84.時間跳躍
※予告※
今年の12月の間、毎日更新します
書き溜めもほぼ出来た、行くぞ!
行くったら行くの!
多分大丈夫、恐らく、メイビー、十中八九
三和土による地下拠点の舗装も終わり、後は乾燥を待つのみとなった。
再び三人には石鹸製作を行って貰い、ルークとリューテシアには地下拠点稼動に必要な魔力を貯蔵して貰い、日々は流れて行く。
この辺りの作業は最早慣れた物で、もう今更私が口を挟むような事は無い。
もう基本的な作業の流れに、私が関与せねば回らないという箇所は存在しなかった。
行く行くは私が居なくとも滞り無くここは稼動して貰わねば困るので、良い調子だ。
「――そろそろね」
「何がよ?」
私の呟きに疑問符を浮かべるリューテシア。
三人が一堂に会する食事時。
私は前々から考えていた事を切り出す。
「貴方達には言ってなかったけど、実は私、未来へ飛ぶ事が出来るのよ」
……何を言っているんだこの人は。という視線が私へと突き刺さる。
だが、嘘は言っていない。
そもそもこの時空間跳躍能力の解析こそが私がいた世界の至上命題であり、ものぐさスイッチなんかはその研究の副産物でしかない。
この世界だとその副産物の方が役に立ってるけど。
「今までは魔力貯蔵量が足りなかったから出来なかったんだけどね。ほら、この間の事件で余裕が出来たからね」
「……あの時の……」
何やら複雑そうな表情を浮かべるリューテシア。
何を悩んでいるのやら。
「今の所、蒸気機関車を動かすような用事も無いし、石鹸製作も魔力貯蔵も私がいる必要無いでしょう? 三和土は乾燥待ちだし、今の所私がする事が無いのよね。だから、『早回し』しちゃおうかと思ってね」
魔力の貯蔵量にはこの間の襲撃の一件のせいで多少余裕がある。
だから、一度「飛ぶ」のも良いかもしれないと考えていたのだ。
私は、フレイヤに搭載された機能の一部を使用する事で時間を超える事が出来る。
過去にも未来にも行く事が出来るが、過去へ遡るのは色々制約が多く付き纏うので現状行うのは現実的ではない。
だが、未来へ飛ぶ事に関しては制約は緩く、魔力消費量も過去へ遡るのに比べて少量で済む。
私自身が未来へと飛ぶ事で、拠点開拓の待ち時間を短縮しようという魂胆である。
何というか、待つのが面倒臭いのでさっさと進みたいのだ。
乾燥待ちの床が歩き辛くて面倒だし。さっさと乾いて頂戴。
「実験がてら、試しに三日位飛んでみるわ。だから三日間だけ留守――というか、この世界に存在しなくなるけど、良いかしら?」
「……にわかには信じがたいですが、ミラさんですからね。これだけ色々な事をしているのだから、時間跳躍なんて事も出来ても不思議じゃないかもしれませんね」
「私は別に構わないわよ。ミラがいないなら土いじりさせられる事も無いだろうし」
リューテシア、そんなに土いじりが嫌か。
今まで適役だからとやらせ過ぎたのかしら?
