果てなきを追うように
夜が来たからと言って全てが終わるわけではないように、朝が来たからと言って全てが始まるわけでもない。隠されたからと言って全てが無くなるわけでもないように、明らかにされたからと言って全てが暴かれるわけでもない。
そうやって、欺かれているわたしたちの夜と朝に。誰かがほくそ笑んでいるだろう。わたしたちが失うほどに彼らは得て、わたしたちが得る時に彼らは惜しむ。さて、長い夜にあって雲は深く星は見えない。それでも光たちは放つことを惜しまず、届くことを求めないように、わたしたちは嘘と誤魔化しと無理解の波を超えようと試みる。営々と。
土の中で静かに五角形に或いは十二角形に結晶しようとするパイライトのように、わたしたちの中で何かが結晶したがっている。そもそも多面体のわたしたちは一層複雑な面を持つだろうか。或いはもっと単純なピラミッドになるだろうか。
いずれにしても目に見えないけれど、目の前の人にとっては表情の変化として目に映る感情の綾波として。わたしたちはその具現を賞賛する。表情は造作を超えていく。或いは造作すら表情の材料として。受け継がれる艶めかしい白さを。そして艶やかな黒さを。等しさのない美しさへと。全てよ。美しさを指向せよ。世界が残酷であるように。そうして、この世のミステイクへと。
目を閉じて、眠り。目が覚めて、開く。そうしてわたしたちはON-OFF-ONを繰り返すが、世界はその間も継続しているのだという事実を。推測でしか分かり得ない世界の全てが、いつも目の前にあるのだという事実を。そうして、果てしなく連鎖する世界の事実たちが、どこかで間違いを生み出しているということを。
信じすぎてはいけない。世界を。この美しさを。明らかさを。隠されているのだ。或いは、見過ごしている。造形の過ちを。完全性の誤謬を。脳に設えられた視覚のマスクを外せ。見えないはずの夢を見るように。聞こえないはずの空耳を聞くように。思い出の記憶の香を嗅ぐように。取り戻すのだ。原始の憤りを。噴煙の下で震えていた飢えの火を。
文字が重たがっている。頼られすぎていることに、そろそろ疲れ始めている。だから、言葉は音へと回帰するだろう。或いは意味の曖昧な映像へと。イメージへと言葉が還るころ、過ちが明らかになるだろう。全てにとっての感情の熱。一見無いような昆虫たちの表情の発露。わたしたちにとっての、姿も見えない誰かへの慕情。形を与えられなかったものたちが蠢いている。夜の底で。朝の光届かぬ岩陰で。わたしたちの中で。
感情を世に蔓延らせるものたち。コスモスの赤紫。花潜りの緑。アオサギの灰青。蛍の燐光。造作を超える表情として色彩はある。色彩は視覚より必ずしも得るものでなく。夕陽に赤く染まる岩肌のように。純白の雲を映す蒼海のように。気配をたどる黄昏の待ちわびた足音のように。全ては。果てあることで果てなきを追うように。