覚醒-Drag-
魔鉱石の採掘が順調にすすむにつれて労働者の間ではアッパーとよばれる薬物が蔓延しはじめていた。
激しい肉体労働に耐えかねて休息の際にハメを外しすぎてしまう輩が増えたのだ。
労働者は王国の住民たちから斡旋業者を通して派遣されてくるのだが、実はアッパーの生産者は下弦だったのだ。
度重なる肉体への魔素の重圧によって疲弊した人々は快楽と苦痛を凌ぐために手をださざるをえなかった。
そんな心理をついたのがアッパーによる生業であった。
ヴァレリアは下弦の配下であり売人であるが国土を憂いていた、様々なしがらみによって精神をむしばまれていったヴァレリアが労働者のようにアッパー中毒者になってしまうのは当然の事といえた。
ヴァレリアは粘膜からたれる鼻水をすすりながらアッパーをかくる。
魔鉱石をくだいてハ二―トードの分泌液とまぜ乾燥させた物がアッパーであるが、蛙の粘液を摂取しているとはあまり考えたくはない。
「しっかりと働きなやろうども」
鞭で空を叩きながら労働者に活をいれるのも手慣れたものだ。
採掘区域と生産区域でわかれており、生産区域では賑やかに行商がが行われているのにたいして採掘区域にはある種の禁止令がでていた。
それは商自由の禁止であった。商自由の禁止は裏取引を助長するひとつの要因といえた。
アッパーが採掘区域市場の月収を上回る値段に落ち着いた時かえない労働者達が禁断症状を発症する事となり副作用の魔物化が始まった。
皮膚がハニートードのように色鮮やかになるものや鉱物が皮膚組織から流失する者も出始めた。
そんな最中にアイリとラムゥトは採掘区域にて冒険者家業を続けていた。
完全に堕ちきり魔物とかした労働者の救済、討伐に赴くのが日々となっていたがクエストという名目で使えなくなった労働者を殺す事になってしまうとは思いもしなかった。
採掘区域の下弦が経営する酒場ではアッパーが安くかえるとうたい文句に謎の粉が売られていた。
「まっずいなぁくえたもんじゃないよ。なんだいこのアッパーわ」
ゴブリンの秘薬として流通しているゴブリンの爪茶葉を煎じてのんだヴァレリアは騙されたと激昂した。
アイリはびくりとしてラムゥトの側に隠れる。
「まずいなくえた・・・」
「まずいなくえたもんじゃ・・・」
「まずいなくえぇ”」
常用者ヴァレリアの感情の発露とともにアッパーの真の効果魔族強化が作用しはじめた。
筋骨を規格外に発達させ必要以上に増幅した筋肉ははちきれんばかりに膨らみ巨大化し、その双眸は魔石の色を宿し外皮はハニートードの様相を呈した。
蛙型の魔人となったヴァレリアは胃袋から泡があぶくように魔石があふれ出ると魔力バブルが発生し、弾けて量産された汁は近くで飲んでいた労働者たちに浴びせかかる形となり肉体を侵食しはじめた。
そこかしこで人が魔族化していくなかラムゥトのかげに隠れるアイリはひどく怯えきっていた。
「アババババババびゃー”や”や”」
「キャハハハ預金がすっとびゅうう”う”う”」
「よべぇよべぇばやしゃーわぁぁぁ!!」
狂気の宴は始まったばかりだ。
ヴァレリアが自我を失い暴れ出すのは時間の問題だった。
「ヴァレリア・・・ヴぁ・・・ヴァレリアよ私ヴァレリア・・・ヨオオオオオ”!!」
舌が鞭のようにしなりラムゥトを締め付ける。
アイリは指にはめた灼熱のリングの加護によってまもられているが焦燥しきっている。
ラムゥトは雷の魔法サンダーを放った。液体に帯電することによって魔獣と化したヴァレリアは痺れ倒れた。
「ヴぁれヴァ・・・リ・・・ア・・・ヨ…」
光の塵となり分散したヴァレリアの元には紫色の特殊な魔鉱石が残った。
びりびりと魔力の雷を帯びて降臨した魔鉱石には王国の刻印がなされていた。
魔鉱石に群がり始める魔人達をラムゥトの雷が一掃する。
酒場は廃墟とかした。王国の刻印が煌びやかに浮かびあがり廃墟の塵を照らす光があふれ出る。
同時に騒ぎをかぎつけた自警団が到着した。
「本部へ、騒動の中心人物と思われる二名を拘束する」
ラムゥトは抵抗せずに捕まり、ひそかに特殊な魔鉱石をコアに収納した。




