31.イベント最終日 軟体生物
フランス料理店の入口からのっそりと顔をだしたのは、つぶらな真っ黒な丸い目を二つを取り付けた黄緑色の巨大なナメクジのような化け物だった。
そいつはアンズを見下ろして…何か口元の辺りをもごもごと動かしながらその部分を綺麗に光らせ始めている。
私は何かよくない事をしようとしていると直感で感じアンズを助け起こそうとしていた手を引っ込めてサブマシンガンを構える。
そして躊躇なく引き金を引く。
狙いを何とか光っている部分に持って行こうと私の手に伝わってくる火薬の反動を抑え込む。
軽快な射撃音が小刻みに鳴り響き、銃口から火花がいくつも咲き、役目を終えた薬莢が宙を舞う。
撃った弾丸はそれなりに当たっているようで黄緑色の皮膚に衝撃を与えて一時的にへこましているようだけど…決定打には、いや全くダメージにはなっていないようだ。
それでも相手の頭の部分を少しだけ仰け反らせる事には成功したようでアンズに向けていた頭のバランスが崩れて若干後ろに押し出していく。
その直後、ナメクジの化け物の光っていた部分から大きい水玉が吐き出される。
それはアンズの頭…の少し先の床に着弾する。
するとどうだろう、すごい勢いで透明な蒸気があがり、床に大きく穴が開いてしまっている。
…最近これと同じようなのを見た気がするけど気のせいだよね?
「え!? 何!?」
ようやく地面との接吻を終えたアンズが顔を上げてきょろきょろしている。
そして目の前に丸い大きな穴ができているのを確認すると短く息が切れるような悲鳴をあげる。
そのまま私を見つけて視線を向けてくるけど…説明する時間も無いし説明できる気もしないのでとりあえず指示を出す。
「話は後!とにかく奥のエスカレータから移動して!」
アンズはコクコクと頭を縦に振るとそのまま這いずった姿勢のままエスカレータの方へと移動を開始する。
何とか呑み込めてくれたようでほっとすると、元凶のナメクジの化け物に視線をやる。
視線に移ったのはつぶらな瞳で私を見ながらまた口の部分を光り輝かせているナメクジの化け物だった。
やはりサブマシンガンでのダメージは全く無いようだ。
けど撃てば相手の狙いを外せるとわかったのは大きい。
またサブマシンガンを構えると頭部めがけて引き金を引く。
カチッという音共に…射撃音が一切ならないし反動も来ない。
…あれ?
何度か引き金を引いてもうんともすんとも言わない。
「え、あれだけしか撃ってないのにもう弾切れ!?」
慌てて思わずマガジンを引き抜こうと考えたけど抜けない。
そんな間抜けな事をやっている間にもナメクジの化け物は頭を振りかぶっており…
「まず…」
危険を感じてとにかく地面に伏せて姿勢を低くする。
先ほどと同じ水玉が私の頭上を越えて奥に飛んでいき…やがて同じように壁や床を溶かして行く。
…これはひどい。
あっちは無限に強力な攻撃ができるのに、こっちは役に立たない豆鉄砲、…しかも弾数は限られている。
私はあまりの不公平さに内心愚痴を吐きながら後ずさりして後退していく。
すると背中からアンズの声が聞こえてくる。
「ニミリ!屋上と7階どちら向かうべきかしら!?」
え、屋上?7階?
予想外の言葉に少したじろいでしまうけどすぐに考えはまとまった。
つまりはここってデパートの最上階にある飲食店のスペースだったのかな?
という事は上へ逃げるか下へ逃げるか…になるけど、屋上って追いつめられるだけだよね?
「下!下へ行って!」
私はアンズに叫びながらも正面のナメクジから視線を外すことができないでいる。
背中なんか見せてあの汚そうな唾液の直撃を貰った暁には…即死間違いなしだからね。
だからこそ、再度唾液のような水玉が飛んでくるのを見切って、大きく回避する。
そしてそのままナメクジからの射線を切るためにステーキハウスの壁の向こうへと転がり込む事に成功した。
私はようやく一息つくと、まずは手元にあるサブマシンガンを確認する。
マガジンが抜けない…何でだろうと思ってよく見てみるとマガジンの側にヒレのようなものが付いている。
ここをカチッと押すと…するっとマガジンは取れて地面に落ちた。
落ちたマガジンには当然、弾は残っていなかった。
私は新しいマガジンを取り出すとマガジンがさしてあった場所にしっかりと音が鳴るまではめて、上部にあるレバーを引く。
多分これでまた撃てるようになるはず。
さてと、アンズの後を追っかけないとね。
あんな銃弾が全く効かない化け物の相手をするだけ時間と労力の無駄だから仕方ない。
そっとナメクジを見て…タイミングを見計らって…エスカレータに駆けだそうとしたその時である。
何故か下りていったアンズがエスカレータから駆け上がって来た。
短いですが本日力尽きましたのでここまでとします。




