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67.アーニャ、来訪

祝、某TOB発売

そんな訳でプレイしてきます

 アーニャは一度ルドルフの家へと戻り、書置きを残して来たそうだ。

 私達の拠点へと行って石鹸を卸す準備をしてくる事、拠点はこの真っ直ぐ伸びた線路の先にある事。

 そう行き先を書き置いて来たという。

 倉庫からリュカと一緒に梱包用の木箱を貨物車に積載し、とんぼ返りするべく蒸気機関車へと搭乗する。


「じゃ、急だけど戻りますか。アーニャさんは……申し訳ないですけど後ろの貨物車に乗って貰えますか?」


 寝台車両は今回牽引してきていない。

 機関室にアーニャを乗せると流石に狭くて身動きが取れない。

 ゲスト待遇としては間違っている気がしなくもないが、今回はこれで我慢して貰おう。


「手すりがあるので、しっかりと握って座ってて下さい。そんなに速度を出すつもりは無いですが、振り落とされると危険なので」

「分かったわぁ~」


 アーニャがしっかりと貨物車に乗った事を確認し、蒸気機関車を転進させる。

 速度は控えめにしておいたが、それでもトロッコより早い約一時間半程度で拠点へと到着した。

 地下駅に蒸気機関車を止め、機関室から降りてアーニャに到着した事を伝える。


「アーニャさん、着きました。ここが私達の家です」

「あらぁ~、ここなのねぇ~。ミラちゃん達の家って、地下にあったのねぇ~」


 アーニャは物珍しそうに、周囲をキョロキョロと見渡しながらそう言う。

 地下暮らしってのは中々珍しいでしょうけどね。 


「もっと揺れるのかと思ったけど、全然揺れないしぃ~。馬車よりずっと早いわぁ~」


 乗り心地に関しては問題無かったようだ。

 ではさっさと梱包作業に移るとしよう。


 大広間に移動すると、流石に目の前に広がる石鹸の壁にはアーニャも驚きを隠せない御様子である。

 ルークとリューテシアに急遽大量の石鹸が物入りになった事を告げ、これからアーニャと一緒に梱包作業をして貰うようにお願いする。

 私とリュカは、蒸気機関車の後部に予備の貨物車、それと寝台車両を連結してから梱包作業へと移る。

 商売人の家に嫁いでいるだけあり、アーニャの梱包速度はルドルフと比べても何ら遜色が無い速さであった。

 ただ、流石に1000箱という量は途方も無い数字であり、一日二日で終わるような作業量ではなかった。

 毎日帰るのも時間と燃料の無駄なのでここで泊まって行く事になるが、そうなればアーニャが寝る場所をどうするかという問題が浮上してくる。

 寝床は私達の人数分しか用意していなかったし、それに他の場所は作業場だったり農場だったりで寝るのに不適切だ。

 なので、アーニャには私の部屋を貸し与える事にした。

 私は寝台車両の寝床で寝る事にした、作業の日々で疲れた面々がぐっすり熟睡出来るよう快適な寝床に仕上がってるのだ、ここだって寝床として何も問題は無い。

 今回はアーニャ一人だけだからこれで済んだが、流石にこれからの事も考えねばならないだろう。

 今までは部外者を招かないようにしていたが、アーニャという前例が出来てしまった。

 これからは他者がこの拠点を訪れる機会も増えていくだろう、その都度寝床が無いなんて慌てる訳にも行かない。

 この梱包作業が終わったらゲストルームも作らないと駄目かぁ、リューテシアにまた頑張って貰おう。


 梱包作業を開始してから数日後、作業のの合間の休憩中。

 箱数にしておよそ200箱は梱包を終えただろうか。

 梱包が終わった物から逐一貨物車へと搭載していき、限界まで積み込み終えたら第一陣として出発する予定である。

 貨物車は後100箱も載せれば発車出来る状態となったので、あと一息である。

 ルークとリュカが、部屋の中央で何やら話し込んでいるのが見える。

 何を話してるのかは知らないが、重要な話なら私に言いに来るだろう。

 この梱包作業、とにかく単調で飽きてくる。

 今は休憩時間なので、部屋の隅で椅子を並べてその上でゴロリと横になっている。

 あー、まだ200しか出来てないのかぁー。五分の一かぁー、1000箱ってどんだけなのよ。

 誰よ梱包手伝うって言った奴、こんなアホみたいな量の石鹸作った奴。

 そんな事を頭の中で考えながら、虚ろな瞳で部屋全体を見渡していると、視界の端、大広間の石鹸の山の中。

 何やらアーニャとリューテシアが話しているのが見える。

 ん? 何か珍しい組み合わせね。会話は聞き取れないけど、一体何を話してるのやら。

 まぁどうでもいいか。休憩時間が終わるまで寝てよう。

 


