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71.襲撃

おねショタ最高(TOB感)

 ロンバルディア地方、鉱山跡地。

 もうすぐ冬が訪れるこの寒冷地域にしては珍しく、雪ではなく雨が降っていた。

 零度に迫る冷たい雨が大地や線路を叩き、暗雲から雷鳴が轟く、そんな夜。


「ね、ねえルークさん。み、ミラさんは何処行ったの?」

「ミラさんですか? そういえば朝から寝台列車の水回りを設置すると言って、ずっと作業場に篭り切りですね」


 リュカがミラの行方を尋ね、ルークが答える。

 今朝からミラは未実装であった寝台列車の水回りを完成させるべく、一人作業場に篭り黙々と作業を続けていた。


「あ゛ー……終わったああぁぁ……」


 噂をすれば影、丁度作業を終えたミラが作業場を出て大広間へと戻って来た。

 大きく伸びをしながら、自らの肩を片手で揉みながら疲れた様子で二人の前を横切って行く。


「あ、リュカとルークじゃない。石鹸製作はどんな調子?」

「これはミラさん、お疲れ様です。石鹸製作でしたらミラさんが作ってくれた蒸気機関のお陰で、今までとは比べ物にならない速度で量産出来てますよ。待ち時間が少々暇ですけどね」

「そう。三人の負担が減ったなら作った甲斐があったわね。需要が減らない限り石鹸は減る一方だからね、今日は天気が悪いから線路敷設出来ないし、今の内に作れるだけ作っておいて」


 ルークの回答に満足したのか、ミラは指示を飛ばしながら真っ直ぐに中枢部へと向かう。


「私、ちょっと今から中枢部で作業してくるわ。その作業の影響で一時的にこの地下拠点の全システムが落ちて真っ暗になるかもしれないから、明かりを手元に用意しておくようリューテシアにも伝えておいて」

「分かりました、伝えておきます」


 ミラの伝言を快く承諾するルーク。

 ミラは言った通り真っ直ぐに中枢部へと向かい、その入り口が足元からせり上がった土壁で封鎖された。


「はー……やっと部屋が広げ終わった。アイツ、私の事をモグラか何かと勘違いしてんじゃないの? いや、そうに決まってる」


 ミラと入れ違いで、一人口を零しながら大広間に戻って来るリューテシア。

 ミラからの指示を受け、四人の寝室の横にゲストが来訪した際に寝泊り出来る空間を確保していたのだ。

 部屋はかなり広く、数十人規模の来訪があっても問題無く収容可能なスペースである。

 ただ、現状寝具といった家具が何も設置されていないので殺風景な光景となっている。


「リューテシアさん、ミラさんからの伝言です。一時的にこの地下の明かりが消えるかもしれないので手元に明かりを用意しておくようにとの事です」

「……」


 リューテシアはルークの方を黙って睨んだ後、踵を返す。

 私に話し掛けるな。

 そう暗に示しているかのような態度である。

 そんなリューテシアの態度を見て、静かにルークは首を横へ振る。


「……やれやれ。どれだけ酷い目に遭ったのかは分かりませんが、同じ釜の飯を食う仲なのですから少し位は心を開いてくれても良いと思うのですが」

「同じ釜の飯を食う、って何ですか?」

「ああ、それは(ことわざ)の一つですね。同じ食事を取る共同体が――」


 そこまで口にして、ふと口を止めるルーク。

 視線を大広間と駅を繋ぐ、通路へと向ける。


「ん……?」

「? ど、どうかしたの?」

「――いえ、何でもないです。それじゃあ言われた通り取りに行きましょうか」


 視線を外し、ルークとリュカはミラに言われた通り、光源であるランタンを取りに自室へと戻っていく。



 ルークが逸らした視線の先。

 その二人の様子を物陰から見詰める、外套で身を隠す人物の姿がそこにはあった。



―――――――――――――――――――――――



 ランタンを手に、再び大広間へと戻って来たルークとリュカ。


「それにしても、何だかどんどん便利な場所になってきたよね」

「そうですね。始めはただの洞穴暮らしだったのに、今では下手な富裕層より良い生活環境になっている気がしますよ」


 当初は硫化水素と熱水による高温でとても生物が住めるような空間では無かったこの地下空間。

 今ではミラが手を加え開拓を続けた結果、温泉完備、空調により常に適温に保たれ、農作業場まで完備した広大な空間と化していた。

 農作物も育ち始めており、徐々にこの地下空間から一歩も出ずに生活出来るような気配を漂わせていた。


「そ、そういえば今日も石鹸を作るのかな? ぼ、僕、何も聞いてないけど……」

「いえ、リュカくんはミラさんを呼んできて貰えますか?」


 そうリュカに頼んだルークは直後、手にしていたランタンを空中に放り、もう片方の手に握っていた剣の柄に手を掛ける。

 そのまま鞘から引き抜き、身を翻しながら抜き身の刃を背後目掛け振り抜く!

