34.イベント最終日 特設エリアの戦闘
薄暗い特設エリアをなるべく音を立てないようにこっそりと歩きながら…私は近づけるところまで近づいた。
4WDの車を陰にして私はゾンビ達の姿を確認する。
一体はアンズの指摘の通りボディーアーマーを着込んでおりだらしなくぶら下げた右手には見慣れないアサルトライフルを所持している。
残りの二体は…警備員のような恰好をしており武器の所持は一切ない。
軽装な分、武器を持っている奴よりは移動が速いかもしれないから注意は必要かもしれない…まあ結果はすぐに出るかな?
私は階段の方へ振り向くと腕を上げてアンズに合図を出す。
すると階段の方からボォンボォンと奇妙な音が流れてくる。
…何の音なのよこれ?
私にはどういう音かわからなかったけど結果は出す事ができたようであり、ゾンビ達は天井の丸い穴へ向いていた視線を階段へと向けるとくるりと体の向きを変えて移動を開始した。
警備員のゾンビは軽快にゆらりゆらりと体を揺らしながら人が歩く速度で、重装備のゾンビはのっそりと一歩一歩ゆっくりと他のゾンビの半分にも満たない速度で移動を開始する。
すなわち、分断に成功したという事だ。
まあ隙はできるだろうかなとは思っていたけど分断までできたのは運が良いね。
後は確実に仕留めるだけだね。
私は警備員のゾンビ達が通り過ぎるのを見送ると、重装備のゾンビと距離が割と離れたのを確認して…体を前に躍らせた。
もうちょっと待って確実に安全に行きたかったけどこれ以上はアンズの方が警備員のゾンビ達と接触してしまう可能性があった。
そうなると…どんな大惨事になるか想像できない。
それならば速攻で方をつけるしかない。
不幸な事に重装備のゾンビも私に気付いたようでゆっくりとアサルトライフルをこちらへ向けようと腕を振り上げようとしているけど…遅すぎる。
私は既に腰だめに構えていたサブマシンガンの引き金を引く。
何度も言うけど私は射撃には自信がない。
ヘッドショットなんて決めれるわけはないから狙いやすい胴体へ全弾を叩きこむ。
軽快な射撃音と共にゾンビの胴体に衝撃が走り、何度も小刻みに揺れながら踊り続ける。
弾着の衝撃に耐えきれず重装備のゾンビは後ろに仰け反る…が、ただそれだけであり、やがて私の指元からは弾切れを知らせる虚しい引き金の音がカチカチと鳴る。
しかしサブマシンガンで倒せないのは想定内である。
ボディーアーマーを着込んだ相手をサブマシンガンで倒せるとは最初から思っていない。
そしてこいつはゾンビである。
どこまでダメージを与えたら倒せるのか不明な点が多いのである。
ならば確実に殺すためのダメージを与える必要がある。
「せい!」
重装備のゾンビへ向けて前進し、そのまま上半身へ向けて右蹴りを放つ。
すると重装備のゾンビは蹴られた勢いに負けて音を立てながら仰向けに倒れる。
蹴った衝撃の反動で私の方もこけそうになるけど何とか千鳥足になりつつも持ちこたえる。
バランスを取りつつ体勢を立て直すと倒れたゾンビへ近づきまずは右手を踏み潰す。
私の足元では肉と骨が潰れる音と共にゾンビの右手からアサルトライフルが離れるのを確認する。
よし、これで武器は取り上げた。
後は…。
私はさらに歩を進めて重装備のゾンビの頭の近くまで移動する。
ゾンビは呻き声をあげて生気のない真っ白な目でこちらを見つめてくる。
正直ゾッとするけどその背筋を這う気持ち悪さは息を吸い込んで強引に抑え込む。
そして右足を振り上げると、力の限りでゾンビの頭を踏み潰す。
…足にジーンと踏み抜いた衝撃が響いて痛いけど、代わりにゾンビの頭は潰れて青色の血があちこちに飛び散った。
私の足元に残ったのはビクビクと痙攣している体だけである。
「これでこいつは終わり、…残り二体は?」
後ろを振り返るとアンズの方へ近寄っていたゾンビ達はこちらへ方向転換しようとしている。
さて、こいつらも処理しないと駄目かな。
私は重装備のゾンビが持っていたアサルトライフルを拾うと二体のゾンビへ構える。
すると奥の方から爆音が鳴り響き私の頭上で天井が破裂する。
そしてパラパラとコンクリート片が降ってくる。
気持ちはありがたいけどコンクリートが頭に当たって痛い…。
「アンズ!その銃は威力大きいし反動も大きいから狙いは下の方に定めるぐらいでいいからね!」
「わかりましたわ。…けど次は少しお待ちになってくださいな」
声の先では両手で拳銃を握ったままアンズがひっくり返っている。
両手で構えて撃ったのはいいとしても反動にはやっぱり耐えきれなかったらしい。
けどお陰でゾンビ達が右往左往を始めて私の方に行こうかアンズの方に行こうか動きが定まらなくなっている。
死体が混乱するわけがないから…きっと音に反応してるのだと思う。
いや、狙いが定まっていない時点で混乱してると言えるのかな?
何はともあれ私だけへの注意がそれたというのが一番大きい。
私はツカツカと近寄ると片方のゾンビのボロボロの服の襟の後ろ部分を掴むと足を引っかけて床に引きずり下ろす。
音を立てて転がるゾンビの頭めがけて力強くアサルトライフルのストックを叩きつける。
骨かが割れる音と共に頭がへこみ、青い血を飛び散らす。
何度か叩き付けるとゾンビはやがてビクビクと痙攣して動かなくなる。
…足で踏むよりこっちの方が気分的に楽でいいね。
文明人なのだから次からは道具を使う事にしよう。
さてともう一体は…と思っていると轟音が鳴り響き前に立っていたゾンビの頭の右半分が消し飛ぶ。
その光景を確認した直後に、青色の血がベシャっと私の顔に勢いよく降り注いでくる。
「あ、今度は当たりましたわ!」
前の方からアンズの無邪気そうな声が聞こえてくる。
楽しそうで何よりだけど…悪気が無いのもわかるしむしろ援護してくれたのもわかるんだけど…。
私だけ化け物の血をかぶっているとか何か釈然としない!
そもそも注意をひけと言っただけなのにバカスカ銃声を鳴らしてどうすんのよ!?
…私は顔にべっとりと付いた青い血をぬぐいながらとりあえずアンズに文句を言いに行くことにした。
誤字報告いただきありがとうございました。
全て適用させていただきました。