電信-Magic-
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浄化魔法を使う事も出来たが、フロムは表皮にできた腫物をあえてナイフで削ぎ落すと
懐から銃弾程度の大きさの試験管を取り出して、コルクを引き抜き格納した。
フロムは死を覚悟したが、他者を助けるため抗体を作る手配を始めた。
ラムゥトは察した――。
経験則によってこの手の魔獣の毒ガスは浄化魔法の作用では手の施しようがない事を知っていた。保存の
魔法がかかった試験管に新鮮なサンプルを詰め込み、後続の騎士へと希望を託すのが目的であった。幼少
より騎士道をたたき込まれたフロムは騎士とはこうあれと死ぬ間際に思い出したのだ。
戦いを経て、かつてない感情に動揺を隠しきれずラムゥトはコアを輝かせた。
ラムゥトはコアから取り出した血清と同じ作用を成す薬草をフロムに与えるべく、歩み寄り、薬草を燻し
煎じて塗り込む。
副作用の眩暈、立ち眩み等は御愛嬌といった所か。
フロムは恥ずかしそうに礼をのべると魔力を足元に収束させて、とんずらした。
フロムの武器はどれをとっても一等級の業物であったが、主を失い只、地面に突き刺さっている刀は礼拝
されている様な波紋を醸し出していた。
ラムゥトはその刀を抜き去ると主の元へと返すために胸部のコアにしまい込み、続けて角笛を取り出した。
通称”代行運転”という名のアイテムである。
息を吹き込むと甲高い音を立て、ものの数秒で次元の狭間を作り出し、そこから搭乗可能な生物を呼び出
すと、眼がくるりとした亀に小さな羽の生えた魔物が現れ、感情のない声色は魔物の個体特有の物であった。
「伝票・伝票・目的地の座標を指定してください」
ラムゥトは武骨な指で頭をかきながら言った。
「人宛にはできんかのう」
「可能・可能」
「でわ、フロム殿へとこの刀を送られたし」
「受理・受理」「発信・発信」
パタパタとどこかで聞いた発声のまま、亀の魔獣は刀を背に乗せて飛び立っていく。
「座席革帯をそーしゃくしゃせー」
ラムゥトは主を置き去りにしていた事を思い出し、更にコアを輝かせる。
「あの、ポカポカします」
ラムゥトは背中の窪みに乗り込んだ主に気づき、どことなくコアも穏やかな光になった。
「主よ、勝手な振舞をしてしまい申し訳も無い。厳密な処罰を下してください」
「じゃぁ、フロムさんと仲良くしてください」
「御意」
ラムゥトのコアは別なる煌めきを魅せて、大仰に跪いた。
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