6.ブラックマーケットワールド その4 【白虎組事務所】
誤字報告いただきありがとうございます。
反映しました。
「目の前右手に見えますポツンとたたずむこの無機質な建物。こちらが白虎組事務所になります」
先にワープしていた桃ノ木さんがコンクリート製の雑居ビルを指しながらバスガイドのように解説を続ける。
段々と慣れてきたのか随分とのりがよすぎる。
「こちらは朱雀会と違って和風暴力団…まあ一言で言えばヤクザね。こっちの組織はゲームのモンスター災害の影響で組織が半壊した事で立て直しに奔走しているという設定みたいよ」
「それでもって裏社会同士で朱雀会と仲が悪いというわけです…よね?」
…このワールド大丈夫なのかな?
PVPは出来ないよう設定されているのは確認したけど…ここ床が光ってないんだよね?
という事はエスケープはできるけどセーフエリアでは無いんじゃないかなと私は予想している。
「事務所はわかったのですけど…お隣に建っている和風のお屋敷は何でしょうか?」
アンズはコンクリート製の縦長ビルの横に鎮座して、幅広く面積を取っている優雅な日本家屋を指さしている。ここからでも塀の上に飛び出ている立派な松の木であったり、家屋の上の部分の瓦吹の屋根が見えている。
「こっちは白虎組の組長宅みたいで普段は幹部NPCはこちらに控えているみたいね。今は勧誘のせいもあってか事務所ビルに来てるみたいよ?一度見に行ってみましょうか?」
私は頷いて桃ノ木さんの後についていこうとした所でふと気になったことがあり質問をする。
「そう言えば何で青龍市役所は飛ばしたのですか?上から順だと次は市役所だと思ったのですが?」
私の問いに桃ノ木さんは困った顔をして唸るとそのまま私の方に振り向いて回答をする。
「まあ一言で言ってしまうと…組織としての魅力が紹介するほど無いので飛ばしたのよ。どうしても気になるなら後で行ってみるといいわよ」
苦笑しながら言っているけどどうやらその困り顔具合から見て嘘は言っていないのだと思う。
いわゆる不遇なパターンなのかな?
まあ時間があるなら寄ってみてもいいのかもしれない。
開けっ放しのガラス扉の間をくぐるとこれまたプレイヤーで一杯である。
けど人の流れ自体は制御できているようで止まることなく少しずつだけど中に向かって移動はできているようだ。
…まあ中には待つのが我慢できずにコンソールを開いてワープして離脱している人もいるみたいだけどね。
案内をしているNPCは朱雀会と同じように強面のお兄さんたちである。
朱雀会と違うのは、あちらがびっしりとオールバックに黒服にサングラスで服装が統一されていたのに対しこちらは統一性が無いという事かな?
黒服のサングラスもいれば白服の普通眼鏡もいるし、チンピラのようにアロハシャツを着崩しているのもいる。
果ては上半身裸で昇り虎の入れ墨をさらけ出している角刈りのNPCまでいてバリエーションはさまざまである。
…このゲームってやっぱり力の入れどころ間違えてないかな?
そんな割とどうでもいい事を考えていると私達は人の波に流されるままに会議室内に運び込まれる。
会議室…と言ってもテーブルやパイプ椅子は折りたたまれて壁際に寄せられている。
まあそんな物を置いておいても通行の邪魔にしかならないしね。
そして会議室に入って一番目に入るのは…、やはりわざわざ設置されたような壇上かな?
壇上には一番高い所に座った活発そうな白髪の女の子が身振り手振りも交えて快活に演説をしている。
『皆さんまずは白虎会に足を運んでいただきありがとうな!情けない話やけど白虎会はわけのわからんばけもん共の襲撃により人手が足りてへん!このままやとあのばけもん達や朱雀会とかいう外の奴らの跳梁を許してしまう事になる!このままやといかんのはわかっとるけど残念ながら力不足や。そんでもってカタギの衆に力を借りなあかん状況に陥ってしまっている情けない私等に力を貸してほしい!』
そう言い切ると小さい体を折り曲げて頭を下げて演説を終える。
その度に周りに控えている強面から制止が入る。
『何もお嬢が頭下げんでも…』
『こちらはカタギに無理してお願いしてんやで?頭ぐらい下げんでどうするんや?そうやさかい皆さんよろしゅう頼んますわ』
再び頭を上げると子供らしい無邪気な笑顔を浮かべこちらに手を振ってくる。
それに合わせて周りのプレイヤーは可愛い!とかもてはやしている。
中でも一番手前で声援を送っている金髪ドリルの女性プレイヤーが一番うるさい。
…まあこれが一セットなのかな?
演説はこの繰り返しになるのではないかと思う。
「あの子、かなり狡猾ですわね…。先ほどのような飾りでは無さそうですわね」
…アンズさんは別の観点でNPCの話をしてるみたいだけど無視しておこうかな?
いや待てよ…アンズが反応しているという事はあの子が組長…そういやムットリーニさんも同じ事言ってたね。
どうやらどの組織も女の子を旗頭にしているのは間違いないみたいだ。
少女の演説が終わるとまた人の流れが再開する。
そのまま会議室から押し出されるように人の波が動き始める。
バランスを崩しつつゆっくりと部屋の外へと追いやられている最中、桃ノ木さんから声がかけられる。
「ニミリちゃん達ーー!出口まで律義に行く必要ないからこのまま次の玄武商店会へワープするわよ!ここの情報確認したら跳んでね!」
そう言うとコンソールを操作して桃ノ木さんが消えた。
先行して次の目的地へ移動したのだろうね。
私もここの情報を確認したらワープする事にしよう。
--------------------------------------------------------
【白虎組】
加入条件:
1.他組織に所属していない
2.入会金300貢献ポイントを納める。
取引条件:
1.朱雀会プレイヤーへの販売ができない。
2.プレイヤー取引が成立するたびに売上の20%を組織へ上納する。
特典:
1.一定以上の組織貢献が見られる場合、ショップ、施設がプレイヤーへ解放される
2.プレイヤーショップ用に白虎組NPCの派遣(有料)
3.通常ワールドマップへ白虎組NPCの派遣(制限有・有料)
組織離脱ぺナルティ:
1.白虎組プレイヤーと取引ができない。
2.組織離脱後の二日間は他の組織へ所属する事は出来ない。
3.組織離脱後に白虎組および青龍市役所へ所属する事は出来ない。
4.組織貢献ポイントは0にリセットされる。
--------------------------------------------------------
なるほど朱雀会とは対になっている点が多い。
けどわずかに違う点がある。
入会金はこちらの方が安い…けど優遇期間中である今は無料なので差は無い。
売上のピンハネはこっちの方が10%も高い。
しかし、NPCの派遣が通常ワールドへもできる…これは臨時雇いのサポートユニット扱いかな?
攻略という点では使えるのかもしれない。
しかし離脱ペナルティは朱雀会よりも重たい。
こちらは再入会お断りといった所かな?
仁義とか破門とかよくわからない理が裏で実装されているのかもしれない。
一通り白虎組の情報を確認して周りを見回すとアンズもムットリーニさんも既にいない。
どうやら私が一番最後かな?
あまり待たせたらまずいなと思い、慌ててコンソールを操作して次のポイントへワープする事にした。