26.総合研究所 捕獲・鹵獲専用エリア
総合研究所に転送されたはず…だと思ったけど、また前回と違う場所に転送されたようだ。
真っ白い空間に個室があるところまでは変わらないけど異なるのは外だ。
外の方へ窓はついておらず、個室から内側の施設へガラスの壁で区切りが付いている。
そしてガラスの向こう側は…車庫のような広々としたスペースが目の前にあり、その奥の方には多数の檻やカプセルが所狭しと並んでいる。
また何か条件を満たしたことで別の場所へ転送されたのだろうか?
私が首をかしげているとサカキさんが説明をしてくれる。
「あぁ、ここへ来た事は無い奴の方が多いはずだよな。こっちは生きたまま捕獲、または動作状態での鹵獲をした時、または個室に入らない巨大な奴を持ち帰った時はこちらへ移動される…筈だったよな?吸い殻」
「あってるぞ?大体ここへ来るのはheavenワールドでヨワヨワゾンビを生け捕りにした奴がほとんどだからな…。ほら、左の個室も埋まってるだろ?部屋からみて正面の檻に入っているのが捕獲した奴だ。こちらのはまだ処理が終わってないらしいな?どうせ手続きも外出てやるんだしお隣のを見に行くか?」
吸い殻さんの提案に他の男性陣は賛同の歓声を上げて次々とガラス横の自動ドアから外へ出ていく。
…これって結局施設内で手続きするために個室の外へ出る必要があるならわざわざ個室なんて作る必要あったのかな?
そんなどうでもいい事を考えながら私も後に付いて外に出るのだった。
「へえ、こういう感じで余所の捕獲した化け物も見れるのか?」
お茶の介さんの感嘆とした声が響く。
私達はお隣の部屋が捕獲した檻の中のゾンビを見ている。
服はぼぼろだし肉付きはほとんどなくグロテスクな見た目をしている。
性別はもともとは男性で…骨がほとんど見えていてゾンビというよりもファンタジー系のゲームで出てくるスケルトンに近いのかもしれない。
私達が興味津々で見ているとお隣の人達は…まあ迷惑そうにこちらを見ている。
そりゃあ自分達の獲物を興味津々に見られて気分がいいわけはないと思う。
「そっちも同じくヨワヨワゾンビを捕獲して来たんでしょ?自分達のを見ればいいじゃないですか?」
とうとうお隣から苦情が入ったようだ。
お隣は男性三名に女性一名の計四名で女性が我慢できなかったみたいだね。
けどね、お隣のメンバーを押しのけて私達が倍の人数で檻の前に陣取っていればそうもなる。
サカキさんが代表して苦笑しながら謝っている。
「悪いな。こっちはここ初めての奴が大変でな。ちょいと不作法だったかもしれないけど大目に見てくれ。…流石に当事者押しのけて張り付きすぎだぞ。戻って来いよ」
…こちらは全員子供の行動で大変申し訳ないです。
そんな風に思っているとお隣のメンバーとの会話が始まったようだ。
ただ待つよりは話をしていた方が情報収集になると思ったのかサカキさんが積極的だ。
「ああ、こっちも久々にきちんと捕獲出来て気が気で無かったんや。ほら、リコちゃんもそないに噛みつかんでも別にここまで来たら獲物は逃げへんで」
「…そうですね。少し大人気なかったです。三日目にしてようやく苦労して捕まえる事が出来たので」
「それはわかるぞ。ヨワヨワゾンビはちょっとした事で死ぬからな?確保事態は難しくないが後が難しいからな」
「ええ、一人が背負って他の三人がぐるりと周りを囲んでようやくセーフエリアに入れましたので」
「他のハイエナ共がちょっかいかけて腕や足をもごうとしてくるからな。初日何かそのまま連れてこう思うたらゾンビの肩掴まれて真っ二つになってそのまま半分持ってかれてしもうたしな」
…なんだろうヨワヨワゾンビとは要救助者か何かの扱いなのだろうか?
そこまで弱い化け物設置して意味があるのかな?
それにこんな人同士での醜い奪い合いとか私はあまりやりたくないな。
あれ?
そう言えばこの似非関西弁どこかで聞いたような?
私は首を横に倒して考え込むと回答であるお隣の人達を再び視界に入れる。
…確かに見覚えがある。
色黒の肌に金髪のちゃらいキャラメイク。
オープン記念イベントで積極的に絡んできて最後に自己満足して早々に離脱した男だったはず。
えーっと?名前が思い出せない。
まあ思い出せないなら思い出せないでいいかな?
