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93.音声伝達機構と魔石

「――以前、勇者様やクレイスと話し合った時に言ってた、連絡手段をそろそろ作って設置しようと思うの」


 今回作る物は、言うなればインターホン、館内放送の設備である。

 その為に必要な道具を作る、第一歩を踏み出すのだ。


「所で、声ってどうやって鳴ってると思う?」

「声……?」

「……別段意識してませんでしたが、そう言われてみると、声とは一体どのようにして出ているのでしょうか?」


 声とは何か、というのもやっぱり知られて無いか。

 これもまぁ、科学知識みたいな物だし、身近過ぎてわざわざ調べようとも思わないのかもね。


「声っていうのは、この喉の部分にある声帯って場所で空気を振動させる事で鳴らしてるのよ」


 声に限らず、音というのは空気が振動する事で発生する。

 また、その空気の振動を耳の鼓膜で受け取る事で、音は脳へ信号となって送られる。

 これが音のメカニズムであり、例外は存在しない。


「つまり、空気を振動させる事が音や声として聞こえる条件という訳よ」

「空気が振動する、かぁ……」

「空気が震えなければ音にならないから、真空状態だと音は絶対に発生しないんだけどね。……まぁ、自然な環境で真空状態なんてのは発生しないから、これはただの余談だけどね」

「それで、一体何をする気なの?」


 今回する作業は、そんなに大規模な物ではないので「設置は」それ程作業時間は掛からない。

 だがこの世界で音声を電気信号に変換するー、なんてのは技術が追い付いてなくて到底不可能。

 なので、電気信号の代わりに空気の振動を魔力信号へと変換する仕組みを構築しようと思っている。

 それ故に、今回行う作業はその全てが魔力操作に関する事項となる。

 なのでリュカが聞いても意味が無いのだが、一応同席したいとの事。

 ……案の定、横で頭の上に大量の ? マークを浮かべ続けているようだが。


「……魔石をね、作ろうと思うのよ。そしてリューテシアとルーク、貴方達にも作って貰うわ」


 今回作る魔石は、中に仕込む術式が非常に単調である。

 また、単調ではあるが同じ魔石を複数個作る必要性がある作業内容でもある。

 館内放送の仕組みは、この地下拠点の規模が大きくなるのと比例してその必要性が大きくなってはいた。

 以前のアレクサンドラやクレイスの来訪は丁度良い切欠だったとすら思える。


「わ、私達も作るの!? 魔石って相当高度な魔法使いでないと作れないって話じゃない!」

「僕も、そう聞いてますが……」

「高度な魔法使い、ってのはあながち間違って無いかもね」


 魔石の製作に必要なのは、繊細な魔力操作だ。

 熟練した魔法使いというのは、魔力の操作にも長けているのだろう。

 だからその答えは間違ってはいない。


「でもね、魔石を作るのに必要な資質ってのは魔力量なんかじゃないのよ。もし魔力量だったなら、私なんかに魔石が作れる訳無いでしょ?」

「まぁ、それはそうね……ミラって、全然魔法を使ってる姿見ないし」

「ただ、魔法の代わりに未知の知識を大量に保有しているようですけれどね」

「魔石を作るのに一番必要なのは、繊細な魔力操作よ。魔力を操作して、宝石内部に術式を焼き付けていくの」


 とりあえず、実践に移るべくルークとリューテシアの机の上に大量の実験材料を転がす。


「これは……ガラス玉、ですね」

「まさか行き成りぶっつけ本番で宝石に焼き付ける訳には行かないからね。魔石ってのは中に術式を焼き付ける際にミスったらほぼ修正不可能だし。一発でミスなく成功させてこそ魔石として使えるようになるのよ。だから、練習材料としてミスしても良いように原価の安いガラス玉で練習するのよ」