「それなら……食事が終わったらちょっと付いて来てくれるかしら?」
三人が食事を終えた段階で三人を引き連れ、私は実験農場の一角へと移動する。
この場所にした理由は、単に邪魔にならない場所だからだ。
足元に四角い線を引き、その中心に私が立つ。
「ここで良いわね。それじゃあ私、三日後にタイムワープするから。三日後の今、絶対にこの四角で囲った場所に入らないでね」
「どうして入っては駄目なのか、理由を聞いても良いですか?」
「タイムワープした先に何かモノが存在するとね、その場所を削り取ってタイムワープしたモノが現れるのよ。つまり、私がタイムワープした時にこのタイムワープ点であるこの空間に物が存在するとそれが壊れちゃうのよ。存在したのが人なら――」
「……死ぬ、って訳ね」
リューテシアがぽつりと呟く。
「そういう訳よ。タイムワープする私自身はそんなに危険ではないけど、転移先の空間はかなり危険なの。だから振りでも何でもないから、三日後に絶対にこの枠内にいないでね」
「わ、分かりました」
「これから三日間、その枠内に入らなきゃ良いんでしょ? そもそも近付かないから平気よ」
「この農場への水遣りを考えても、そこまで近付きませんからね。分かりました」
三人が各々了解した事を確認し、私はものぐさスイッチを操作する。
「じゃ、三日後にまた会いましょう。――フレイヤ、機能限定開放。時間跳躍機能起動、指定、三日後。タイムワープ開始」
視界が、接いだ映画フィルムのように切り替わる。
私にとっては、一瞬の出来事。
三人にとっては三日後の世界へと切り替わった。
―――――――――――――――――――――――
「――本当に来た……」
三日後へのタイムワープは無事成功したようだ。
声の主に目を向けると、そこにはリューテシアの姿があった。
「あら、お出迎えかしら? そんなの頼んで無いのだけれど」
「そんなんじゃ無いわよ。でも、本当に時間跳躍なんて出来たのね……転移魔法、って訳じゃないみたいだし」
そもそも、転移魔法っていうのが時間跳躍魔法の劣化だからね。
時間を弄らずに座標だけズラすのが転移魔法で、時間軸も弄るのが時間跳躍魔法なのだから。
「――ねえ、ミラ。それって、過去に飛ぶ事も出来るの?」
……その真剣な目、真面目な話か。
「出来る出来ないで言うなら、出来るわ。でも、しない方が良いし、貴女が何を考えているのか知らないけど、考えてる事は絶対に出来ないと断言出来るわ」
だが、リューテシアに変に希望を持って貰っても困るので、バッサリと切り捨てておく。
「過去に同一の存在が現れると、タイムパラドックス防止の為なのか後から現れた存在は恐らく消滅してしまうのよ。例えそれを乗り越えたとしても……過去を変えれば未来が変わってしまう、その変化変動率が余りにも大き過ぎると過去へ送ったモノが恐らく消失してしまうのよ」
恐らく、というのが頭に付くのはただの推察だからである。
この私が使っている『時』の能力は未だその全容は解明されていない。
私が使っているのは、解析で判明した能力のほんの一部分でしかない。
能力の全容としては約8割は闇に包まれていると言っても過言ではない。
だから、観測点からの推測で物事を計る事しか出来ないのだ。
「過去を変えるなんて不可能よ。諦めて前を向いて頂戴」
「……分かった」
濁したりせず、キッパリと不可能だと告げる。
それが効いたのか、リューテシアは大人しく実験農場から立ち去って行く。
「――というか。ここの作物も大分育ってきたわね」
実験的に植えた作物はたわわに実り、収穫はまだかと催促するようにこちらを伺っているように見える。
「そろそろ、刈り取るか」
このロンバルディア地方での食糧事情は、干物のような日持ちする食料や狩猟で得た肉なんかが中心である。
なので、栄養価的にどうしても偏る成分が存在する。
それらをここの地下農場で栽培出来れば栄養失調で倒れるような事にもならない。
将来を考え、事前に植えておいた作物。その第一号。
……うん、美味しそう。
折角だから、三人を呼んで一緒に食べましょうか。
―――――――――――――――――――――――
「皆。畑でコイツが採れたから折角だし一緒に食べましょうか」
夕食も済ませ、後は寝床に入るのみという空白時間。
私は三人を呼び寄せ、その作物をテーブルの上に載せる。
微妙にトゲトゲした橙色の表皮に包まれた果実。
その上部には果実部と同等程度の規模で生い茂る緑色の葉っぱ。
「あー! これってもしかして!」
「おや、ミラさん。コレはもしや」
リューテシアとルークがほぼ同時に反応する。
二人は見た事があるのね。そう、コレは!
