69.大収益と修繕
拠点とオリジナ村の間を貨物車満載の木箱を積んで何十往復。
その都度、何度も何度も投炭作業を実践を通じて行い続ける。
折角なので、蒸気機関車の運転訓練も兼ねて、一石二鳥の蒸気機関車の走行を行う。
投炭作業は今の所、リュカが一番上達しているように見て取れた。
完全に線路敷設作業を中断して石鹸搬出作業を行い続けたが、ようやくその終わりが訪れた。
ルドルフから追加500箱の発注を受け、既に完成していた石鹸の梱包を終えてその全てが搬出を終えたのだ。
ロンバルディア地方が丁度夏真っ盛りの頃。
ルドルフが再びオリジナ村に戻ったと聞いて、売り上げを受け取るべくルドルフ宅を訪れた所、以前とはうって変わって上機嫌なルドルフが出迎えてくれた。
「おお、ミラじゃないか! お前のお陰で助かったよ!」
「それはどうも。……ねえ、作った私が言うのも何だけどさ。本当にあれだけの量の石鹸が売れたの?」
「勿論さ。まだ店に在庫は山程あるが、それも数ヶ月程度があれば問題無く捌けるだろうさ。それもこれもあれだけの量を用意してくれたからだ、有難う」
満面の笑みを浮かべながら、ルドルフは意気揚々と売り上げを報告してくれている。
「それで、売り上げの方は?」
「ああそうだった! 実は流石に金貨の搬送は厳重に行ってるから到着には時間差があってなぁ。まだ全部の売り上げはこっちまで届いて無いんだよ」
「全部は、って事は一部なら届いてる訳?」
「勿論だ、こっちに来てくれ」
ルドルフが倉庫として使っている一室へと案内される。
うわー、以前ダイヤモンドを貴族の館で売り払った時と同じ……いや、それ以上の量の金貨の山、山、山。
「搬送に掛かった馬や護衛費用、それとこっちの取り分何かを差っ引いたのがそこにある金貨だ。この部屋にある金貨は全部そっちの取り分だ、好きにしてくれて良いぜ」
「……販売価格の吊り上げとかやってないわよね? 私は銀貨3枚から5枚の間で売って欲しいんだけど」
「いいや? 俺はそんな事はしちゃいねえさ。俺はただ、誰に対しても平等に銀貨5枚で石鹸を売ってやっただけさ。何も変な事はしちゃいねえよ」
ルドルフが何やら含みのある言い方をしているが、その言葉に嘘は感じられなかった。
まぁ、良いか。何はともあれこれで石鹸の山の半分程を現金化する事が出来た。
まぁ多少多く石鹸が減ったけど、それでもまだ冬篭りの成果の内の半分位しか出庫してないんだけどね!
線路敷設に専念出来るように思いっ切り作り置きしたけど、流石に作り過ぎだよね。
でもこれでまた当分資金不足に苛まれる心配は無さそうね。
これだけあるなら、それなりの量の魔石も作れそうだし、鉄製品もまだまだ作れそうね。
「――ならルドルフさん。この金貨の一部を使ってまた鉄や食料……それと、今回は多少多めに宝石を仕入れたいんですけれど」
「金を払ってくれるなら何でも仕入れてやるさ。どの位の量が欲しいんだ?」
「そうですね。宝石は大体――」
ルドルフに必要な材料を伝え、それを仕入れるのに必要な支払い等を事前に済ませておく。
商取引を済ませ、代金を支払った後の金貨の山は全てものぐさスイッチの中に放り込んでいく。
今回はただの売り上げ受け取りだけが目的だったので、蒸気機関車は運休である。
リュカに再びトロッコを走らせて貰い、拠点へととんぼ返りする。
全員、箱詰め作業を頑張ってくれたし。
こうして売り上げの成果も手元へと届いた。
こういう日は、特別ボーナスを出してやるのが礼儀という物だろう。
料理なんかも奮発するとしよう、メリハリって大切だからね。
石鹸販売も一段落付き、ルドルフが定期的に石鹸を売ってくれるよう催促をしてくるが、以前のように1000箱といった馬鹿げた桁数の要求はもう流石に無いようだ。