 光を透過する材質でないと、中に焼き付けた術式を目視で確認出来ない。

 ある程度の大きさを保っていないと、中に術式を刻めない。

 氷は溶けてしまうので論外、となるとガラス玉が練習としては最適である。


「これをルークかリューテシア、どっちかが作れるようになれば私に頼らずとも魔石を製造出来るようになるわ」

「……魔石というのは、非常に高額な代物です。材料である宝石が高いというのもありますが、魔石の価格の半分以上は技術費だと聞いた事があります。もし魔石が作れるようになれば、それだけで一生食いっぱぐれない実力を得たと言っても過言では無いかもしれませんね」

「……マジ?」

「マジですよ」


 リューテシアの疑問に対しルークが答える。


「それと、今回の魔石製作だけど。やる気が起きるように飴と鞭を用意してあります」

「飴と……鞭……?」

「飴の方と鞭の方、どっちから聞きたい?」

「……では、鞭の方から」

「宝石自体は並程度の価格の物しか使わないけど、もし宝石を使って魔石製作に失敗したら罰金を支払って貰います」

「え゛っ」

「罰金……つまり、弁償という事ですか……」

「流石にねぇ……宝石レベルの価格の代物を『失敗しちゃった、てへっ☆』で済ませるのは……」

「……ちなみに、飴って何なのよ?」

「一番最初に魔石製作に成功した人に賞与として金貨二千枚、二番目でも成功すれば金貨千万を支払います」

「金貨二千枚!?」


 リューテシアの目の色が変わる。

 まぁ、流石に変わるのは仕方ないわね。

 リューテシアの残り借金額が約金貨二千枚なのだから。

 二番目でも借金の半分が支払える計算だ。


「ミラ、一番最初に作れたら金貨二千枚払うって言ったわよね? 言質取ったわよ?」

「ええ。出来たなら、スッキリサッパリ払ってあげるわよ」

「僕はもう借金を返し終えてますから、余り大金には興味が沸かないのですが……お金というのはあればあるだけ良いですからね。僕も、頑張らせて貰いますよ」

「あ、あの……ミラさん……ぼ、僕はそれ出来ない、です……」

「ああ、リュカにはこの魔石製作作業には携われないけど、代わりにやって貰う事があるから」

「やって貰う事?」

「リュカには二人が成功するまで淡々とガラス玉を作って貰うわ、作った個数に応じて報酬を払うわ。どうせルークもリューテシアも一発クリアなんて到底不可能だから、何十、何百と失敗作のガラス玉が出来るはずよ。だから、二人が失敗すればする程リュカの儲けが増えるって訳ね」

「わ、分かりました……! 二人が失敗すれば……」

「あ゛ん?」

「ひっ――!」


 リュカが口を滑らせ、リューテシアが威嚇の眼差しで睨み飛ばす。

 小心者のリュカはリューテシアの威圧に圧されて部屋の隅で縮こまってしまう。


「まぁ、そういう訳だから。この魔石製作の練習は日々の合間を見てチマチマやってね」


 今回のお仕事内容を各々に伝えた上で、私は皆の前で今回作る事になる魔石を製造してみせる。

 私は別にミスる要素が無いので、宝石を使って実際に魔石を作ってみせた。

 仕組みも単純だしミスはしないが、時間が掛からないとは言っていない。

 約一時間程で魔石は完成した。


「――ふぅ。ま、これが完成形のお手本って事ね。これを見ながら、実際に二人に作って貰うわ」

「ミラさんですら、魔石を作るのにこれだけ時間が掛かるのですか……」

「魔石の値段の半分以上は技術費、って意味が分かった気がするわ……」


 目の前にそり立つ、巨大な壁を見せ付けられた上で、これを登れと言われたかのように遠い目をする二人。

 これもまた、立派な技術職。

 技術ってのは一朝一夕では身に付きません、精進あるのみ!


「あー……魔石作成は本当疲れるわぁ……それじゃあリュカ、ガラス玉製作お願いね。ルークとリュカは、ガラス玉ならいくら失敗しても良いから存分に練習してね」


 本当疲れた。

 今日は頑張ったから、もう寝るとしよう。

 寝床が私の帰りを待っているー。

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