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91.えだまめー!!!

何処かでアクセル踏まないとこの小説は何時完結するんだって話だ

着地点はちゃんと見えてる、後はどうやって着地するか

 転車台を海岸側へと設置し、その設置している間に少し私の個人的な作業を進める。

 この辺りはロンバルディア地方の中でもかなり暖かい。

 それに加え、今の季節はもうすぐ夏になろうかというタイミングだ。

 なら、大気中にいるはず!


 設置作業を終え、蒸気機関車に乗って帰路に付いている最中。

 オリジナ村を通り掛かった際に何者かがこちらに向けて呼び掛けている。

 遠目ながらも確認すると、それはルドルフであった。

 蒸気機関車を停止させ、ルドルフの下へと駆け寄る。


「こんばんわルドルフさん。何か御用ですか?」

「ああ。一応確認して貰おうと思ってな」


 ルドルフは、その手に握っていた一つの塊をこちらに見せてくる。

 それは、見紛う事無く石炭であった。


「石炭ってのは、コレで良いんだよな?」

「……ええ。そうですね、これは確かに石炭です」

「よし! やっと見付けたぞ!」


 私からの情報で確証を得たのか、ルドルフが小さくガッツポーズを決める。


「これで間違い無いなら、早速鉱夫と監督員と交渉して買い集めるか! ミラ、今回はこれだけ確認したかったんだ。呼び止めて済まなかったな!」

「いえ、この位は構いません。ただ、蒸気機関車は大飯食らいなので半端な量では動きませんよ? 最低でも一回動かすのに馬車単位で計算しておいて下さい」

「中々豪快に使うんだな……だが、それを考慮したとしてもあの速さは魅力的だ……それに、石炭は腐らないしな……分かった。ある程度まとまった量を用意出来たらまた知らせるよ」

「分かりました。こちらも引き続き石鹸を製作しようと思うので、もし準備が出来たようであれば取引の際にでも伝えて下さい」

「分かった」


 話を纏めて、私とルドルフは互いに帰路へと付いた。

 それにしても、掘り始めるのはこれかららしいけど、見付けるの自体は思ってたより早かったわね。

 どこかに偶然石炭の鉱床にぶち当たってた鉱山があったって事かしら?

