15.イベント2日目 一階廊下
真っ赤な絨毯が敷き詰められた薄暗い美術館の廊下を私達はゆっくりと身をかがめながら進んでいく。
両脇の壁には絵画や壺などが等間隔で飾られているけど、今の所危険な物とは出くわしていない。
…怪しい物とは幾分かすれ違った気がするけど。
そんな不気味で静けさだけが支配した空間をできるだけ足音を立てずにゆっくりと歩いていく…なんかそれっぽい感じが出ていいんじゃないかな?
「ねえニミリ…そろそろ膝と腰が痛いのですけれど普通に歩きませんか?」
…アンズのこの一言のせいで台無しである。
後ろから聞こえてきたアンズの小声に脱力すると私は飽きれながら振り返る。
アンズは鍛え方が足りないんじゃないかな?
「アンズ?そんな背を高くして歩いてたらまた眉間を撃ち抜かれるよ?」
「それでもこのまま膝と腰が痛いですといざという時に走れないのではないかしら?」
「大丈夫人間いざという時は走れるよ。本当にダメな時は絶望して呆然と立ち尽くすらしいから」
「…ニミリはひどいと思いますわ。体調管理を万全にして進むのも大事だと思いますわよ」
『そうですわよ、幸いそこの右に休憩室がありますからそこで少しだけ休みませんか?』
「え?えーっと?本当にあるね?」
確かにガラス張りの扉の向こうにお洒落な木製の椅子やテーブルが設置された喫茶店のようなスペースが目視できる。
私は話を合わせながら相槌を打つ。
「いいですわね。ゆっくり座って少しだけでも休みましょう」
「そうだね…少しぐらいならいいかもね?じゃあ行こうか?」
そう言うと私はスカートに差し込んでいた警棒を取り出してそのまま柄の部分を壁に叩き付ける。
叩きつけた先からは機械が壊れる音が廊下に響き渡る。
その音が鳴り響いた場所から残骸が床に散り落ちていきバチバチと音を立て続けている。
「アンズよかったね!普通に走れるよ!ほら早く早く!」
「え?いきなりどういう事なのかしら?」
「理解はしなくていいからとりあえず走って!」
全く理解が追い付いていないアンズの両肩に手を置き立たせるとそのまま体を180度回れ右をさせると引き締まったお尻を蹴飛ばす。
するとアンズは訳が分からないまま蹴られた勢いでそのまま走り出す。
私もその後について全力で走り出す。
背中では何か機械が駆動する音が引っ切り無しに鳴り響いており、その音源は壁から廊下の中央に移動しつつある。
そりゃまあそうだよね。
地図スキルに載っていないような休憩所に誘導しようとしていたなんて不審な点しかなかったからこの結果は予想がついていた。
ちゃっかりと会話に加わって誘導しようとしていたのは、拡声器の先っぽだけを付けたカミキリムシのような小さい昆虫だった。
それが壁に張り付いて自然に会話に加わっていたのである。
叩き潰した時に壊れた事や血が出る代わりに電気的なエフェクトを出していた所を見ると後ろからガシャンガシャンとけたたましい足音を立てて追いかけてきている本体の端末といった所なのかもしれない。
一応話を合わせてぎりぎりまで時間は稼いだつもりだけど…追い付かれるのは時間の問題だと確信している。
「この先の右に壺だけの展示スペースがあったでしょ?あそこに飛び込んで!」
「そこってニミリが怪しすぎるって飛ばしたのではなくて?」
「このままだとそれ以前にあれにやられるから展示スペースを抜けて通り抜けるしかないよ!」
「あれって何なの!?」
…そういやよくは見てないね?
興味本位で後ろを振り返ると…壁が迫ってくる?
いや…壁じゃなくてあれは画面…ディスプレイかな?
…なるほどあれに擬態する映像を映して画面の下についている破砕機のような細長い口で人をすり潰しながら食べてしまうという事かな?
そしてかぎ爪が先についている細長い金属製の足をディスプレイの隅から三本ずつ、合計六本の足を器用に動かしてこちらに向かってくる。
重要なのはそこでは無くこちらの走る速度よりあっちの方が速いという事だね。
しかし距離的にはすぐそこなので間に合うはず。
というかもう見えている。
先に到着したアンズはこちらに振り返りながら息を切らせつつ言葉を吐き出す。
「ぜぇ、はぁ…つ…着いたわよ…ってあれ何なのかしら!?」
「つべこべ言ってないでさっさと入って!」
アンズを展示ルームの中へ蹴り込むと私も展示ルームの中に駆け込む。
その直後、廊下を巨大な物体が去り行く音が過ぎ去り、巨体が急停止するために壁や床に力が加わり物が砕ける音が連続で響き渡る。
「はぁ…ようやく一息…」
「まだ終わってないってば!」
そう言うと気を抜ききったアンズの頭を腕で押さえて床に叩き付ける。
私も同時に身を投げて伏せたけど間に合わず背中に痛みが走る。
「痛ぅ…」
背中を見ると…赤い液体が飛んでいるのと先ほどの巨大な化け物の四本の鉤爪が振りぬかれているのが見える。
これは…追撃が来る。
急いで移動しないといけない。
「アンズ身を伏せながら進んで!」
そうアンズに先に進むように促すと私は懐から空き瓶を取り出し展示ルームの奥へと向かって放り投げたのだった。
アクションシーンって書くの難しいです。
自信がどこかに落ちてないか拾いたい所です。