 響く金属音。

 その白刃は背後から迫っていた凶刃とぶつかり、ルークの背後でランタンが地面へと落ちて転がった。


「魔物かと思いましたがどうやら違ったようですね!」


 黒い外套を目深に被った、謎の人物。

 その表情を窺い知る事は出来ないが、短刀を握るその逞しく浅黒い腕から目の前の人物はどうやら男のようだ。

 そうルークは当たりを付けながら周囲を更に観察する。


「リュカくん! ミラさんに敵襲だと伝えて下さい!」


 突然の出来事に頭を抱えて怯えていたリュカをルークは一喝しながら、一度力任せに剣を振り抜き、外套の男と距離を離す。

 手にしていた剣を両手で握り直し、目の前の男と相対するルーク。


「早く!」

「う、うん!」


 再度リュカに指示を飛ばすルーク。

 それを受け、ミラのいる中枢部へ向けて駆け出すリュカ。

 しかし、その助けの手がミラの所に届く事は無かった。


「んぐっ!?」

「おっと、逃がしゃしねえぜ?」


 物陰に潜んでいた、もう一人の侵入者が横から飛び出し、リュカの片腕を捻りながら地に組み伏せる。

 リュカの体格は良い方ではあるが、不意を突かれて組み伏せられた挙句、相手も肉付きの良い大男だ。

 ましてや戦闘が不得手なリュカではこうなっては抜け出す術はない。

 

「親分! こっちには誰も居ませんでしたぜ! 金目の物も無かったですけどね」

「おう、そうか」


 ルークと相対している親分と呼ばれた男は、ルークから視線を切らずに返事をする。

 男は再び短剣を構え、ルーク目掛け突進する。

 横へと最小限の動きで回避するルーク。

 回避された男は即座に身体を翻し、手にした短剣を横へと薙ぐ。

 ルークは自らの首元目掛け迫るその白刃を間一髪で回避する。

 横へと短剣を振った事で男の懐はがら空きとなり、大きな隙が生まれる。

 その隙を逃す程、ルークは甘くは無かった。

 無防備な胴体目掛け手にした剣を上から真っ直ぐに振り下ろす――


「ッ!?」


 ルークの眼球目掛け飛来する謎の影。

 それを回避する為に頭を振った結果、集中が途切れルークの剣は男へと届く事は無かった。

 謎の影はルークの背後の壁に突き刺さり、その正体が顕になる。

 影の正体は針であった。

 男は口の中に仕込み針を含んでおり、ルークの不意を突く形で吹き出したのだ。

 想定外の不意打ちにより今度は逆にルークが隙を晒す事になり、男から放たれた蹴撃がルークの剣を握る腕に命中し、その衝撃でルークは剣を取り落としてしまう。

 武器を失ったルークは男の持つ短剣を首筋に当てられ、動けば殺すという無言の意思表示をされる。

 抵抗を完全に封じられるルーク。


「あん? コイツ等奴隷じゃねえか」


 ここで初めてルークの首元に巻かれた拘束用の首輪の存在に気付いた男。


「奴隷ですか? なら掻っ攫って売り飛ばしちまいますか?」


 リュカを取り押さえているもう一人の男が提案する。


「いや、奴隷って事は奴隷契約書があるはずだ。奴隷契約書は二重契約は出来ねえルールになってる、大元の奴隷契約書を何とかしねえと奴隷商に売り飛ばす事も出来ねえ」

「親分! こっちにも一人隠れてましたぜ!」

「気安く触るな人間! ぶっ殺すわよ!!」


 魔法を使う才に長けていても、その魔法の使用を首輪で封じられてはただの小娘にしか過ぎない。

 リュカ以上に容易に捕らえられたリューテシアは、噛み付かんばかりの勢いで男達に怒りを顕にする。


「おうおう、良く見ればこの女、エルフとかいう魔族じゃねえか」

「気の強ぇ女だなぁ、ま、俺は嫌いじゃねえけどよ」

「こういう女の根性を圧し折って屈服させるのが最高なんだよなぁ」


 リューテシアと共に現れた男達は、下卑た笑い声を上げながらリューテシアを舐めるような目付きで見る。

 その視線は、リューテシアが最も嫌悪する物であった。

 自身を道具として、性欲の捌け口としてしかみていない、唾棄すべき物。


「親分! こいつ等はどうしますか?」

「縄で縛って固めておけ! それと何処かにコイツ等の契約書があるはずだ! それにその持ち主もな! 偵察の話じゃここに出入りしてる人物は四人って話だ、後一人を探せ!」

「そういや親分! さっきそこの半魔族(まざりもの)の野郎がそこの奥に向かおうとしてやしたぜ!」

「ほう、つまりこっちの奥に何かがあるって訳か」


 リュカを捕らえていた男が、ふと思い出した事を親分へと伝える。

 その先を見るが、ただの岩壁にしか見えない。


「……何かしらの魔法的細工がされてるみたいだな」

「なら、俺の出番ですね」


 リューテシアと一緒に居た一人が前へと出て、壁を探り始める。

 その先にあるのはこの地下空間の魔法的動力を総括している中枢部。

 奥にはただ一人、ミラしか存在していない。


「……確かに。この奥に向かって魔力の流れがあるみたいですぜ、壁に見えるけどここが入り口って事か」

「解けそうか?」

「ま。俺に任せて下さ――」


 男がそう断言しようとした直後、地下拠点の光源が一斉に光を失い、本来の洞窟らしい暗闇に包まれる。

 突如視界を奪われ、僅かに動揺を見せる襲撃者達。



 その隙を逃すまいと、閉ざされた岩壁の奥からゆらりと一人の影が襲撃者達に歩み寄った。

じゃ、ここまで。

書き溜めが尽きたので、9月からは何時も通り5の倍数日に更新して行くのじゃ。

ま、どーでもいいがのー。

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