72.補助携帯端末「ものぐさスイッチ」 偽神の片翼
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魔力の乏しい私の補助器具として、『神』の力を解析して生み出されたこのスマホ型携帯端末――ものぐさスイッチ。
私が居た世界に住まう、全知全能の神域を目指した愚者の英知の一つ。
内部バッテリー内に魔力を溜め込み、また周囲に魔力が存在する場合は常に外部から魔力を蓄積し続ける。
このものぐさスイッチは魔力を用いて稼動してはいるが、操作自体は魔力を用いずとも行えるようになっている。
魔力に恵まれなかった私が使う為に開発されたのだ、当然といえば当然だが。
この端末は手による操作以外にも、音声認識による操作も受け付けるようになっている。
戦闘中にイチイチ画面を見ながら操作する事など到底出来ない。
そう、今回のような時などは尚更だ。
あれだけ大きな音を立てて騒いでいたのだ、状況は大体飲み込めた。
「――えっ、あれ?」
奴隷契約書、その改竄した術式を利用して三人をこの中枢部へと引き寄せる。
契約書に仕掛けられた制約、拘束力は私が見ても相当な代物で、術式の格としては私の世界に存在した『神』の力と同格のように思える。
それ程までの凶悪な効力を持ったこの契約書の術式を妨害する手段など、まず存在しないだろう。
ましてや他者の血を吸う事しか能が無い輩にそんな物を使えるとは思えない。
改竄した転移術式は何も問題無く動作し、私の目の前に三人が転移してくる。
「全員無事ね、全部片付くまでここで大人しく待ってなさい」
「……ッ! ミラさん、敵の数は全ては確認してませんが最低でも20人以上はいます!」
「そう、分かったわ」
ルークが自分が見た人数を報告してくれたので、参考がてらに聞いておく。
その程度の人数だとは思えないのだけどね。
「そこで待ってなさい。ゴミ掃除してくるから」
私はここの拠点の整備を続けていたが、この中枢部以外は一切セキュリティ方面で手を加える事をしなかった。
それに加え、石鹸の影響で周囲に知れ渡る大金の存在。
だから、こうして賊に襲撃されるのは当然の帰結だ。
全て、予定通り。
誘蛾灯に誘われた羽虫。
別に消えても問題無い輩だって事は分かった。
一罰百戒という言葉がある。
奪いに来たんだもの、逆に奪われる覚悟も当然してるわよね?
さて、ここに忍び込んだ連中には可愛そうだけど見せしめになって貰いましょうか。
私達に手を出したら、どれ程の目に遭うかって事を知らしめましょう。
私は何時までもここに居る訳ではない、私が居なくなったとしても、誰も襲う気が起こらなくなるよう。
もう二度と私達に手を出さないように、入念にね。
「M84スタングレネード、M26手榴弾、暗視ゴーグル、M16自動小銃」
音声認識に切り替えたものぐさスイッチが私の声を受け、必要な道具を手元へと引っ張り出す。
暗視ゴーグルのバンドを絞り、自分の頭にピッタリフィットするよう調整する。
全ての準備が整った上で、中枢部の術式を操作する。
「プロメテウスノヴァ発動術式、シャットダウン。魂魄簒奪発動術式、スタート」
地下拠点が、闇に包まれる。
貴方達のその命、「使わせて」貰うわ。
地下が暗転した直後、中枢部の入り口を開く。
暗視ゴーグル越しに入り口を塞ぐ三人の姿を視認。
引き金を絞り、胴体部分を薙ぐように鉛玉の雨を撃ち込み三人を地面へと転がす。
入り口が開けた所で即座にスタングレネードと手榴弾の安全ピンを取り外し、中空へと放る。
さながら真夏の太陽が現れたかのような膨大な光量が地下の空間を包み込み、侵入者の視力を奪う。
それと同時に炸裂する手榴弾。
金属片を無差別に撒き散らし、侵入者達に死傷を与える。
マズルフラッシュによってこちらの位置を悟られる危険性があるが、最初のスタングレネードで視界を奪っている。
スタングレネードの効きが悪かった相手とそうでない相手は暗視ゴーグル越しの動きを見れば大体予測出来る。
動きの良い敵から打倒して行く。
「M16自動小銃保持、FA-MAS F1設置」
弾が切れた。
