27.新システム「サポートユニット」
「呼ばれたのは俺だけど受け取るのは俺じゃないからとりあえず付いてきてくれ」
微妙だった空気をぶった切ってくれるサカキさんは本当に頼りになる。
皆様の視線からフェードアウトするように私はそそくさと移動をする。
そう自然に離脱したつもりだったのだけど…何故かお隣様も含めて全員付いてくるのである。
「何故全員付いて来るのでしょうか?」
「そりゃあエリアボスだぜ?サカキ程じゃないけどどれだけ貰えるのかワクワクものだぞ」
「お隣の皆様は分ける相談とかしなくていいのですか?」
「四人で5ポイント分けるだけやで?ジャンケンで勝ったんが2ポイントでええからな。むしろこっちの方が気になるわ。」
私は深々とため息をつく。
こっちの方が明らかに注目を浴びてしまうのは…まあ気は進まないけどやむを得ない。
しかし情報漏洩し放題のためこちらの方も個室で処理できるようにすべきじゃないのかな?
「これって情報だだ洩れですよね?ここに張り付く人とか出るんじゃないですか?」
「まあだだ洩れなのは仕方ないな。けどここに張り付くような物好きはいないと思うぞ?貴重な二時間しかできないプレイ時間をここへの張り付きだけで終わらせるようなのは…いないとも限らないか?」
サカキさんも苦笑しながら進んでいる。
まあ注目され続けるのも困るのでさっさと終わらせる事にしましょう。
檻の横にカウンターが設置されており、そこに女性の受付NPCが座ってこちらへ微笑んでいる。
『ようこそいらっしゃいました。お受け取りの手続きを開始させていただきます。まずお受け取りの責任者はサカキ様で宜しいでしょうか?』
「いや、右にいるニミリさんに変更してくれ」
『かしこまりました。では手続きを開始します。お受け取り者の設定をお願いします』
「私とアンズで二等分でお願いします」
「え?私もいいのでしょうか?」
アンズが驚いたような顔になる。
まあ厄介ごとは押し付けられたけど下水道進行の際の索敵およびハリスン君の餌になるという役割は果たしてくれたので山割で問題ないと思う。
しばらくNPCがカタカタとキーボードを操作してカウンターに設置されているボードを見ている。
…本来なら内部処理で終わるはずだから演出かな?
こういう所はこのゲーム細かいよね。
しばらくするとNPCが困った表情を浮かべながらこちらを向いて来る。
何か問題があったのかな?
『ニミリ様、アンズ様まずこちらの生命体の貢献ポイントは8,000ポイントになります』
「8000!?」
「うちの…えーと百倍以上か?」
「嘘…」
外野の皆様は少し静かにお願いしたい。
流石エリアボスだけあってveryhardの雑魚の化け物の倍以上ポイントは貰えるようだ。
『残りの個人の貢献ポイントを算出した結果なのですがサポートユニットの取得条件を満たさなくなってしまいますがよろしいでしょうか?』
…サポートユニット?
何のことやら?
周囲を見回してみると…まあ首をひねっている人がほとんど…いや全員かな?
どうやら他のプレイヤーに聞いても埒が明かなさそうだね。
そのままNPCについて聞いてみよう。
「話を遮りますけどサポートユニットとは何の事でしょうか?」
私の質問によりNPCが説明を続けようとした口を止めて、暫し考え込んでいる。
そして切り替えが終わったのか淡々と説明が開始される。
『サポートユニットは特定のエネミーを所定の条件を満たすことによって入手できる、プレイヤーの補助を行う便利ユニットになります。用途はこのハリネズミですと戦闘の参加が主になると思われます。他にも生産専用のサポートユニットや情報処理専用のサポートユニット等様々なサポートユニットが用意されています。是非お探しになってみてください』
まあ字の如くお手伝いさんが追加されるという事かな?
私が考え込んでいる間にNPCは機械的に先ほどの説明の続きに入っている。
『このクレイジーヘッジホッグをサポートユニットとして取得する場合、貢献ポイントが8,000必要になります。二等分にすると取得はできずこの生命体は解体処理されます』
なるほどなるほど。
振り返って見てみると解体処理と聞いてお隣の女性プレイヤーを筆頭に何人か顔をしかめている。
あれは可哀そうとかそういう顔っぽい…いやその通りかな?
