86.蒼の襲撃者
後三日か、楽しみだな(3DSを用意しながら)
予約投稿なのでゲームにのめりこんでも更新が止まる事は無いのでご安心下さい
聖王都ファーレンハイト。
この世界における人間達が集う最も繁栄した首都であり、魔族に対抗する人間達の最後の砦でもある。
人類が誇る栄華の粋。往来する人々の数も非常に多く、東西南北に開け放たれた門は昼夜問わず引っ切り無しに馬車が行き交っている。
ファーレンハイト王の名の下に区画整備された町並みは、聖王都の名に相応しい優雅さと研鑽された造形美を湛えていた。
が、それは表向きの姿。
大通りを少し外れればこの国の歪さの皺寄せが集った光景が広がる。
物乞い、果てに窃盗に走る孤児。
生きる気力を失い、虚ろな目で空をただ見続ける老人。
日銭を稼ぐ為、男の気を引く淫猥な服装で着飾る女達。
違法薬物を売り捌き、干乾びた雑巾から水を絞るかのように、搾れるだけ金を搾り取ろうとする悪辣な商人。
聖王都の名の威光は、そこには存在していなかった。
そんなファーレンハイトの裏路地には、目立たぬようにこっそりと奴隷市場が開かれている。
公にしては街の治安に関わるので、あくまでもひっそりと。
憲兵に見付からない訳が無いのだが、そこは奴隷商が袖の下を通す事で目溢しして貰っている状態である。
人目に付かないその一角で、響く戦闘音。
その音はすぐに止み、再び静けさに包まれた。
―――――――――――――――――――――――
戦闘が繰り広げられた室内。
その壁面には至る所に戦闘の爪痕が残されている。
ここは以前、ミラが三人の奴隷を購入する為に訪れた場所であり、元々綺麗な場所だとは言えない空間であったが、今では荒れ果てた、という言葉がピッタリな状況となっている。
警備を勤めていたと思われる武装した兵士十数名は例外無く地面を転がり、そこに立っている者は二人だけであった。
「――ここにエルフの奴隷が居たのは分かっている。一体何処へ連れて行った、答えろ……!」
不気味な程に澄み切った蒼い瞳の視線が、恰幅の良いもう一人……奴隷商の男を突き刺す。
褐色肌のその顔は怒り故か表情が歪んでおり、少しでも機嫌を損ねれば手にしている剣で即座に刺し殺しかねない、そんな雰囲気を漂わせている。
「え、エルフの女なら数年前に男に買われて行ったよ!」
「その男は何処へ行った!」
「ろ、ロンバルディア地方に行ったって噂だ! お、俺も詳しくは知らねえんだ!」
奴隷商の男は、言わねば斬るという男の剣幕に圧され、仕方なく口を割る。
商人は信用が命、顧客の情報は口外しない。
だが、それは常識の範囲での話だ。無法を突き付けられ、口を割るか死か。
と、問われて口を閉ざせる程の胆力がある商人がどれ程いるのだろうか。
「だけど、ロンバルディア地方は極寒の地だ。あんな場所に連れて行かれたならもう今頃命は――」
余計な口を開いたが為に、男の怒気が強まり、手にしていた剣が揺らめく。
奴隷商の男はヒッ、と短く悲鳴を上げて部屋の角で縮こまる。
もうここに用は無い、とばかりに無言で歩き出す男。
「奪われた仲間は必ず救い出す――!」
一人、自らの決意を確かめるように呟く男。
手にしていた剣を収め、男の足はロンバルディアへと向かうのであった。
―――――――――――――――――――――――
「――あそこか」
道中で聞き込みを続け遠路遥々、長い道程を経て男はロンバルディアの地へと足を踏み入れていた。
途中で商人から得た情報によると、比較的最近、オリジナ村にてエルフの女奴隷の姿を目撃したという。
その情報を頼りに、村へと辿り付いた男は一度村から距離を離し、山肌の上に陣取りオリジナ村を見下ろす。
だが、数日間息を潜めて村を観察し続けているが、エルフの姿は何処にも見られない。
話によれば首輪を付けられている為か、普通に外を出歩いていたという話だが。
何らかの事情で外に出なくなり、室内に監禁されているのだろうか?
可能性は有り得る。
――踏み込むか?
小さな村故に、人目は少ない。
が、それと同時に小さな村故に、村人誰か一人にでも目撃されれば即座に不審人物として認識されてしまうだろう。
都市部と違い、こういう小さなコミュニティは助け合わねば生きていけないので、集落の全員が顔見知り、という状況が当たり前のように存在している。
その閉じた世界に私という異端分子が混じれば、即座に警戒されるだろう。
「……ん? アレは……」
村の西側から、私と良く似た群青色の髪を後ろで括った、一人の人物が村へとやってくる。
その人物はどうやらその村では顔が知れ渡っているようであり、村を訪ねてきた途端、村の家屋から次々と村人が姿を現し、その人物の周りに集まってくる。
村の住人が軒並み外へと姿を現したが、やはりその中にエルフの女性の姿は確認出来ない。
やはり、家屋の中に監禁されているのだろうか?
行くか、否か。
逡巡している丁度その時、何やら村の外れから近付いてくる物音。
その音の正体を確かめるべく、視線を村から音源へと向ける。
「何だ、アレは……!?」
それは全身が鉄で出来ており、頂点部から物々しい程の黒煙を大気中に巻き上げながら村へと向けて進んでいる。
アレは、馬車か? いや違う、馬の姿は見当たらない。
荷車……人力であんな速さ、出せる訳が無い。
というより、何だあの速度は!
肉体強化の術式を使って走って出すような速度を平然と出している。
皆目見当が付かない、奇妙な代物。
それは私がいる山まで届くような、甲高い金属音を上げながら村の目の前で停車する。
その中から何名かの人物が姿を現し、村の人だかりに向けて足を進めている。
「――ッ!」
息を呑む。
その中に、私が探していた人物はいた。
後姿から僅かに覗いた、エルフ特有の人間と比べてとがった耳。
あの身体的特徴は、人間には現れないエルフだけの物。見間違う訳が無い。
「見付けた――!!」
音を殺し、気配を殺し、山の斜面を駆け下りる。
待っていろ! 今助ける!!
始めはそうだった
圧倒的な敵に対して俺達はとにかく自分を守るのだけで精一杯だった
だが抵抗組織も無い俺達は成す術もなく1人、また1人と仲間を失っていった
そんな絶望的な戦いの中で俺達は学んだ、生き延びるには勝つしかないのだと
絶対に勝つという鉄の意志を持つ者だけがこの地獄を生き抜いていけるのだと
俺達はまさに絶体絶命の崖っぷちに追い込まれている
だがそこから必ず立ち上がる、そして最後には敵を圧倒し! 殲滅する!
鉄の意志と鋼の強さで、奪われた仲間は必ず奪い返す!
俺のターン!!!




