小鬼-Story-
粉のついたクッキーを貪る小魔獣を蹴散らし、プカードはソレを口に迎え入れる。
プカードの生立ちは不幸にも幸だった。
王国の傘下にあたる職業軍人とは名ばかりのならず者集団であったテンプル騎士団の任務「異種族統一計画」の最中に標的となったゴブリンの巣窟αにて赤子として揺籠の中で発見された。
アッパーの生産原材料を確保するために正義の名の元、王国主導で行われていた任務のおかげで家族を失い、しかし、よりよい生活の基盤を確保する事ができたのだから皮肉な物だ。
プカードが成長するに連れて、アッパーへと手を出すようになってしまうのは必然の流れと言えた。
継続的にアッパーを摂取し続けた異種族を観察するのがテンプル騎士団の二つ目の任務と言えた。多くの
者は肉体が許容しきれず死に至ったが、魔力保有量の上限が高い者はその肉体ないし風貌がより凶悪な魔
物へと似た姿へと変貌していく事が確認されている。
プカードはその一つの良い例として様々な意味で重宝された。
プカードは自らの肉体の変異に気付いてはいたものの、王国の本意を理解してはいなかった。密売と賭け
の胴元で泡いていた銭は嫉妬や嫉みで重ね積もった私怨を晴らすには絶好の機会と言えた。積年の恨みを
晴らすべく、プカードはフロムが主催する闘議会の破綻を望んだ。
賭けの締め切りが近づいた頃、ダフ屋の店じまいを始めるプカードはフロムとラムゥトが矛を交え始めた事に喧噪で気付いた。
それほど、作業に没頭してしまい視野が狭くなっていたと恥ずかしさを覚えるプカードは締め切り間際にラムゥト側に掛け金が偏っていた理由を気に留める由もなかった。
何故か恥ずかしさは怒りへとベクトルを変え、沸々と腸が煮えくり返る様な感覚と焦燥感がプカードを破
滅へと駆り立てる。理由は語るまでもなくアッパーの副作用なのは確定的に明らかではあるが、薬物中毒者に冷静な思考力が残されているはずもなく、唯々時間が早く遅く奇妙な感覚だけがプカードをそうさせた。
酒屋の客寄せとして店前に展示されている甲冑と武器、それからミンゴと呼ばれる普段は気性の穏やかな人語を話す鮮やかな桃色の鳥が目についた。矮小な魔物ではある物の、身の危険を感じると人に助けを求め、薬草に使われる種が排泄物と共に出るという身近な魔物で人はミンゴを可愛がった。
プカードはミンゴに餌をやる振りをしてアッパーを練り込んだクッキーを与えた。その含有量はゴブリン一匹を魔人に変えてしまう程である。
「カリソメ!カリソメ!カリソメパンチ!ポテッポテチ!」
ミンゴは日頃、最も耳にする単語を繋げて囀るのだが、全くどういう意図の単語なのかはプカードには分からなかった。
アッパー入りのクッキーを食べるとミンゴは謎の単語を発せなくなった。
「その点、ポッポってスゲエヨナ、最初までチョコぽっぷり」
次第に文章の様な表現を始めた事に味をしめたプカードは別の魔物に与える予定だったクッキーを放り投
げた。
「ドンタコス!ドンタコス!」「上司のクロレキシュ」「オッォ"エ"エェ"-!」
ミンゴの顔が三つに分裂し、別々の言語を話し始める。
「ウスシオ!タスケテ!」「コリーダーペロペロ」「オロロ”ロ"ロ"ロ"!」
悪臭を放ちながら排泄物を垂れ流す様はまさに混沌と言えた。
籠の隙間から擦り抜けて出た中央の頭がプカードを丸のみにする。
へしゃげた檻が鉄くずに変わる頃、意識と共にプカードの存在は消失した。