19.イベント2日目 一階廊下を走り抜けて
「あっ!しまった!」
アンズの拾って来た昆虫の化け物に気持ちのいい一発を入れる事が出来たけど、片手で握っていた事と力み過ぎてしまったせいで金槌がそのまますっぽ抜けてしまった。
私の手を離れた金槌は空を回転しながら飛ぶと…尻もちをついているアンズの頭の横を通り過ぎて、壁にゴツンとぶつかる音が響く。
短い悲鳴と共にアンズが抗議の声をあげてくる。
「ニミリ!やり返すのならもうちょっと痛くないやり返しでお願いしますわ!」
「いや、今のは事故だから。また別の機会にきちんとやり直すから安心してね?」
私のまだ仕返しは終わっていない発言に対して新たな抗議が上がって来るけど軽いコントに落とし上げて流していく。
…あれ?
そういやさっきの昆虫型の化け物は仕留めたんだっけ?
コントが楽しくてちょっと忘れてしまったけど、確かアンズの方角のちょっと横に叩き付けたはずだよね…。
視線をアンズから外して少し隣の床に向けると灰色の床には緑色の液体と割れた昆虫の羽の破片が散らかっている。
そこから緑色の液体は少し奥まで続いており…そこでは傷ついた昆虫の化け物がよろよろと起き上がり残った無事な羽を動かして飛ぼうとしている。
まだ終わってなかったのね!?
飛ばないうちにとどめをさしに行こうかとも考えたけど距離がある上にもう宙に浮きつつある。
先ほどの飛行の速さとどんな空中の軌道で来るかわからないからこれ以上はリスクが高そうだと判断した。
そして一番肝心なのは…何故か近くのアンズより私にばかり視線を向けているという事である。
試しに少し歩きながら立ち位置を変えてみるけど昆虫の化け物の視線は一切変わらなかった。
…そういやあいつ目標固定とか言ってたっけ?
という事は目標は私で固定されてるのかな?
アンズの疫病神がーーー!
私はアンズを心の中で罵るとすぐさま次の行動を考える。
こんな狭い部屋で高速移動していた化け物の相手をするのはリスキーと判断する。
また私がこの部屋でやられた場合、残ったアンズに次の目標が行くかもしれない。
なら、取るべき方法は…これかな?
私は先の苦労を予想して軽くため息をつくと、警棒を右手で抜き取りアンズに声をかける。
「その化け物は私だけを狙ってるみたいだから先に入口まで逃げるね!アンズは後から安全に戻ってきて!」
そう言い切ると私はアンズの返事は待たずに発電室の扉を蹴飛ばして開ける。
その開いた空間から私は部屋の外へ飛び出し、割れた壺をさらに細かく踏み潰しながら駆け出した。
「あーもう!しつこい!」
あれからもう数分は経っている。
私の嫌な予想は外れて部屋に残っているアンズを狙ってほしかったんだけど…。
そのようなことは無く、人形に擬態をしていた昆虫の化け物は私をしっかりと目標にして羽音を鳴らしながら追跡して攻撃して来る。
私の走る速さに追い付いていない点や真っすぐ飛べずにフラフラと体液を撒き散らしながら飛んでいる事から万全ではないとは思われる所だけが今のところの嬉しい誤算である。
私は羽音が大きくなるタイミングで振り返りながら警棒で追い払い、また距離を取るために全速で走るのを繰り返している。
けど…この繰り返しも段々と疲労がたまってきてつらくなってきた。
息も切れるし、体もどんどん重くなっていく。
正直つらいです。
廊下に電気がついて明るくなったのと何度か面と向かってやり合ったせいで化け物の容姿ははっきりとわかってきた。
クワガタみたいな昆虫であり、飛び方はブンブンとカナブンみたいに飛んでいる。
色は藍色であり、そいつが自分の体液で緑色に変色させた洋服を着込んでいる。
…そんな情報あまり欲しくなかったけどね。
いけないいけない。
私は雑念を振り払うと急停止して体を振り向かせて、息を少しだけ整えると警棒を構え直す。
「いい加減落ちなさいよ!」
『gii!?』
私が警棒を大きく横凪に振ると化け物は巧みな空中機動で一気に後ろに距離を取る。
この隙にまた私は向きを180度変えて走り出す。
幸いあの昆虫も傷ついているせいか急な速度の変更には対応できていないようで助かっている。
今のうちに入口までの距離を稼ぎたい。
そう思って走っていると、目の前の廊下を何故か黒い壁が動いているのが視界に入ってくる。
…まさか新たな化け物か!?
新たな化け物の出現に警戒を深めるけど、すぐにその黒い壁の両脇に見慣れたカギ爪のついた足が多数有ることに気付く。
この足…私の背中に傷を作った奴とそっくりだよね?
というかむしろさっき私達をだまそうとした画面の化け物と同一じゃないかな?
しかし、先ほどとは違い足音を立てて走っているはずのこちらに気付いておらず、むしろ前へ少しずつ進んでいる事から…。
あいつは背中を向けていてこっちに気付いてない!
そう判断すると展示ルームを突っ切るよりもこいつをどうにかした方が早く入口に着くと計算する。
それならば…。
「邪魔ぁーー!」
私はさらに走る速度を上げて廊下の地面を蹴り飛び上がる。
その速度を利用して黒い壁に向かって右足を前に出し勢いのまま壁の化け物を蹴り飛ばす。
『papi!?』
奇襲だったおかげか壁の化け物は私の攻撃に対処できずそのままジタバタと両脇の六本の足を忙しそうに動かす。
けれどそれだけでは面積が広い巨体を支えきることができず、蹴られた勢いのまま前に倒れ込み衝突音を立てながら廊下に激しく突っ伏した。
『bugyogo!?』
そのまま私は新たな廊下となった壁の化け物の上を力いっぱい走り抜けていく。
私が踏みつけるたびに下の方からガラスが割れる音と共に化け物の声が聞こえてきたけどそんな些細な事は気にしている余裕はない。
すぐ後ろには再び距離を詰めつつある昆虫の化け物が羽音を立てながら近づきつつあるのだ。
私は距離を取るため、入口へ向けて必死に走り続けた
すいません短いですが気力が続きませんでしたのでここで切ります。
本当申し訳ない。