12.veryhard 車の正体
「ひ…!」
私はとっさに自転車と共に転がり込んだ。
空が暗くなって黒くなってきてるなんて私の上に何か来ている以外考えられない。
そしてその判断は正しく、私のいた位置には轟音と地響きが鳴り響く。
で、私は無事かというと…
「ゲホ…ゴホ…いっつぅ。」
地面が砕けた時のコンクリートの破片が頭にわき腹に足に叩きつけられ痛みを訴えてくる。
そして自転車の方も。
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【シティサイクル(歪み)】
ママチャリと呼ばれる。
フレームが若干歪んでいる。
かごが歪んでいる。
重量:未測定
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うわぁやっぱりコンクリート片にぶつかって壊れてるよ。
これ走れるのかな?
それにしても敵なんかいなかったはず、一体どこから?
私は下手人を確認しようとよろよろと体を起こしながら震源地を確認する。
私の視界に入ったのは、道路にめり込んでいた車のトランク部分が持ち上がっていく光景である。
何を言っているのか自分でもよくわからない。
わかるのは車の後部トランクで叩きつけられた?
誰に?
私が混乱していると交差点に停まっていた廃車からクラクションが鳴り響く。
…誰も乗ってなかったよね?
そう考えていたけど今度は車が変形し、車輪の部分の所で四本に裂けて長く伸びていく。
ヘッドライドの部分は前の方に折りたたまれ…似たような変形をした車と合体した。
呆然とスライドクイズみたいに正解に近づいているので私にも段々とわかってきた。
「蟹かな?」
車二台を用いた変形ロボの蟹である。
ゾンビであったり、奇形な動物ばかりであったのに予想外でびっくりした。
そんな蟹が八台と四匹分が変形を終えようとしている。
そして奥では、廃車の山がズズズと上にせりあがっていく。
下からずんぐりと顔とはさみを出したところでこちらも何かはわかった。
「あの廃車の山の隙間にちっこいのとか隠れてるかもしれないと見てたけど、そう来たかー。」
隠れているのは隠れていた。
ただしスケールが私の予想をはるかに裏切る。
「まさかあれがヤドカリの殻とか…。」
そこで私はハッとする。
うっかりと変形シーンや登場シーンを眺めてしまっていたが、これは逃げないとまずいパターンである。
私は壊れかけの自転車にまたがりそのまま坂道をくだっていく。
待ち伏せ型ということでこれであきらめてくれないかな?と淡い期待をしていたが、やはり期待通りには行かないらしい。
必死に漕ぎながら風を切って坂道を下っていく私の後ろからはガチャガチャとけたたましい音が複数追いかけてくる。
ちらっと振り返ると蟹達が横になりながら脚を動かしてこちらを追いかけてくるのが目に入る。
けど下りの坂道であったのが幸いであり、距離はだんだんと離れていく。
「あっちの方が大きいけどタイヤと脚なら坂道の分自転車で逃げ切れる!と思う。」
そう後ろをよそ見していた時だった。
前方で何かがぶつかる音が鳴り響き道路が揺れる。
慌てて前を見た私は車が道路から生えているのが目に入る。
なんとかブレーキを駆使しながら急ハンドルを切ってぶつからないように障害物の車を回避する。
しかし、ブレーキをかけた分差が縮まってしまい今度は蟹に肉薄される。
蟹は距離が届くかわからない位置からもはさみを振り上げ横に薙いでくる。
「ひゃい!」
なんとか姿勢を低くし、頭の上を鋼鉄のはさみが通り過ぎていく。
風と緊張感が全身を冷やしてくれるがそれに感謝するわけにもいかない。
私は気を取り直してまた自転車で坂道を下り始める。
そもそも自動車なんてどこから生えてきたのよ?
そう考えていた私だったがまた坂道の前方に車が突き刺さる。
…空から飛んできたね。
飛んできた方をちらっと振り返ると巨大なヤドカリが自分の殻の車を手に取り射出しているのである。
「何で自分の殻投げてるのよ!?家なんだからもっと大事にしなさいよ!」
しかし飛んでくるとわかっていればこちらも手の打ちようがある。
直撃されたらあきらめるしかないが少しずつジグザクに漕ぎながら狙いを絞らせないようにする。
着弾した車は投げる方角からあらかじめハンドルを切っておけば速度をなるべく落とさないで逃げることもできる。
やがてヤドカリの視界から外れたせいだろうか?
飛んでくる車はなくなった。
蟹のほうも何故か数は増えているが距離を稼ぐことができた。
「これでなんとか今回も逃げきれたかな?」
ちらっとまた後ろを振り向いてみると蟹達はガチャガチャと脚を動かすのを止めて姿勢を低くしはじめている。
私はなんとかなったと大きく息を吐き自転車の速度を減速させる。
「いい加減疲れてきたよーー。出口どこーー。」
そのような本音の軽口をたたいていたのが悪かったのだろうか?
蟹達の方から一斉に音が鳴り響く。
「「「gyuooo---n!」」」
「…あれ、鳴き声じゃないよね?エンジン音?」
そこで私は気づく。
あの蟹達はもともと何が変形したものだったのか?
そしてあの脚は何が分かれてできたものだっただろうか?
私の考えがまとまるよりも早く蟹達は脚の八輪でタイヤ走行をはじめる。
合体して二台分の馬力があるせいだろうか明らかにこちらの壊れかけの自転車より速い。
「やっばいな…どうすれば?」
状況はこちらに不利な要素しかない。
このまま逃げる?それとも自転車を捨ててどこかに潜むべきかと考えをめぐらす。
そんな最中、空からも新手の音が鳴り響いてきた。