 ま、偶然でも何でも良いけどね。

 ルドルフは石炭を外部から調達する手段を得た、それだけ分かれば良い。

 それじゃあ私達も拠点の戻るとしましょうか。



―――――――――――――――――――――――



「えだまめー!!!」

「……何よ急に叫んで。ボケたの?」


 ボケてないよ。私ボケるような作られ方してないよ。


「これを見なさい! 枝豆よ枝豆!」

「……何これ? 草?」

「草じゃないわよ! 枝豆よ!? 知らないの!?」


 リューテシアだけでなく、ルークやリュカにも確認を取ってみたが、全員知らないという。

 そんなー。

 ファーレンハイト市場では時期じゃないのかもと思っていたが、どうやらそもそも食料として流通していないようだ。


 ……んー、でも枝豆って一応青い時には毒があるしなぁ。

 茹でて熱を通してしまえば問題無いんだけど、どうやらこの世界ではそういう発想が無かったようだ。

 枯れて大豆になってしまうと、見てくれは枯れ草にしか見えないし。食べようとは思わなかったのだろう。


「前々から見付けてはいたんだけど、繁殖させないで食べちゃうと無くなってしまうからね。やっと纏まった量が実験農場で収穫出来たから、皆で食べようと思ってね!」

「えー……? この草を食べるの……?」

「食べるの! ルーク、お湯を沸かして! リュカは倉庫に放り投げてた塩を持って来て!」

「は、はい!」

「分かりました」


 各々に指示を出し、早速枝豆を食べる準備を始める。


「枝豆さんの事を草とか抜かすリューテシアには、素晴らしい事を教えようと思います」

「……素晴らしい事って、何よ?」

「枝豆はね、もやしで大豆なの。そしてきな粉で味噌で醤油で納豆で豆腐なの。分かる?」

「さっぱり分かりません」

「ふっふーん。そう言ってられるのも今の内よ! 私以外が転車台を設置している最中、私が何を作っていたと思う?」

「サボってたんじゃないの?」

「サボってないよ。私はね、麹を作ってたのよ! 材料が豆だから豆麹ね」

「こうじ? って何?」


 麹。

 それは、麹菌と呼ばれる細菌を増殖させて凝縮したものである。

 製造には徹底した温度管理が必要だが、私には温度計があるので別に製造に問題は無かった。

 温度管理をミスると麹菌じゃなくて納豆菌が育ってしまうが、私がミスる訳無いので問題無く麹菌を繁殖させる事に成功した。

 だが納豆菌も有用なので、同時進行でわざと温度を高めに調整して納豆菌も製造しておいた。

 これで、大豆系食品と大豆系発酵品を製造する準備が出来た。

 味噌や醤油なんかは完成するまでにかなりの年月が必要なので、製造スペースを後々リューテシアに作って貰う予定だ。

 そして準備が出来たら、私は単身時間跳躍で未来へと飛ぶ。

 これで製造に時間が掛かるのを擬似的に短縮させて貰おう。


「ふふふ……! わかめを収穫出来たし、にがりがあるから豆腐も作れる。麹が確保出来たから味噌も……!」

「ミラさん、お湯が沸きましたが」

「良し! それじゃあ枝豆を茹でるわよ!」


 熱湯に軽く塩を放り、芯までしっかりと熱を通し、枝豆を塩茹でする。

 皿に盛り付け、茹で上がった枝豆にも塩を振り掛ける。


「枝豆、完成! それじゃあ皆で食べてみましょうか!」


 鞘ごと口に含み、中から豆を取り出す。

 うーん。枝豆の濃厚な味と塩が口の中で混ざり合う。

 枝豆の味を塩がサッパリと流してくれるので、何個食べても口の中がくどくならない。


「……これで酒があれば最高なんだけどねぇ……」

「ミラ、貴女どう見ても酒を飲んで良い年齢じゃないでしょ」

「ぼ、僕もまだ飲めない……」

「僕は一応、ファーレンハイトの法では飲んでも良いらしいですが……進んで飲もうとは思いませんね」

「そういえば、リューテシア的には酒ってどうなの?」

「私はもう身体自体は成熟してるからね。飲もうと思えば飲めるわよ」

「……飲みたい?」

「いや、別に」


 何だ、飲みたいなら別に酒を振舞っても構わなかったのだが。

 私は身体的にまだ飲むべきではないから仕方ないとして、私以外も酒は飲めない、飲まない人ばかりのようだ。


「……まぁ、この枝豆っていうのは、別に不味くは無いわね」

「小腹が空いた時には丁度良さそうですね」

「ちょっと、美味しかった……です」


 好評ではないが、枝豆はそれなりだったようだ。

 私は好きなんだけど、食の好みは人それぞれだし仕方ないか。


「それと、今日は食後にパイナポーを食べようと思うんだけど」

「なら、私が切っておくわ」


 パイナポーの話題を出した途端、枝豆の時とは違って急激に目を輝かせるリューテシア。

 率先して自分が切り分けて置くと言い出す始末である。


「なら、リューテシアにお願いしようかしら。……所で、以前話した冷凍庫の開発はどの位進んだかしら?」

「……僕としては、皆目見当が付きません」

「よ、容器位なら作れるけど……僕は魔法は使えないし……」

「……それなんだけど。ミラ、魔石を作ってくれない?」

「魔石ねぇ……中に刻む術式は?」

「ま、まだそれは考えてる最中だけど……もし出来たなら、作ってくれる? 私じゃ魔石は作れないし」

「出来たなら、ね。出来たならむしろリューテシアに魔石の作り方も教えてあげるわよ」


 理論的に破綻してなければ、作ってあげましょうとも。

 但し、その術式に無駄があったとしても私は最適化しないけどね。

 それに気付いて改良していくのは私の仕事じゃない。

 気付く力を養い、改良する方法を考え付くのが勉強なのだから。


「……冷凍技術が確立すれば、それは同時に温度管理を自在に行えるようになるって事でもあるわ。そうすれば……」

「そうすれば?」

「――特殊な生育施設でも作ろうかな、って考えてるの。日照時間も雨量も気温も自由自在な、箱庭農園をね」


 現状でも十分箱庭農園なのだが、現状仕切りが無い。

 なので、生育に余りにも気温差が生じ過ぎる作物は同時に育てる事が出来ないのだ。

 区画毎に区切る事が出来れば、落差の大きい作物も同時に育てられる。


「それが出来れば、好きな作物を育てられるようになるわよ」

「……ブドウ、作れる?」

「温度差を作れるし、甘いブドウが作れるわよ」

「分かった。冷凍庫、作るの頑張るわ!」


 リューテシアが急に燃え始める。

 何かのスイッチが入ったようだ。


「リューテシア貴女、本当に甘い物が好きなのね」

「そうよ、悪い?」


 別に悪く無いけど。食の好みは人の自由だし。

 成る程、パイナポーを出した日はリューテシアのテンションがあからさまに上がってたけど、パイナポーが好きというより、単純にリューテシアは甘党なのか。


 リューテシアが虫歯にならないか気になる、そんな一日であった。

 あ、でも口の中にミュータンス菌が少なければそんなに心配も無いか。

枝豆、17話で実は見付けています

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