#03
「修治先輩、好きです」
その翌日も美月は変わらずやってきた。
出会い頭にこの一言である。
「……何だって?」
「好きです、先輩。大好き」
「寝言は死んでから言え」
「それ心霊現象ですから」
くすくすと自然体で笑われる。告白は冗談じゃないようだ。
「昨日殺されかけた相手によくそんな事言えるな。ていうかまた会いに来た時点で驚きだよ」
「お付き合いしてください」
「聞けよ」
美月は今日も変わりなく自家製弁当を広げ始める。
しゃがんだ時に制服から覗くうなじに、くっきりと残った赤黒い跡が目に付いた。
「……で、どうなんですか? 可愛くて巨乳かつドSな修治先輩好みの後輩がコクってますよ?」
「自分で可愛いとか言うなよ。あと巨乳って嘘だろ」
昨日の谷間を若干思い出しつつも平静を装う。
「わたし結構着痩せするんです。昨日見えませんでしたか? 何なら脱ぎますけど」
「それこそ付き合ってからにしろ」
シャツのボタンに手を掛ける美月のデコにチョップを入れる。
「あうっ……もっと、強く殴ってぇ……」
「何お前超キモい」
昨日のアレで何か要らない性癖に目覚めさせてしまったのだろうか。それともこっちが素だろうか。
……どっちにしても良い思いはしないだろうし、訊きたくない。
「それで、返事はどうなんですか?」
「駄目だ」
「……ヘンな期待するのもバカバカしくなるぐらいバッサリ行きますねー」
「なあなあにすんのもおかしいだろ」
「そういう誠実さもわたし大好きです。どうしてダメなんですか? 変態はお嫌いですか?」
振られたにも関わらずアピールしてくるコイツの根性には呆れを通り越して尊敬の念すら出てきそうだ。
「自覚は有るんだな……。いや、変態とかはともかく、お前の場合それは恋愛感情じゃなくて依存に近い」
「……認知、してるつもりです」
美月が俯く。やはり後ろ暗い気持ちはあるらしい。
「……俺は、お前の生きる理由になってはやれないんだ」
美月の悲しみを押し殺すような表情は、俺を胸に鉛でも流し込まれたかのような気分にさせた。
――仕方ないだろ。俺は、こういう『役割』なんだ。
「はい、わかりました。ありがとうございます」
「……おう」
美月が頭を下げると、造り物の鐘がプログラム通りに校舎全体へ鳴り響いた。
「……ほら、授業だろ。行ってこい」
「はい。……あ、お弁当、よかったら食べてくださいね。では!」
そう言い残し美月は二人分の弁当を置いて行った。
……二人分、食っていいものだろうか。