箱数的には一回につき20~30箱程度であり、既に物自体は作り終えてあるので別に大した労力ではない。
ルドルフが早速魔石の材料となる宝石を仕入れてくれたので、また魔石の製造に取り掛かれるようになった。
魔石の製造には時間が掛かるが、別段大掛かりな道具を必要としないので出先でも製造が可能だ。
なので線路敷設作業中、寝台車両の中で一人黙々と作業を進めている。
あー、それにしても手作業で魔石作るの本当面倒臭いなぁー。
金や他人任せで出来るなら全部丸投げしたくなるわー。
もっとダラけたい。
早く海まで線路伸びないかなぁー……
そんな事を考えながら、今日も一つ、また一つ。
淡々と魔石の製造に勤しむのであった。
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「水が流れて来ない?」
リュカからの報告を受け、水道の出口である大浴場予定地へと向かう。
水の出口を見てみると、確かに水が流れてきていない。
「ど、どうしましょうか?」
「どうするって、原因見付けて直すに決まってるでしょ」
水道が復旧しないとまーた当初の水汲み生活に逆戻りだ。
私は水汲みしない(確定)から、そうなると大変なのは貴方達なのよ?
そもそも、石鹸製作に蒸気機関の稼動で毎日必要とする水の量はとても一人で運び切れるような量じゃ無くなっている。
水道はもう私達の生活の必需品と化しているのだ。
「とりあえず、故障する確率が高いであろう箇所から順番に点検して行きますか」
そんな訳で、リュカと共に久し振りに水源である滝の側までやって来た。
滝の側って、何だか癒されるわね。マイナスイオンが出てる感がとても感じられる。
ここじゃなかったら水道を順に辿って原因を究明する予定だったのだが。
「あー、水車壊れちゃってるわね……」
幸いにも、明らかに一目で分かる故障原因が特定出来た。
まぁ、故障箇所がここで良かった。
水道管にゴミが詰まった、みたいな故障原因だったら水道の長さ的に調査が非常に面倒な作業になる所であった。
故障箇所である水車本体と、その周囲を点検していく。
どうやら、水車本体以外に故障箇所は無さそうだ。
「ちゃんと壊れてくれたのね、お陰で車軸の方には一切ダメージが行ってないわ。これならすぐに修理出来るわね」
他の箇所は鉄製だが、水車本体はわざと木製にしておいた成果が現れた。
木製部分の水車がダメージを受け止めてくれたお陰で、車軸へのダメージを逸らす事が出来た。
コラテラルダメージという奴だ、この木製水車は他の部品を庇って壊れてくれたのだ。
破損部位は全て取り外し、持ち帰る事にした。
こいつは良く乾かした上で薪にしよう、最後まで無駄にはしないのだ。
「じゃ、また水車を作って取り付けましょうか」
昔と違い、今は研磨機が実働状態である。
研磨仕上げ作業の時間が大幅に短縮出来るので、私とリュカ二人でも一日と掛からず水車の製作を終える事が出来た。
再び車軸に水車を取り付け、ガラガラと鎖が音を立てて動き出し、水を高所へと運んでいく。
これで水車は問題無い。
ただ、私達の水使用量が蒸気機関の稼動から一気に跳ね上がっている。
私達が活動するのは数時間だが、この水車は年中無休365日フル稼働してくれている。
この差を利用して水を消費していたのだが、それでも供給量に対し消費量が上回りつつある。
そろそろ、この水車では力不足感が否めなくなってきた。
設備も整ってきた、材料も資金も増えて来ている。
好い加減、本気の水供給システムを作る頃合かもしれないわね。
冬の気配も見えつつある、そんなロンバルディアの秋頃の出来事であった。




