26.イベント4日目 草原を往く
「ねえニミリ…かなり疲れてきたのですけれどまだこれを続けなければいけませんの?」
隣ではアンズが地面に突っ伏しながら疲れた声で問いかけてくる。
生憎私も気が張り続けていて気疲れしているので自然とぞんざいな返事を返してしまう。
「アンズの方が耳いいはずだからわかってるはずじゃない?」
私の返事を聞いてアンズはさらにげっそりした顔になる。
「結構遠くの前の方からもスズムシの声が聞こえていましたわ。おそらくですけれど…まだ半分も抜けていませんわよ。」
それは嬉しくないニュースだね。
あのロッジから追い出されて大体三十分、なんとか鹿の剥製の置物からは奇跡的に逃げる事には成功したけどその後は気が張り詰めっぱなしだった。
その中でもスズムシの化け物については仕組みが分かったのは収穫だった。
どうやらスズムシの化け物同士でお互いに音を出し合っているらしくその鳴き声を遮る生命体がいた場合に赤く光ってトウモロコシに位置を教えるみたいだ。
何故分かったかと言うと…ロッジから逃げてすぐの場所に小型の厩舎を発見したのだ。
そこには繋いである馬が一頭いて…これはラッキーと思ったのだけど私達が騎乗する前にさっさと逃走されてしまったのだ。
馬の扱いなんか私達知らなかったしね、先に繋いでいるのを外したのが悪かった。
これは仕方ないとあきらめている。
けど逃げ出した馬はその直後にトウモロコシの直撃を受けて存在すら消滅したのだ。
幸い私達は伏せていたせいか察知されなかったので…スズムシの化け物達の泣き声を遮ったのが原因と考えたのだ。
私達は多分それが正解だろうという事にしている。
今も草むらの中を姿勢を低くしながら進み、時間が来たら伏せてスズムシの化け物の哨戒網をやりすごしているのである。
「うーん、これだけ速度が制限されちゃってるならリセットもありかもしれないね。けど時間的にもう一回チャレンジするのは難しいかもしれないよ?それを踏まえたうえでアンズはどうしたい?」
アンズは少し考えるそぶりを見せて、すぐに考えを回答してくる。
「そうですわね。できれば今の距離でもいいので一度エスケープしたい所ですわね。」
「それ二日前の自分に言うべきじゃないかな…そろそろ時間だよ、静かにして。」
私が注意をして数十秒後、スズムシの化け物達の大合奏が始まる。
しばらく演奏が続き、やがて何も無かったように辺りは静まり返る。
私達は何度目になるかわからない安堵の溜息を吐き出すとまた低姿勢で草むらの中を歩き始める。
無言で歩き続ける最中に私も自分の考えをまとめていく。
確かにアンズの言う事も納得できる。
私達はこのイベントでポイントを全くといっていいほど稼げていないのだ。
まあ最初からハイリスクハイリターンの方針を取り続けているのだからこれも想定内ではある。
今日の現状はと言うと前日よりも全然移動距離は稼げていないと私もわかっている。
されどここまでの移動距離は前日までより長くなくても時間をかけて積み上げてきたのよね。
その稼いできたものが勿体ないという意見も納得できるし、私もできれば徒労にはしたくない。
ならば早めにセーフエリアを探していつでも逃げ出せるようにするのが望ましいのではないか?と結論を出す。
「そうだね…リセットしないなら、建物内を探してセーフエリアを発見しておくというのはありだと思うね。セーフエリアが草むらに無いとは言えないけどあるとは考えにくいし、いつ事故が起こるかわからないからね。」
「私もニミリの考えでいいと思いますわ。それなら手当たり次第に建物の中を探して行った方がいいですわね。手始めにあそこに小さいロッジがありますわ。最初はあそこなどいかがかしら?」
アンズが指さした先には今までと比べて一回り小さいロッジが右前方の先に存在している。
一番近いし、確認にも時間がかからなさそうだし、何より次にスズムシの化け物達が大合唱を始めるよりは駈け込めそうなのでいいと思う。
「それでいこうか。次にあいつ等が鳴き始めるまでには入ってしまうからちゃんとついてきてね?」
そう言うと私は先頭に立って目的のロッジに向けて小走りに移動を始めた。
ロッジの手前に辿り着くと溜めていた息を疲れと共にどっと吐き出す。
アンズも同じようだったようで…あ、アンズの方がひどいかな?
地面に手をついて肩から息をしている。
けどここからが重要だ。
まずは建物の中にセーフエリアがあるのか?建物の中は安全なのか?この二点を確認しないといけない。
加えてあいつ等が鳴き出す前には家の中へ避難しておくのが望ましいから…時間はかなり少ない、いやもうほとんど無いと考えておいた方がいい。
…よし、手短に確認して後はなるようになれでいこう。
まずは壁に耳を当てて中の音を少し聞く。
…とりあえず中で動いている音は聞こえない。
動的な物はいないと考えていいと思う。
次に中の様子を探ってみるかな?
私は側面に取り付けられたガラス窓の前まで移動するとロッジの中を確認する。
ロッジの一階部分は…中央に木製のテーブルと椅子が設置されていて、奥には二階への階段らしきものがある、そして扉の方はと言うと…足元に木棚が積み上げられるように設置されており、回転式の閂がかけられており頑強に封鎖されている。
二階は確認しないといけないから一度入った方がいいかな。
それにこの扉の状態だと正面からは入れないね。
…窓の方はどうだろか?
そっと音を立てないようにガラス窓をスライドさせると、何事も無く開いた。
その後もガラス窓を開けたことに反応して何かが動き出すという事もないようだ。
じゃあ侵入路はここからかな?
「アンズ、こっち来て。ドアはロックされてて開かないから窓から入るよ。」
私はアンズを手招きすると窓枠を乗り越えてロッジの中に先に侵入する事にした。
多数の誤字報告をいただきありがとうございます。
会話文の最後に。は入れるようにしているためそれ以外を確認の上適用させていただいております。
ご了承ください。




