90.不滅の目覚め 「抹消」の代行者
いよいよ12月ですね
12月といえばイベント盛り沢山ですね
冬休みに冬のボーナス、クリスマスに大晦日
そして! 12月は俺の誕生月でもある! 無意味にテンション上がるね!
そんな事が関係ある訳ではないけど
予告通り12月1日~1月1日の期間、毎日1話更新する事にしますた
書き溜めは充分出来た、これなら行けるはず!
「――だから言ったでしょう。私を滅ぼす事など、不可能なのですよ」
月明かりが大地を濡らす夜。
ゆらりと身体をその場から起こし、さながら墓から抜け出す亡者の如くゆらりと立ち上がり。
闇夜の中、一人。男は静かに呟いた。
声こそハッキリと男の物であると分かる低さであるものの、身体の線は細く、肉付きも良くない華奢な体躯である。
目が俗に言う糸目であり、瞼が開いているのか閉じているのか判断が付き難い。
肌は傷一つ無く、不気味な程に白い肌で、日の光を浴びていない女性どころか、最早病人や死人の類だ。
明るい緑のきめ細かい髪を肩に掛かる長さで切り揃えてあり、その風貌も男というより女性の物が遥かに近いように見える。
美形ではあるのだが、その不気味な雰囲気故に、街中で出会ったとしても好き好んでお近付きになろうとは誰も考えないだろう。
「――ふむ。どうやらまた以前と同じ姿のようですね。私にとって姿形など無意味なのですが、主はこの姿が気に入ったのでしょうかね?」
自らの顔を両手でペタペタと触りながら、独り言を続ける。
男が空を仰ぎ見ると、そこは雲一つ無い澄んだ夜空に満天の星空が広がる。
男が立っている場所は海岸であり、一歩、また一歩踏み出す都度、乾いた砂を踏みしめる音が静かに響き、浜辺の波音に掻き消された。
「さて……あれからどれ程年月が経ったのか。ここが何処なのか。今現在の世界情勢がどうなのか……今一度調べなければなりませんね」
身体に付着していた砂を払い落とした後、男は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
「調べる、か。全く、あの男の力があればそんな手間を掛ける必要など無いというのに」
男はこれ以上に不快な事は無いとばかりに、恨みがましい口調で吐き捨てる。
「……ルードヴィッツの所在も調べておきますか。今はまだ手を出す気はありませんが……現在位置を把握しておかねばいらぬ横槍を入れられますからね」
男はその場で片腕を一振りすると、浜辺から影も形も残さず忽然と消え失せる。
その姿は一気に場所を移し、数キロ離れた砂山の上へと移動していた。
男が眼下に望むは、何処までも続く遮蔽物の存在しない砂の大地。
「ここは……ふむ。砂漠地帯が広がってる所を見るとラーディシオン領の何処かのようですね。全く、面倒な場所に出たものだ」
やれやれ、とでも言いた気に大袈裟な身振り手振りを交えつつ独りごちる。
「幸い、ルードヴィッツはまだ自身が何者なのかというのに気付いていないようですね。ならこの状況は利用すべき……となれば……」
男は再び腕を振るう。
数十、数百キロという途方も無い距離をただその一動作だけで消し去り、大陸の対岸へと位置を移す。
「ここで一人考えていても仕方ありませんね。先ずは何時も通り、根を降ろさねば……ククク……!」
男が望む先は、何処までも地平線広がる夜の大海原。
その先にあるのは、聖王都ファーレンハイト。
人類の要である最大都市であり、男がかつて何度も暗躍し続けた場所。
男が腕を振るうと、男はこのラーディシオン領から一瞬で姿を消す。
ミラがこの世界に流れ着き、早数十年。
滅びぬ滅びが、再びこの世界に現出するのであった。
―――――――――――――――――――――――
さて、何の障害も無く聖王都ファーレンハイトへと辿り付く事が出来た。
まさかこんな喧騒の中で出くわすとは思えませんが、念には念を入れましょう。
下等な人間如きに遅れを取る訳がありませんが、あのルードヴィッツと名乗った男だけは別だ。
あの男だけは我が主と同格レベルの実力、決して油断してはならない相手。
「――限定幻影認識」