そう考えて視線を切ろうとと思ったけどあちらからは逆に見つかってしまったようだ。
面白そうなものを見つけた好奇の目でこちらに近寄ってくる。
「おお、久しぶりやないかお嬢様方?確かニミリちゃんにアンズちゃんやな?あん時は助かったわ」
手をあげながらこちらへ挨拶してくる。
私はどう返そうかなと考えながらもアンズを見る。
アンズは穏やかに相手を見ているけどあれは何か忘れてしまっている顔だ。
穏やかな顔の下ではかなり葛藤しているね。
「えーっと…どちら様でしたでしょうか?」
「ははは、そら厳しいわな。プリペンや。オープン記念イベントでは世話になったな。お陰で無事脱出できたわ」
その話のやり取りをしているとぎょっとして周囲の人間がアンズを見る。
…そうだ確かペリカンとかプリペイドとかいう名前だと思ってたけどプリペンだったね。
名前が思い出せなかったので喉の奥の魚の骨が抜けたようなすっきりした気分になる。
それはアンズも同じだったようで、穏やかな顔にすっきりした感情が載り会話を続けている。
「そうでしたわね。プリペンさんでしたわね」
「…名前が出てこんかったんか?やっぱ覚えにくいんかいな?」
そう二人がやり取りしていると周囲も情報収集のために騒ぎ出す。
私はどうやら吸い殻さん達に捕まったようだ。
「あの人知り合いか?」
「まあオープン記念イベントで会って成り行きで行動してたんですよ」
「あの人の言葉どおりなら姐さん達もあの生還者二桁、1パーセントの中の一人って事っすか?」
「アンズはそうよ?私は途中で脱落したからね」
「そりゃあしゃあないやろ?というかニミリちゃんいなきゃ俺等全滅やったで?」
あっちで事情聴取されてたプリペンさんがこちらの会話に割って入ってくる。
…私としてはあの時最後に油断してアンズに笑いを取られた悔しさしかなかったけどね。
まあ頑張ったと言えば頑張ったので誰かしら評価してくれるなら良しとも言える。
「あの運営の罠ことオープン記念イベントからの生還か…何があったのかは興味があるな」
サカキさんが興味本位で聞くとプリペンさんが喜々として答える。
「それな、エントランスで逃げ惑う子羊を誘導してロボットの集団を踏み潰してな、その後は地下駐車場で熊三頭相手に一人で近接戦をやってたんや。しかも熊三頭共全部倒してしもうたしな。…そいやあれどうやって倒したんや?」
「まあ最後にもう一頭いるの気付かなくて頭をばっさりやられましたけどね」
…あの詰めの甘ささえなければと後悔している。
しかし私みたいなか弱い女子が熊三頭倒したとか信用するわけないのだからもう少し控えめに言えばいいのにと思ってると周囲の反応はどうやら違ったようだ。
あちらのメンバーは半信半疑でこちらを見ているけどこちらのメンバーは納得したようにうんうんと頷いている。
おかしい何故すんなりと納得されているのだろうか?
「しかしそっかぁ…そのお嬢様二人がいたっちゅう事はそちら大層おもろい事になってるんとちゃうか?」
「まあそれは間違ってないな」
「かぁ!そら羨ましいな。ちゅう事はここに持ち込んだのも半端なものや無さそうやな?どんだけ大物仕留めたんや?」
サカキさんとプリペンさんが楽しそうに会話しているけどあまり注目を浴びたいと思わないのでそろそろ話をぶった切りたい。
私は会話に割り込んで止めることにした。
「別に取るに足らない小物ですよ?そちらでも十分に対処可能な可愛いやつですよ」
「そうなんか?そらまた期待しすぎ…」
話を終わりに持って行こうと動いていたその時である。
私達の話を遮るように大きなアナウンスが流れる。
『サカキ様お待たせしました。捕獲した生命体の処理の準備が整いましたので係員までお越しください』
私達の背のほうでクレーンに吊るされた隣の数倍のサイズの檻が降りてくる。
中には愛くるしい姿振りまく四メートルサイズの巨大なハリネズミが格納されている。
改めて見るこちらのメンバーは待ってましたとばかりに歓声を上げており、初めて見る隣のメンバーなんかは言葉を失っている。
「成程、可愛いんやろうけど…小物?」
プリペンさんに指摘され、私は先ほど自分が吐いた言葉が矛盾している言い訳を探して…そんなものが出るはずが無かった。
諦めて私は力無くぼそっと呟いた。
「これは…そのですね…ちゃうねん」
評価いただけて幸いです。(語彙貧困)
章の締めに入ろうと思って追加入れて終わっていない。
正に計画性が無いダメ人間ですね。