17.イベント2日目 発電室
押さえた扉の向こう側が完全に静かになると私は深くため息をついて状況の整理を始める。
化け物に追われた。
→何とかまいた…はず?扉の外にまだいるかもしれないので音を立てないようにしたい。
ここどこ?
→来たばかりでわかるわけがない。要調査。
アンズは?
→頭ぶつけてたけど頭蓋骨陥没してなければ生きてるはず。
時間は?
→結構使ったはず、美術館から外へ出るころには二時間使っちゃうんじゃないのかな?
…よし、まわらない頭で何とか考えをまとめた。
しかし何でこんなにクラクラしてるんだろ?
ああ、そうか血を流しすぎたせいか…これまた懐かしい出血状態のクラクラが久しぶりに襲ってきているのだろう。
フラフラとなっており意識が飛びそうになる。
頭の中で状況の整理が終わるとアンズが這いつくばりながらこちらに近寄ってくる。
…どうやらバテバテで立ち上がる体力も残ってないらしいけど…体力の設定って人によって大差ないはずなんだけど何でこんなに疲れてるんだろね?
「ニミリ大丈…フギュ!?」
アンズの頭の上にかかとを落としながらアンズをとりあえず黙らせる。
騒がれて外にいるかもしれない化け物、部屋の中に潜んでいるかもしれない化け物を刺激したくない。
「あ、ごめん這いずってくるからゾンビと勘違いしちゃった。後、大声出さないでね?まだ安全じゃないんだから」
「ニミリの私への扱いひどすぎないかしら?」
抗議の声に私はこれまでを振り返ってみる。
思い起こすと…最初から変わって無くない?
「十年以上変わってないから今がひどいという事はないはずだけど?それよりアンズ栄養ドリンク持ってきてたでしょ?強い方ちょうだい」
「栄養ドリンクでは背中の傷は治らないのではなくて?」
アンズが訳の分からない顔をするけどとりあえず栄養ドリンクを手渡してくれる。
蓋を開け一気に飲み干すとクラクラする眠気を追い払う事に成功する。
「ありがとね、ちょっと血を流しすぎたせいで眠気が襲ったようにフラフラしてたから助かったよ」
「…それは強引に眠気を飛ばしただけで解決にはなっていないのではないかしら?」
「そうだよ?いつ出血死してリタイアするかわからないからそれまでに回復手段を探すか、セーフエリアを探すか…まあそんな都合よくは行かないだろうから最悪アンズは一人での行動を覚悟しておいてね?」
私が笑顔でおちゃめに宣言すると何故かアンズが不服そうな顔をする。
まあこのお嬢様を一人で放り出しても…生き残れるか不安かな?…不安しかなかった。
それなら残された時間を無駄にするわけには行かない。
やるべきことを成すとしよう。
「とりあえずここがどこかだけど…」
「それならとりあえずこれを見ていただけませんか?」
アンズが指さしたのは暗い中でも整然と並べられた機械郡…おや、これは?
「うーん発電機かな?」
「という事は当たりという事でしょうか?」
「そうかもしれないね…という事は発電機のスイッチかブレーカーか…とりあえず壁際に何か設置されてるかもしれないから探してみて」
「く、暗いですけどがんばりますわ」
真っ暗闇の中を手探りしながら壁をぺたぺたと触りつつアンズが闇の中へと消えていく。
さてと私も探さないとね。
そう考えて歩き出すと何かを蹴飛ばしてしまう。
カランと言う乾いた音がコンクリートの床に響き渡る。
…まずい物を蹴飛ばしたかな?
警戒して近づくと…これはプラスチックのケースの中に液体が入っている小物みたいだね。
拾い上げて確認すると上の方に金属製の部品が付いている。
カチャカチャといじってるとボタンを押すところがあったので押してみるとこすれる音と共にケースの上からシュボっと火が灯される。
あーこれは使い捨てのライターかな?
灯りのおかげで周りがよく見えるようになったしいい物を拾ったみたいだ。
液体の量は…少ないね。
まあいつ消えてもいいと思っておくかな?
私がライターの使い心地を無邪気に確認していると見えない部屋の奥からアンズの抑えられた声が響いて来る。
「ニミリー?箱のようなものがあったのですけれどどうすればいいかしら?」
何か見つけたのかな?
とりあえず灯りを見つけた以上私が行って確認するしかない。
ライターの火を頼りに部屋の奥へと進んでいく。
すると少し歩くと灯りに照らされてアンズの姿が見えてきた。
全身をライターの火の灯りに照らしてみると…壁に設置された箱にアンズが抱き着いている。
…何してるの?
私が不可解な顔をしているとアンズが嬉しそうな声でこちらに話しかけてくる。
「どうですか?きっと重要な物と思うのですけど…ってニミリ灯り見つけたのですね?」
「明るくていいでしょ?さて何を見つけたのかな?」
ライターの灯りを近づけると確かに箱が設置されている。
横に何かボタンのようなものが付いている。
私がボタンを押すと箱のカバーが開き、中身が明らかにされる。
中身はと言うと…複数のレバーであった。
「多分電源レバーと思うけど…?」
これが警報のレバーや罠のレバーだったら何でこんなのを仕込んだと運営を呪ってやればいいかな?
…どっちにしろ選択肢が無いしやるしかないか。
「アンズ、レバー全部上げちゃっていいよ?」
「はーい」
アンズが力をかけながらレバーを片っ端から上に上げて行く。
最後のレバーを上げ終わった時、部屋の中の蛍光灯の灯りが付き視界が白く照らされた。
多分アンズが上げた順番は最上階から順に電気が復旧していったという事だろう。
明るくなったことでより気分が軽くなり、次の方針を決める。
「とりあえず電機は復旧したから入口へもどろっか?」
「その前にこの部屋にも役に立ちそうなものがあったら拾っておいた方がいいのではなくて?」
…もっともな意見なので私も同意する。
使えるものがあった方が戻れる確率も上がる…かもしれない。
「うん、それでいいと思う。アンズは左回りで、私は右回りで入口の所で集合しよっか?ここもセーフエリアじゃないから音立てないように危ないかもしれないから慎重にね?」
「はい。それでは扉の前で会いましょう」
そう言うとアンズは発電機の間や床を探しながら反対周りに遠ざかっていく。
私も見て回るかな。
すっかり消し忘れていたライターの火を吹き消して消すとポケットにしまい込む。
そして私もアンズとは逆の方向に向けて歩き出した。