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77.分水嶺

うわああああああああああああああああああスティーラーあああああああああああああああああああぎゃああああああああああああああ!!!!!!!

ぐわあああああああああああ!!!いやああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!

ぎにゃああああぁぁぁぁぁぁん!!!

 あの襲撃事件から、既に一週間が過ぎようとしていた。

 襲撃者の魂をごっそりと蒐集させて貰ったお陰で、魔力貯蔵事情は大分温まってきた。これから冬になって気候は寒くなるけど。

 何の罪も無い人々を殺して奪うとか、流石にそこまでは落ちぶれていないけれど悪人なら話は別だ。

 特別苦しめて殺すような事もしないけど。

 あの襲撃以降、今年の線路延長は早めに切り上げて地下拠点のセキュリティ方面を更に強化する事にした。

 まず、上から伸びていた地下拠点と繋がる鉱山跡地の坑道、これをリューテシアにお願いして封鎖して貰った。

 かなり念入りに塞いだのでこれで再度開通されるような事は無いだろう。

 また、私達や蒸気機関車の出入り口である正面通路にも巨大な鋼鉄製の扉を取り付けた。

 ただの鉄製だと破られる危険性があるので、付与魔法を駆使して強度を高め、また魔力式による錠を掛けられるようにもしておいた。

 そして供給量が懸念されていた水事情だが、本格的な冬が到来する前に大きく手を入れておいた。

 昔と違い、今は拠点の位置が水源より下になっている。

 なので配水管を新たに伸ばし、川と直結させたのだ。

 流石水源直結。配水管がかなり太い事もあり、現状の蒸気機関に必要な水要求量を大幅に上回る供給量だ。

 むしろ時々バルブを捻って水を止めてやらないと、拠点が水没しかねないレベルである。

 そうよね、工業的な量の水を欲するならこの位は欲しいわよね。

 既存の蒸気機関にも手を加え、少々配管の向きをいじった。

 今までは蒸気機関の排出した水蒸気は外へ捨てていたのだが、再利用する事にした。

 これで水蒸気を冷却し再び凝結、気体から水という液体へと戻し、飲み水としても利用出来るレベルの綺麗な水を精製出来るようになった。

 ろ過器を使って捻出していた今までの方式から脱却した事で、飲み水にも困らなくなった。

 仮にこれから人数が増えたとしても、まだまだ余裕で飲み水を確保出来そうだ。


 ……え? 旧水路とろ過器はどうなったって?

