこの状態はどうにかならなかったものだろうか?
今は幾分か落ち着いて私達の説明をしている所である。
「なるほどなあ、そのイベントで無茶してここまで来て脱出先を探していると」
「そんでそのクソ野郎が場所を知ってて確認しに行く所だったと。なるほど理解できたぜ」
話の方は分かって貰えたようなのでこれで移動できるね。
アンズと一緒に移動を始めようとしたその時である。
「じゃあ俺達もその話に乗らせてもらおうぜ」
「そうだな、こんな危険な場所をガールだけで行かせるのはよくないな」
「それにマークスが役に立たねえ…これは俺達も引き上げるべきだろう」
「聞いた話だと彼女達の時間が差し迫っているようだ。すぐに移動を開始しよう」
…え、この人達もついて来るの?
私が怪訝な顔をしたせいだろうか?
四人そろっていい笑顔をすると親指を立てて宣言して来る。
「大丈夫さ、レディをエスコートするのは紳士として当然の事だ」
「…そのレディに私も入ってますよね?」
出来れば私の精神衛生上ここで別れてもらった方がありがたいんだけど。
もうアンズのバイクのせいで心だけは完全に疲れ切ってるのでこれ以上は持ちそうにない。
アンズがポンと肩に手を置きながら慰めてくれるけどそれだけでは賄いきれそうにない。
…あまりのイライラに手に掴んだボールを握りつぶしてしまいそうだ。
「あの客船だったな。ではダリル、すまないがポイントマンを頼む。ウィルは左、フレッドは右についてくれ。俺はケツにつく」
黒人キャラで作成しているジェスの指示の元てきぱきと配置についていく。
まあ全員が小銃を持っているし衣装もどこかで見つけたのかTシャツ短パンから脱却している。
戦力としては期待できると思って私はあきらめる事にする。
そして最後にジェスが困ったような申し訳なさそうな顔をしながらこちらに振り向いて来る。
「それでレディ達は中央にいて欲しいのだが…一つトラブルを頼みたい。言いにくいのだがマークスが役に立っていなくてな…その何というか少し気にかけてくれると助かる」
…そういやこいつ等五人組だったよね?
一人いないのを私もすっかり見落としていたのだった。




