酒場-Gill-
がんばりもす!
テンプル騎士団のギルドは引っ切り無しに依頼が飛び込み受諾され解決されていた。
杉の木を建材に建てられた酒場からは酒と男たちの獣じみた汗の臭いでむせ返り
そうなほど湿度が高くなっていた。
冷えたエールが飛ぶように売れるので麦の需要が高騰してはいる物のさきの事件
の影響で麦畑が汚染され薄められた酒に客達は不満を吐露していた。
「おいッ!こんな水みてぇなエールで五銅貨も取るたぁどういう料簡でぇ!」
「文句は魔物か自警団にいえってぇのこの根性にゃし!」
「このネコバカ娘!元はと言えばテンプル騎士団と貴様が発端じゃろが!」
「自警団とフロムが下手うったせいにゃ!」
ホークアイは放課後、テンプル騎士団のギルドが経営する酒場でウェイトレスを
勤めていた。
丁々発止とやりあっているのはハイエルフの元賢者ブルズアイだ。
ブルズアイは齢2000を超えると言われているが、実際の所は不明である。
テンプル騎士団、設立時の唯一生存しているメンバーという噂だけが独り歩きし
ているが、それも定かではなかった。
唯、ホークアイだけは真実を聞かされていた。
エールが薄まっている事にくだを巻いているのも本心からではなく、自警団の知
り合いが魔獣によって殺されてしまい、ポッカリと空いた心の隙間を埋めに来た
にすぎなかった。
「昔はこう、喉をカーッ!と透き通るのど越しのナマ!っちゅうーのがあったの
に今じゃこのありさまよお~ムニャムニャ」
「飲みすぎはよくないのにゃ」
知らぬわと言わんばかりにヒノ木のジョッキを机に叩きつけ、ぼそぼそと何やら
独り言をのたまう老人。いつもは気丈夫なブルズアイも流石に堪えている様で
いつもは囃し立てるテンプル騎士団の面々も魔獣相手に成すすべが無かったのも
あり、熱気とは裏腹にしんみりとした雰囲気になってしまっている。
「いつまでしみったれてんだ!あんた達それでも玉ついてんのかい!」
外まで聞こえる程の大声で活をいれたのは、酒場のママである猫人族の
雄・・・英雄であるマドンナ・ハイゼンベルグ。
「ついてるだけあるにゃぅッ・・・いっつぁ・・・」
鈍い重低音が良く響く。ママの鉄拳は猫人族だけでなく王都内外問わず知れ渡る剛拳である。
「ひぃいやめとくれぇ!化け猫じゃぁ!」
元賢者ブルズアイもママにかかれば形無しである。後が怖いので飲み食いした分より少しばかり多く、ちゃっかりと銀貨を二枚残し、転移のクリスタルでどこかへと消えた。
「マドンナ。それらしくしませんと、せっかくの美貌が台無しですよ」
フロムはカウンターの隅で似合わず、独りで酒を煽っていたが、やっと口を開いた。時を図ったかのように電信を運ぶ亀の魔獣が酒場のフロムへと刀を運び終えた。
「到着・到着」「捺印・確認」「配達・配達」
亀にそそのかされるまま、フロムは亀の差し出した伝票にサインした。
「完了・完了」「受理・受理」
役目を終えた魔獣の亀はパタパタと出口から出て行った。
「私の刀・・・発信者は・・・」
ラムゥト・・・心当たりが無い訳ではなかった。しかし、名前を聞き損ねた上に”代行運転”という噂でしか聞いたことのない魔獣の姿をした亀が置き忘れた刀を運んできたのだ。思考が停止してもおかしくはなかった。
ママが珍しく哀愁の漂う表情をした。
「昔の話よ。ブルズアイとパーティーを組んでいた時に何度か物資を運んできてくれてたわ。発信者は東の渓谷に雷岩族の長からだったわ、確かね」
「刀、発祥の地ですね。ありがとう、マドンナ。代金はここに」
踵を返し、さっそうと立ち去るフロムを懐かしそうに見送るママの目はいつもより鋭かった。
「待ちな、これ・・・」
「気持ちです。服でも買ってください」
全く・・・とママは後ろ姿を肩をすくめて見送った。
「三銅貨足りないのよ」
誰にも聞こえない程小さな声でやれやれと仕事に戻る事にした。