―――――――――――――――――――――――



「お疲れ様ぁ~。確か、リューテシアちゃん……だったわよね?」

「……何よ、人間が何か用?」


 大量に積まれた石鹸の山に背を預け、一人休息を取っていたリューテシア。

 そんな彼女の横に陣取るように腰掛けるアーニャ。

 とび色の瞳で覗き込むような体勢でリューテシアに声を掛ける。


「手伝ってくれてありがとう。私、とっても助かってるわぁ~」

「……命令されたから、仕方なくやってるだけよ」

「ねえ、気になったんだけどリューテシアちゃんって何歳なのかしら?」

「六十歳だけど、それが何?」

「そうなんだぁ~。やっぱりエルフって見た目だと全然年が分からないわねぇ~。あ、私は二十六歳なんだよ~」


 魔族の中でもエルフと呼称される種族は、この世界に住まう生命体の中でも特に寿命が長い種族である。

 平均寿命は軽く数百年を超えており、エルフの中でも長寿の者は1000歳を超える。

 人と外見も似ており、似ているが故に疎まれている。


「――私がエルフだったら、何なのよ?」

「エルフの人に会うのも何だか久し振りだなぁ~、って思ってねぇ~」

「……私以外にも、この近くにいるの?」

「ううん、会ったのは私がまだ小さい子供の頃よ。私、子供の頃にレオパルドの魔王城に居た事があるのよぉ~。その時に会ったのよぉ~」

「何で人間の貴女が魔王様のお城に居て、しかも今ここに無傷で戻ってるのよおかしいじゃない。嘘付くならもっとマシな嘘付きなさいよ」

「んー、お父さんの話だと何だか色々大変な事が起きたみたいだけどぉ~、最後は勇者様と一緒にこのロンバルディア地方に戻って来たのよぉ~」

「ふぅん……勇者様が助けてくれたって訳ね、それは良かったわね」


 勇者によって、危ない所を助けられた。

 そういう事なのだろうと腑に落ちた様子を見せるリューテシア。


「小さい時の事だから細かくは覚えてないんだけどねぇ~。でも、金髪の綺麗な女の人と一緒に遊んだり、青い髪の人と鬼ごっこしたりしてお城で遊んでた事は覚えてるわぁ~」

「……で、それが一体どうした訳?」


 アーニャの昔話を聞かされ、若干苛立ちが混ざった声で答えるリューテシア。

 改まった様子で、大人の女性らしい落ち着いた口調で話し出すアーニャ。


「――リューテシアちゃん。貴女、良い人に出会えて良かったわね」

「あの女が良い人な訳無いでしょ」

「ううん、リューテシアちゃんが否定してても分かるわよ。だって貴女、髪も肌も綺麗だし怪我も全然してないし、変な臭いだってしないもの。この石鹸と一緒の、良い匂いがするわ」


 リューテシアの顔を横から眺めつつ、アーニャは続ける。


「ミラちゃんが奴隷を買ったって言ってたけど、ここにいる人達は皆、ミラちゃんに大切にされてるのね」


 リューテシアに向けていた顔を、向かいのルークやリュカへと向けるアーニャ。

 何を話しているのかは聞き取れないが、二人の表情は明るく、楽しげに会話を弾ませていた。


「人にも魔族にも、どっちにも良い人はいるし悪い人だっている。大金を出したのに奴隷扱いせず、健康的な生活を与えてくれる人が悪い子に見えるのかしら?」


 大広間に並べられた椅子の上、まるで打ち上げられたアザラシのように椅子の上で寝転がっているミラを見ながらアーニャは断言する。


「大金出したんだから、使い潰したくないってだけなんでしょ」

「でもそれなら、この位のお仕事の量で休憩時間なんてくれる物かしら?」

「それは……あの女、何考えてるのか良く分からないし……」

「――リューテシアちゃん。貴女は本来の希望に沿わない経緯でここにいるのかもしれないけど、それでも貴女がいた闇の中から拾い上げてくれた人がいた、それだけは喜ぶべきだし感謝するべきだと思うの。貴女を、ちゃんと人として扱ってくれてるんだから」

「…………」


 リューテシアはアーニャの言葉には何も答えず、沈黙で返した。


「――うん、もう休憩時間も終わりね。それじゃあリューテシアちゃん、また一緒に頑張ろうねぇ~」

「……分かったわよ」


 再び間延びした口調へと戻るアーニャ。

 彼女の言葉がリューテシアの心に届いたのか、それは分からない。

 だが心なしか、リューテシアの表情は僅かに緩んだ……ように見えた。

でも予約投降済みだから別に投下が止まる訳ではない

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