 これまでありがとう、後はゆっくり野晒しで休んでいってね。


 かなりの大改修を行ったので、中々時間は掛かる。

 まぁ、中々骨の折れる作業になる予定だったのだが。


「終わったわよ。次は何をすれば良いの?」

「え? そうね、ならこの術式を使えるように勉強してくれるかしら? 後々必ず必要になるからね」

「分かったわ」


 あの事件以降、何故か妙にリューテシアがやる気満々で行動している。

 嫌々ながらやっていた今までが嘘のようである。


「ミラさん、車輪と車軸が出来ました。確認して貰っても宜しいですか?」

「ん、分かった。今行くわ」


 ルークから作業完了の報告を受け、作業場へと向かう。

 作業場に置かれた仮設線路の上を実際に転がし、挙動を確認していく。

 蒸気機関車が完成したが、その周りを補佐する補助車両とでも言うべき代物が不足している。

 なのでこの冬篭り期間中、それらの車両を新たに製造するつもりだ。

 蒸気機関を搭載した車両も作るので流石に時間は掛かるが、仕組みとしては蒸気機関車程複雑ではないから冬篭り期間の間に終わらせられるだろう。

 どうせ石鹸製作は人の手を必要とする作業時間より圧倒的に待ち時間の方が長いからね。


「そろそろまた積雪の時期ね……ルーク、悪いんだけどルドルフに今年最後の石鹸卸してきてくれるかしら? その間に私は車輪の精度を見ておくから」


 そう言うとルークは分かりました、と素直にオリジナ村へと向かう準備を始める。

 そんなに量は多くないので、トロッコでも何とか運べる量である。蒸気機関車を出すまでもない。

 アレはなるべく長距離移動、大量の物資運搬に的を絞って稼動させるべきだ。

 石炭はまだまだあるが、それでも無限という訳ではない。

 無くなったら私達の手で採掘しないといけない、鉱床が残ってるとはいえそれは手間だ。


「ねぇ、ミラ。今度は一体何を作ってるの? 客車や貨物車両を作ってる訳じゃないみたいだけど」


 手渡した術式に関する事項を記載した羊皮紙に目を向けながら、リューテシアが問い掛けてくる。

 走行部分に関しては線路と規格を統一せねばならないのでどの車両も変わりはしないが、上に乗せる部分は別だ。

 その違いにリューテシアは気付いたのだろう。


「ん、そうね。今作ってるのは保守点検用の測定車両と……後はロータリー車って呼ばれてる車両ね」

「……ロータリー車……?」


 聞き慣れぬ単語故に、頭に ? が浮かぶリューテシア。

 ま、冬篭り期間が終わったらすぐに分かるわよ。

 ロータリー車が稼動するようになれば、「冬篭り期間」って単語が消滅するんだけどね。



―――――――――――――――――――――――



 ロンバルディア地方の積雪。それは私の世界同様、強弱が存在する。

 まぁそれは当然か。四季があるなら気候も変化する、気候が変化するなら雪だって冬になるにつれて徐々に強くなり、春に向けて少しずつ終息していく。

 だが雪が降らなくなってもそれまでに積もった雪が解けるかといえばそうではない。

 雪が降らなくとも気温が上がらなければ積雪は氷解しない。


「――で、コイツの出番って訳よ」


 相変わらず外には雪の壁が築かれるロンバルディアの冬。

 一番雪が酷い季節は通過したが、世間一般ではまだまだ冬篭り期間の真っ只中である。

 前年までの私達も同様にこの時期は冬篭りをしていたが、この車両が完成した以上もうその常識に縛られる必要は無くなった。


「……確かロータリー車とか言ってたよね? これは何をする車両なの?」

「ロータリー車……別名雪かき車とも言うわね」

「雪かき車? って、まさかこの車両は……」


 どうやらルークは気付いたようだ。


「そう。これが完成した以上、去年まで総出でやってた線路上の雪かき作業は全部代わりにこの雪かき車がやってくれるのよ」

「総出って、ミラはやってなかったじゃない」

「はい、じゃあ説明するわね」


 リューテシアの突っ込みを無視しつつ、三人を連れて雪かき車へと搭乗する。


「ここが炉、あれが緊急停止レバー、以上。説明終了」


 石炭を投下する場所である炉の位置、それと非常時の操作レバーの位置を教え、説明を切り上げる。


「――あの、ミラさん? それだけですか?」

「ええ、それだけよ」

「蒸気機関というのが取り付けられているので、てっきり蒸気機関車のように相当複雑な仕掛けで動いているのかと思いましたが……」

「勿論、過度な炉の加熱を感知すれば安全弁が働いて停止したりする機構もあるわよ。でも、この雪かき車は蒸気機関車のように後ろのタンクに水を入れて、後は炉に石炭を入れる。それ位しかする事が無いのよ」


 そう、この雪かき車は蒸気機関を搭載してはいるが、蒸気機関車と比べて随分とスッキリした構造となっている。

 その最大の要因は、この雪かき車には自走機構が存在していないのだ。

 走る必要が無いのだから、駆動部分は全撤去。当然複雑化の要因になる変速機の類も一切存在しない。


「この雪かき車は蒸気機関車の前方に配置して、蒸気機関車に後ろから押して貰う形で動くの。だから走行関係のギミックが無い分、単純な操作になるし、作るのも楽だったって訳」


 講釈を続けながら、一度車両から降りて雪かき車の前面部分が見える位置へと移動する。


「あの前方部分に見える回転翼、アレで前方の雪を削り取って巻き込むの。んで、後部に付いてるあそこの排出口から巻き込んだ雪を遠方まで放り投げる」


 以上、仕組みの説明終了。

 だって、そうとしか言いようが無いんだもの。

 蒸気機関云々の部分はもう既に蒸気機関車の部分で散々説明したんだし。


「じゃ、始めましょうか。雪かき車の石炭投下ペースは蒸気機関車と同じ要領で良いわよ」


 そうなるように調整したし。


「……そうね。リュカ、そろそろ一人で石炭投下でもやってみる?」

「ええっ!? ぼ、僕一人でですか!?」


 目に見えて狼狽するリュカ。


「ええ、そうよ。だって何時までも私におんぶにだっこじゃ私が休めないじゃない。じゃ、決定ー」


 石炭投下作業で一番慣れてきているのはリュカだ。

 それに、蒸気機関車と雪かき車で石炭投下をしなければならない箇所が二箇所になったのだ。

 二箇所同時には流石に私も見ていられない。

 どちらか一つは私の管理の手を離れた上で稼動させなければならない。


「大丈夫大丈夫、点火と消化作業には立ち会ってあげるから。とりあえず石炭投下作業だけ一人で頑張ろうか。ね?」

「うぅ……が、頑張ってみます……」


 よしよし。

 それじゃあ一丁始めますか!


 炉に石炭がくべられ、十分な回転速度を付けた雪かき車を確認し、私達は蒸気機関車へと乗り込み地下拠点を後にする。

 雪かき車を後ろからゆっくりと蒸気機関車で押し出し、雪の壁にめり込ませるように走らせる。

 時折メコメコと硬い雪を巻き込み排出している音なんかも聞こえたりしたが、問題なく雪かき車は稼動している。

 ふっふっふ、これで越冬を待たずして線路敷設が強行出来るようになったわね。

 待ってなさい海よ、私達がもうすぐ向かうからね!


 オリジナ村を通過した際、たまたま外にいたアーニャに凄くキラキラした眼差しで見詰められた気がするけど気にしない事にした。

竜核の呪霊者ちゃんが死んじゃう……ッッッ!!!

誰か、誰か助けてよおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!

こんなのって無いよ!酷過ぎるよぉ……ッ!!

あああああああああんまりだあああああぁぁぁぁぁぁ!!!

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