真の力を封印する事で魔力消費量を抑えた、劣化術式を用いて俺の外見の「認識」を書き換える。
見た目は……俺の記憶の中に残っていた残滓の中から適当な人物を見繕って変える。
聖王都は人間の住まう地故に、その姿形は人間である必要がありますからね。
この二十代の女の姿で良いか。
私自身の姿形が物理的に変わる訳ではありませんが、これを使用した事で、術式を解除するまで私の姿は周囲から本来の姿ではなく歪められた姿にて映る。
この「認識」の力も、我が主と同格である神の力。
あの男でも、そう易々と見破れまい。
私と同じ「抹消」の力でも使えば話は別ですが……根拠が無ければその力は使えまい。
王都へ入る際に検問に引っ掛かったが、衛兵の「認識」を書き換える事で難無く門を潜る。
人の集まる酒場や宿屋、大通りや市場等で聞き耳を立て、世間話から情報を拾い集めていく。
しかしながら当然というか、ルードヴィッツに関する情報は何処にも見当たらない。
あの男は、大多数の人間が存在する場所には余り出現しない傾向がある。
むしろ辺境の限界集落なんかの方が、あの男に関しては有益な情報が手に入る可能性が高いだろう。
例外があるとすれば、あの男は大きな騒動が発生するとその場所に現れる傾向が強い。
釣り上げるのであらば争乱を引き起こせば良いのですが……そうすると俺自身が見付かる危険性に晒される。
私としてはそれは避けたい。直接的にぶつかってしまうとこちらが敗れる可能性大。
もしやるならば罠を張るか、もしくは――
「……ん?」
考え事をしながら市場を歩いていると、ふと視界の端に気になる代物が映り込む。
これは……石鹸?
「すみません、コレって何ですか?」
「おや、お嬢さんは知らないのか? こいつは石鹸って言ってな、ロンバルディア地方で開発された道具なんだよ。使い方は水で濡らしてこうやって――」
使い方など知っている、人間風情が私に講釈垂れるなど億年早いわ。
私が聞きたいのは、何故こんな物がこの世界に存在しているのかという事だ。
石鹸の製造には……
「――ロンバルディア地方、か」
「お嬢さん可愛いから、今なら一つ銀貨3枚にサービス……お、おいちょっと!?」
先ずはロンバルディア地方へ向かうか。
胸の奥がざわつく。
私が眠りこけている間に、何かとんでもない事態が起こっているのではないか?
―――――――――――――――――――――――
「な――ッ!?」
ただの思い過ごしであって欲しいと思った。
だが、悪い予感程当たるとは良く言った物だ。
広大な大地、地平へと向かい真っ直ぐに伸びるソレは、俺の予感が当たっている事を如実に物語っていた。
「コレは……線路!? 馬鹿な!! 科学技術の知識は我が主が森羅万消で地上から全て抹消したはず――ッ!? 残っている訳が――!」
石鹸を目撃した時から、もしやとは思っていた。
石鹸は化学反応を用いて製造される代物。
科学知識を葬り去ったこの世界では、決して生まれるはずがない産物。
だが――
私が以前、現出した際に見たあの武器。
その存在が脳裏を過ぎる。
「不味い――不味い!! 何処まで流出した!? 首謀者は誰だ!? 急いで情報を集めねば――ッ!」
それはまるで、澄んだ水に垂らされた、一滴の墨汁。
急いでその箇所を掬い取らねば、やがて水全体へと広がり、成す術が無くなる!
ルードヴィッツの事なぞ後回しだ!
もう森羅万消を使う訳には行かないのだ! そんな魔力的余裕など無い!
そもそもアレは『奴』の補助があったから使えたような物、単身で使う訳には――
形振り構っていられない!
ファーレンハイトの上層部に取り入り、どの程度知識が広まっているか調査!
知った者、書物を全て滅却した上でなら――ッ!
クソッ! クソッ!!
何処の誰だか知らないが、舐め腐った真似をしやがって!!
見付けたら骨も残さず「抹消」してくれる!!
何処まで科学知識が浸透してしまったのか。
その調査をするべく行動を開始する。
再び腕を振るい、距離を「抹消」する事で私はこの地から忽然と消え去るのであった。
私だったり俺だったり忙しい奴だなぁ
程々に新キャラは増えていきます




