後編
「ああ? なんだ? てめえ」
玄関で私にピストルを突きつけられた男は、すぐには状況が飲み込めなかったようだ。
ピストルを玩具だと思っているらしい。その間違えを正してやるために、まず男の膝を撃ち抜いた。
消音器のおかげで銃声はしない。
「うご……な……なに」
「こんな目に遭う覚えはあるだろう。それとも、覚えが有りすぎて、俺が誰かわからんか?」
「な……なんのことだ?」
「二年前、お前は刑務所から出てきたな?」
「しらねえな」
俺は無言で、奴の脇腹に二発目を撃ち込んだ。
奴は無様に床をのた打ち回る。
「もう一度聞く。二年前に刑務所を出たな?」
「ゆ……許してくれ……刑務所から出てきた」
「女を殺した罪だな?」
「そ……そうだ。それがどうした」
「女の家族は、今どんな気持ちだと思う?」
「知るかよ。そんなの……」
「では、教えてやろう。お前を殺してやりたい気分だ。今すぐにな……」
「あんた……あの女の……」
「父親だ」
そして、奴の脳天を撃ち抜いた。
数日後、刑事が俺を訪ねてきた。当然だろう。俺には十分動機がある。
だが、犯行時刻前に俺が喫茶店に入り、犯行後に店を出たことは、雑居ビルの防犯カメラに映っていた。 逆にビルから犯行現場までの防犯カメラには、俺が通った証拠はどこにもない。それでも、刑事は俺を疑っていたが、結局アリバイを崩すことはできず、諦めて帰って行った。
今の時代、町は防犯カメラだらけだ。迂闊な犯罪者はその事を忘れて姿を晒してしまい、犯行が露見してしまう。
娘を殺した男も、防犯カメラが決め手になって逮捕されたのだ。
しかし、防犯カメラとて万能ではない。必ず死角がある。死角さえ把握していれば、逆にアリバイ作りに利用できるのだ。
それから数ヶ月、一時期ニュースを賑わしたこの事件も、すっかり忘れ去られたようだ。
そんなある日、俺は犯行現場に立ち寄ってみた。
奴のマンションの方は、特に変わりはなかった。
一方、アリバイ作りに使った雑居ビルは、取り壊し工事が行われている。
俺は作業員に話しかけてみた。
「先週から取り壊しが始まったのですよ。しかし、グーグルさんも気の毒だな」
「グーグル? なぜ?」
「せっかく、この周辺のストリートビューを更新したばかりだと言うのにね。ほら」
作業員がスマホを差し出した。
スマホの画面に出ているのはグーグルのストリートビュー。取り壊される前の雑居ビルが映っている。作業員が映像を動かしていく。
それを見て、俺は背筋が凍りつく思いがした。
そこには、トイレの窓から這いだしてくる俺の姿が映っていたのだ。
了