予備弾倉はあるがリロードの時間が惜しい。
弾が切れたM16を即座に亜空間に押し込め、次の銃火器へと持ち替え即座にトリガーを引く。
一人たりとも近寄らせない。
近寄られればこんな小娘の身体だ、容易に組み伏せられてしまう。
だから圧倒する、終始圧倒し続ける。
手榴弾で薙ぎ払い、銃弾の嵐で撃ち倒す。
一発、また一発。
その凶弾が傷付け、殺め、その命を奪っていく。
「クリア」
各部屋、一部屋一部屋に手榴弾を放り、勢いを削いだ上でアサルトライフルにて掃射する。
弾が切れたらリロードせず、即座に次の銃へと持ち替える。
淡々と、流れ作業をこなすような流れで侵入者を排除していく。
逃げる連中は、あえて追わないようにした。
逃げた連中にはここに攻め入ればどうなるか、それを口伝で周囲に拡散して貰わなければならない。
だから全滅はさせない、でもこの拠点から逃げ遅れた連中には容赦無く鉛玉を御馳走してあげるわ。
全滅は駄目だけど、全滅しないなら多ければ多い程良い。
暗視ゴーグルのお陰で、明かりの無いこの空間でも忍び込んだ賊の動き、その一挙手一投足が容易に見て取れる。
何が起きているのか分からず、逃げ惑う者。
腹部に銃弾を受け、地面に転がりながら呻く者。
既に20人以上は倒している。さて、拠点に残ってるのはあと何人位いるのかしら?
リューテシア、ルーク、リュカ、この三人以外でこの場所に居る生きとし生ける者その全てに無心で銃弾を浴びせる。
無力化した敵にトドメを刺すような事こそしないが、それでも十数人程度は既に事切れているだろう。
――別に、何とも思わない。
今更だ。
今までどれだけ罪の無い命を奪ってきたと思っている。
それと比べれば、罪の有る命を奪う事など、何とも思わない。何も感じない。
目の前に現れる標的を見付ける都度、冷たい引き金を絞る。
何度も、何度も、何度も。
散々繰り返してきた行為、手馴れたものだ。
徐々に怒声は減っていき、阿鼻叫喚すら過ぎ去っていく。
逃げるだけの余力がある者は必死に出口へ向けて駆け出し、この惨状を見てそれでも尚向かって来る相手は全て爆破し、射殺していった。
派手に武器弾薬をばら撒いたが、これも一種の先行投資だ。
数に限りのある武器は、撃つのは最小限にし、脅しとしての切り札として運用するべきなのだから。
この世界からすれば魔法すら超越した未知の攻撃、物の怪の類として勘違いされるような恐怖だろう。
これで今後、私達にちょっかいを出すような輩は激減するだろう。
それでも向かって来るなら、淡々と対処するだけだ。
「――終わったわね」
まだ息がある賊の呻き声、それ以外は何も聞こえなくなった。
中枢部へと戻り、術式を再起動し光源を復活させる。
暗視ゴーグルを取り、三人の方向へ向き直る。
「じゃ、後片付けをしちゃいましょうか」
こうして、私達の拠点を襲った襲撃事件は幕を閉じようとしていた。
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中枢部の術式を操作し、地下の光源を復旧する。
襲撃者を撃退した後の地下拠点内は、凄惨たる光景であった。
心臓を撃ち抜かれ絶命しているモノ、手榴弾の爆発を近距離で受けてしまったのか、首から上が存在していないモノ。
これらはまだ死んでいるからまだマシである。
片腕が千切れ飛んだにも関わらず、まだ生きている生存者もいた。
千切れた腕と傷口を抱えるようにして蹲っており、低く唸り声を上げている。
でも謝らないわよ、先に仕掛けて来たのはそっちだからね。
「何時までも死体をこのままにしておく訳にはいかないからね。全員で片付けちゃいましょうか」
人間の血というのは、汚い物だ。
血中には体内の時点で雑菌も存在するし、その栄養故に外気に触れればたちまち大気中の雑菌までもが繁殖する。
さっさと掃除した方が良い。
この世界の衛生に対するレベルの低さ考慮に入れれば、最悪疫病の発生すら考えられる。
治療法も材料も頭で分かっていても、それを実行出来るかどうかは別問題なのだから。
「これだけの人数を……魔法も使わず、たった一人で……」