「サポートユニットとして取得した場合の報酬の差はありますでしょうか?」
『解体分析を行わないため貢献ポイントで購入できる物資の追加はありません。こちらが差分になります。サポートユニットにせずに解体処理をした場合は…ルームメンバー全員に貢献ポイントで購入できる物資の追加が適用されます』
ふむ、要するに購入できる物資の追加にはもう一回これを倒さなきゃいけないのか…。
私が考え込んでいるとサカキさんたちが横から声をかけてくる。
「ニミリ?私の配分は無しでも構いませんわよ?」
「アンズさんがいいのなら、こちらの事は気にせずに無理して取ってしまっても構わないぞ?」
「そうだな、一回やれたんだ。もう一回ぐらい付き合うぜ?」
ルームメンバーからありがたい声がかけられるけどそうは問屋が卸さない。
これをサポートユニットにした場合倒す手段がもう無いのだ。
「言っておきますけどもう一回捕獲する為の手段は無いですよ?」
「あの毒の弾だっけ?あれを用意すればできるんじゃないのか?」
ブラックさんから当然の質問が来る。
確かに弾丸が用意できればできる…できるけど。
「あれ一発当たり400ポイントかかりますよ?」
「は!?」
アンズを除いて周りのメンバー全員があんぐりと口を開けている。
高いもんね。
私もやけくそ的な思考をしてなかったらこの計画自体起こしていなかったし。
「それが三発…1200ポイントかかってますよ?」
「まずそれだけポイントを持っていたことに突っ込みたい所だが…確かに駄目だなそりゃ」
「けどこんなに可愛いのに解体は可哀そう…」
隣の女性プレイヤーから憐憫の声が届く。
まあ可愛いけどね。
…もうちょっと情報収集して考えてみるかな?
「サポートユニットは消失しますか?」
『ワールドへ連れて行って戦闘不能・回収できない場合はそのままロストします。救済措置等は課金アイテムを用いてもありません』
なるほどこのゲームでは気軽に使い切る物として考えておいた方がいいかもしれない。
この際だから色々と聞いておこう。
「サポートユニットの状態等の確認方法は?」
『マイルームの固定コンソール画面より把握する事が出来ます。サポートユニットへの指示だしも口頭で直接する以外はこちらから可能です。また定期的な活動の設定もこちらからできます』
「サポートユニットもケガをした場合はプレイヤーと同じようにマイルームに戻れば全て元通りに回復するのでしょうか?」
『サポートユニットはプレイヤーと異なり怪我、状態は引き継がれます。マイルームの時間経過で怪我は自然治癒されていきますが一部細菌や病気は継続してサポートユニットを悪化させロストにつながる可能性があります。こちらはマイルームでもロストになるケースになります。アイテムまたはマイルームの特殊施設により回復させることが可能です』
…プレイヤーと違って戻れば全回復という事は無いらしい。
と言うかマイルームでもロストの可能性があるって最初から説明しておいてくれても…。
…何か怪しい。
怪しいというよりもプレイヤーが判断を誤るように意図的に必要な事しか言わないよう設定されているのかもしれない。
もうちょっと聞いてみよう。
「サポートユニットの個人所持数の上限は?また上限数があるならその際に既存のサポートユニットは同様にこちらで引き取ってもらえますか?」
『サポートユニットの所持上限はございません。マイルームに入る限り、維持コストさえあればどれだけでも所持できます。また不必要なサポートユニットは同様に当研究所で引き取り可能です。当然状態は引き取り時のもので随時査定をさせていただきます』
「サポートユニットが勝手にマイルーム内のアイテムを荒らす可能性は?」
『ありません』
「複数サポートユニットを所持した場合…喧嘩や共食い等が発生する可能性は?」
『喧嘩や共食いではありませんが…相性が悪い場合は事故は発生します。例えば電気が苦手なサポートユニットと帯電しているサポートユニットを同じマイルームに入れておくと電気が苦手な方は弱ってロストする可能性があります』
熱帯魚の飼育かな?
グッピーみたいに攻撃的で共食いは発生しないみたいだけど。
他に気になる点は…そうだ。
「さっき話にありました維持コストって何です?」
『当然サポートユニットも毎日エネルギーを補給しなければいけません。生きていますからね』
へーそんな所をリアルに作ってるんだね。
確かに毎日の食事は大切だ。
…ちょいと待った。
「ちなみにこいつの維持コストを教えていただいても?」
『毎日二十キログラムの食糧ですね。肉・野菜・果物・魚なんでも構いません。雑食ですから。ああ、けどゾンビや変異生命体は食べないようです』
「よくわかりました。解体でお願いします」
『かしこまりました』
NPCが頭を下げるとハリスンが入った檻がクレーンで徐々に引き上げられていき、上がり切るとそのまま施設の奥へと横移動していき小さくなっていく。
檻の中から悲痛な鳴き声が聞こえたけど私にはどうしようもない。
私は両手を揃えて黙祷を捧げる。
どうかおとなしく私の糧になってほしい。
恨むならどうしようもない維持コストを抱えた自分自身を恨んでね。




