#06
秋空の元、俺はいつもと変わらず煙草をふかし、薄汚れた床に吸い殻の山を作っていた。
――なんとなく、体感というよりは勘だが。
――『終わり』は、近い。
「……!」
この音を聴くのはいつ振りか、あのクソ重たい鉄扉が軋みながら開く音だ。
「…………久し振りだな、美月」
入ってきた人物を確認もせずに声を掛ける。
直後、胸から腰に掛けて柔らかい衝撃。
「先輩っ、修治先輩! 会いたかった……! 会いたかったよぉお……!」
二回目に俺を呼んだ頃には既に美月は涙声で、言い終わると同時に堰を切ったように大泣きし始めた。
「勝手に居なくなったりして、悪かったな」
「いいえ……いいんです……! わたしは、また先輩に会えて……それだけで……!」
「……そうか」
彼女が泣きじゃくりながらも頬を摺り寄せ笑う姿は、俺の心に残酷なほどの慈愛を生み出した。
――けど、これ以上は続けられない。
――終わりに、しなければ。
「目、覚めたか……?」
気付けば、わたしはベッドに寝かされていた。嬉しさのあまりか泣き疲れたせいか、屋上で事切れてしまったようだ。
「ご、ご迷惑おかけしました……」
ベッドの脇で診ていてくれたらしい修治先輩に礼を言う。
「別に、良い。安静にしてろ」
そう言って、先輩はわたしの頭を撫でてくれた。
「ねぇ、修治先輩……。先輩は、幽霊や、幻覚じゃないですよね」
大きくて暖かな掌を確かに感じながら、わたしは問うた。
「……バーカ、何言ってんだよお前は」
撫でていた頭で小突かれる。
途端に胸の奥がじくじくとした痛みに似た、甘い苦しみに満たされた。
「……修治先輩。わたし、あなたと過ごした証が欲しいんです」
吐き出す息が熱を帯びたような錯覚を感じながら、リボンを解き、シャツのボタンを外していく。
「愛してます、修治先輩。大好きです」
先輩は、否定しなかった。無言でわたしの上に跨る。
「嬉しい、です……」
「こんな誘い方あるかよ……首にアザ、残ってるし」
「消えないように、治りを遅くする努力をしましたから」
先輩がわたしの痕を指でそっとなぞる。
微かな痛みと名状しがたい爛れた快感を覚え、思わず蕩けた声が出た。
「……ホント、お前はバカだな」
お前の変態さには呆れた、と言いたげに先輩の顔が近づく。
互いの吐息が掛かる距離。
彼の頼もしい首に腕を回す。
「せんぱい……愛して、ください……」