14.マイルーム 1日目の終わり
こちらを面白そうに見ているアンズがいる上に、相も変わらず無機質な空間が目の前に展開されている。
どうやらマイルームに戻ってきたようだ。
しかし体制はエスケープ時のままだったらしくハシゴにもつれたままのバランスが悪い状態、そしてハシゴという支えが消えた状態である。
「のゎ!っとっと…ヘぶ!」
なんとかつま先でバランスを取ろうとしたがそれはかなわず顔から地面にダイブしてしまった。
それを見たアンズはお腹を抱えて爆笑している。
「なにやってるのよニミリは、いきなり変な格好で戻ってきたと思ったらそのままタコ踊りしてこけるなんて。」
私もそんなつもりは毛頭ない。
むくりと顔をあげるとアンズに向き直る。
「うるさいよ。アンズがいなくなってあの後大変だったんだからね。」
「そしてその報復に私を笑い殺そうとするなんてニミリ恐ろしい子!」
だめだ、杏子の頭のねじがまた飛んでしまっている。
これは何かきっかけを与えないと会話が成り立たない。
これからどうやって話を戻そうかと考えているとマイルームに無機質な電子音声が響き渡る。
『おめでとうございます。実績を達成しました。コンソールよりご確認ください。』
私は体を起こして首をかしげているとお腹を抱えて笑っていたアンズがこちらを向いて説明を始める。
「これですわね。私もゲームに戻ったらこうなりましたよ。まあ面白い実績はなかったのですが。」
「へー、どんな実績だったの?」
「『heaven挑戦者』『veryhard挑戦者』といった入場したらもらえるものから、『ヘッドショットいただきました』といったおふざけなものでしたよ。」
ああ…そういやアンズ眉間撃ち抜かれてそのまま退場したもんね。
中々おいしい実績じゃないかな?
「実績はコミュニティルームでの設定やマイショップでの設定に使えるようですが…今私は何もない状態なので役に立たないですね。」
「そう言えばアンズがやられた位置に袋落ちてたもんね?」
「友達思いのニミリなら拾ってきてくれると思ったのに…」
「いや、無理無理。あんなの相手にしながら回収とかできないから。」
途中からすっかり忘れていたというのは黙っておいた方がいいだろう。
まあ忘れるぐらいに必死になっていたというのも間違いないし。
「そういうニミリは無事エスケープしたようですね?さすがですね。」
「無事というわけでもないしぎりぎりだったけどね。」
最後なんかボタン押せずに終わるかと思ったし。
そう言えばあの時の体が動かない違和感はなくなっている。
右目も失明状態であったのに見えている。
そして視線を下に移すと、破いたタイトスカートも修復されている。
多分マイルームに戻ると全てリセットされるのかと思われる。
もう少し杏子と馬鹿話でもしようとしたところで外部音声が頭に流れる。
『こら、ゆり!もう21時まわってるわよ!』
VR用のコンソールを立ち上げると確かに21時をオーバーしている。
約束した初日からこれである。そりゃ怒られますね。
「アンズ、悪いけど時間みたいだから今日はもうログアウトしちゃうね。」
「あーやっぱりもうそんな時間よね。わかったわ、また明日ね。」
そうか明日もか…明日もスリリングかつ疲れるのか…
「私今日を限りで引退を…」
「そんなひどいこと言わないよね?」
演技とまるわかりでも目をウルウルさせながらこちらを見ないでほしい。
自分の趣味がかかってる分本気の度合いも加算されているよねこれ。
「はぁー、わかったわよ。しかし本当にこのゲーム疲れるからがっつりとは付き合わないからね。」
「うん、ニミリならそう言ってくれると思ってた!」
そう満面の笑顔でこちらに抱き着こうとして…そのまま見えない壁にはじかれてアンズは少しふきとんで後頭部をぶつける。
「あいたーー。そっかフレンドまだ申請してなかったから触れないんだ。」
いっそこのまま杏子とフレンド設定しないほうが平和にすごせるのかもしれない。
まあそうは杏子問屋は絶対下ろしてくれないだろうが。
「まあ、また明日ねー。」
「はい、また明日ですわね。…あ、そうだ。明日はオープン記念イベントがあるらしいからそっちに参加しようと思ってるのよ。明日また相談させてね。」
ログアウト直前に聞こえたオープン記念イベント、…明日は楽ができるかな?
そう考えてログアウトした私は母にしっかりと怒られた。