「パイナポーよ!」
「パイナップルだ!」
「パインアップルですね」
……パイナポーだよ。
「ん? パインアップルと言うのでは?」
「違うわよ、パイナップルよ」
「パイナポー」
……まぁ、些細な呼称の違いなどどうでも良い。
このパイナポーなら、食生活にて不足しがちなビタミン類を摂取する事が出来る。
これさえ食べてればパーフェクトという訳ではないが、足りない部分は他の作物で補えば良い。
これまでは栄養価の問題は腐敗が進行しないものぐさスイッチ内で新鮮な食料を保管するという手段を取っていた。
だが、こうして私達の地下拠点でも新鮮な果物なんかが収穫出来るようになった。
これでまた、私がいなくともこの地下拠点が回るという状況に一歩前進である。
「食べて良いんだよね? 包丁取ってくるわ」
そう言い終わる前に台所へ包丁を取りにいくべく駆け出すリューテシア。
もう戻ってきた、早いわね。
「あ、上の葉っぱの部分は残しておいてね」
「何で?」
リューテシアが手馴れた様子で上のヘタに当たる部分を切り落とした時点で、私はそれを回収する。
コレをまた地面に植えてあげると、そこから新たなパイナポーが育つのだ。
「切り終わったわ!」
「早いわね……」
何という圧倒的早さ。
皮を剥かれ、均等に輪切りで四等分。
全員に行き渡るよう皿に乗せられて配分された。
「じゃ、食べましょうか。この地下農場で収穫した第一号よ」
いただきます。
手を合わせて早速口に頬張る。
甘みは中々に強い。が、それと同時に酸味も強い。
一口、また一口と食べる都度少しだけ口の中が痛くなる。
「……甘い……けど、何か口の中がチクチクする……」
「まぁ、毒があるからね」
えっ? 何それ聞いてない!
とでも言いた気な視線が一斉に私に突き刺さる。
「別に嘘は言ってないわよ、このパイナポーには確かに毒があるのよ。沢山食べてると口の中が痛くなるのも、人体であるタンパク質をパイナポーが分解しちゃってるから。だからこれを料理に利用すると、肉を柔らかくするのに使えるわよ」
三人の食べる手が止まってるけど、気にする事無く私の分を平らげる。
うん、美味しい。まだまだ沢山実ってるから少しずつ食べていくとしよう。
「……ミラさん、食べて大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ。毒って言っても微量だから、死ぬまで食べなきゃ毒にならないわよ」
身体に変調をきたす程の量になる前に、口の中が痛くなってそれ以上食べられなくなる方が早いしね。
「別にパイナポーに限った事じゃないわよ。普段私達が食べてる食事だって、微量に毒がある物は結構多いのよ。過ぎたるは及ばざるが如し、要は食べ過ぎなきゃ良いのよ」
寧ろビタミン補給を行いたいから毎日食べて欲しい位だ。
壊血病とか、怖いしね。
「……どうしたの? 手が止まってるわよ?」
何時までも箸が進まない三人にそう言うと、我に返ったリューテシアが自分の分のパイナポーを完食する。
「……食べないのなら私が食べても良い?」
「えっ? ええ……まぁ……」
「ど、どうぞ……」
少しだけ食べて続きを食べようとしないルークとリュカに了承を取り、貰うというより奪うとでも言った方が良さそうな動きで二人のパイナポーを略奪するリューテシア。
食べかけのパイナポーは一瞬でリューテシアの腹の中へと消えていったのであった。
「……リューテシア貴女、甘いのが好きだったりするの?」
「……そうよ。悪い?」
「これは実験だから少ししか育ててないけど、もっと他にも果物育てられるけど、どうする?」
「是非ともお願いするわ」
地下実験農場に、新たな果物が加わる事が確定した瞬間であった。
あ、あの!
何か昨日からビックリする位閲覧数やらブクマ数やら増えてるんですけど!
ぼ、僕何か悪い事しましたか!?(´;ω;`)
それと俺はパイナップルって言うよ!