ポツリとルークが言葉を漏らす。
この惨状を目の当たりにした三人の反応は、三者三様であった。
私が単身で退けたという事実にただただ驚愕するルーク。
その図体を萎縮させ、未だ怯えが抜け切らないリュカ。
目の前に広がる負傷者と屍の山を見て、顔色を青くしているリューテシア。
「生きてる連中はふん縛っときなさい、粗方無力化してるから大丈夫なはずよ。死んでる連中は大広間に集めといて。後で私が――」
そこまで口にして、視界の端に映った微かな違和感。
つい先程までの光景と、何かが違う。
――そこにあったはずの、死体が一つ足りない。
「こ……の! 化け物がああああぁぁぁぁ!!」
死んだフリ、いやそれとも気絶していたのがたまたま目覚めただけか。
襲撃者の一人が、腰から抜いた短剣を腰溜めに構えながら、こちらに向けて突進してくる。
その先には、リューテシアの姿。
不意を突かれたリューテシアはその場で硬直し、身動き一つ見せない。
リューテシアを半ば押し倒すような勢いで押し退け、向かって来る敵と相対する。
「M1911設置」
この距離では突撃銃では間に合わない、拳銃を手元に呼び寄せ、銃口を向ける。
距離が近い――回避が間に合わない。
男が突き出した凶刃は私の腕を掠り、その箇所に熱が宿る。よくもやってくれたわね。
男の眼球に銃口を捻じ込む気持ちで突きつけ、引き金を絞る。
放たれた銃弾は眼球を容易く破裂させ、勢いそのままに脳髄を抉り、頭蓋を撃ち砕き、脳漿を中空へと巻き上げた。
あの中を生き延びていた襲撃者は、今度こそ糸を切られた操り人形のように力無く倒れ伏す。
「寝たフリしてるなんて中々したたかね」
「あ……あぁ……」
ともあれ、刃がカスったものの無事敵は退けた。
押し飛ばしたリューテシアの安否を確認するべく視線を向けると、そこには今まで見た事が無い程に青い顔をしたリューテシアがいた。
……もしかして突き飛ばした拍子に何処かを怪我した? それとも押し退けたつもりだけど間に合ってなかった?
だが、リューテシアの身体に傷は無さそうだ。
「ミラさん! 大丈夫ですか?」
「平気よこんなの。別にどうって事無いわ」
「だ、だって……ミラさんの腕、そ、そんなに血が……」
「別に致命傷なんかじゃ無いんだから、その内治――」
視界が、揺らぐ。
大地が突如起き上がり、私の真横に密着してくる。
いや、違う。私が倒れたのだ。
身体が何者かによって動かされ、視界が天井へと向く。
私を見下ろす形で、リューテシア、ルーク、リュカの三人が覗き込んでくる。
視界がぼやける。
この症状、記憶にある。
――そうか。
さっきの刃に毒が塗ってあったって訳か。
前言撤回。さっきの一撃は掠り傷じゃなくて充分な致命傷だったようだ。
ルークが何かを言っているようだが、聴覚が正常に機能していない。
毒の周りが早い、毒の正体こそ分かったが、治療する手段が無い。
これで、おしまいか。
いや、まだ死ぬ前にやるべき事がある。
ものぐさスイッチを手元に呼び寄せる。
指先が動かない、音声認識をオンにしておいて良かった。
音声指示でものぐさスイッチを操作し、自らの手元に奴隷契約書、三人分を引き寄せる。
魔力を流し、三人の首輪に掛けられた全ての機能を停止させる。
油断、していたのだろうか。
所詮、相手は自分より格下だと。
せめてフレイヤが使えてれば。いや、無い袖の事を考えても意味は無いか。
徐々に迫る、死の足音。
あー、そういえば魂魄簒奪術式を起動させっ放しだったわね。
って事は、私もエサか。相応しい末路ね。
私は死ぬが、不思議と気分は良かった。
廃棄処分の実験動物風情が、少なくとも三人の未来を救ったのだ。
悪く無い所か、上出来だろう。
視界が闇に包まれ、何も見えなく、何も聞こえなくなる。
私のような大量殺戮者が逝く場所など、考えずとも決まっている。
それじゃ、さっさと逝きましょうか。
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| { {‐|/_-)jN <やっぱり今は私が動くべき時ではない




