55.疑問と日常
今日もやるのかって?やるよ勿論
半ば習慣化してしまった感があるのデス
知らない人は知らなくて良いのデス
大粒の、羽毛のような雪が雲天から降り注いでいるロンバルディア地方の冬。
灰色の雲に紛れながらも、その一際輝く隠し切れない存在感を目で感じ、ふと疑問に思う。
「……そういえば、この世界にもちゃんと太陽と月があるのよね」
恒星である太陽、またはそれに類する星が近くに存在しなければ、そもそもここは死の星になっているはずなのだから恒星はあって当然なのだが。
私がいた世界とは異なるはずのこの世界でも、名称はちゃんと太陽と月と呼ばれているようだ。
偶然、というには出来過ぎてるわね。何か意図が……
いや、寧ろ経緯を考えれば私達の世界にあった太陽と月が名称を合わせたのかしら?
それに、衛星である月も一つだけだ。
恒星もそうだが、衛星は一つの星につき一つ、なんてルールは存在しない。
例えば地球に対する衛星は一つ、月だけであるが、木星であらばガニメデ、イオ、エウロパ、カリスト……その他含めて実に六十個以上の衛星の存在が確認されている。
この世界が私がいた星と違う星なら、衛星や恒星の数が違ってもなんら不思議ではないのだ。
でも、私のいた世界と同様にこの世界も恒星と衛星は一つだけ。名称も同じ。
偶然だろうと言ってしまえばそれで終わりなのだが、何らかの作為を感じなくもない。
「――ま、良いか」
疑問は尽きないが、こんな事を考えていても私の生活が楽になる訳でも無い。
お星様を眺めててもお腹は膨れないんですよ。
こういう事はもっと生活に余裕が出来てから考える物である。
久々に日差しを浴びたのだし、また鉄加工作業に戻りますか。
天気、雪だったから太陽が雲に隠れちゃってたけどさ。日差し浴びれてないけどさ。
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蒸気機関が実働を開始した事で、お風呂には常に熱湯に近い温泉の源泉が注がれ続けている状態となった。
これは坑道部分に溜まった温泉の排出も兼ねているので、ずっとこのままにしておくつもりである。
だが注がれる温泉量に対し、垂れ流しの川から汲み上げた水の量が圧倒的に負けている。
そのせいで、お風呂の温度がそのままでは何時まで経っても熱湯のままなのだ。
ここは後々改良を加える気ではあるが、今はまだ出来ない。
なので、入る時は雪をぶち込んで温度を下げるという強硬手段を取らせて貰う事にした。
今現在、リュカとルークが二人掛かりで一石二鳥の除雪作業を行っている。
通風孔が積雪で埋没すると換気が出来ず、地下拠点が酸欠状態となってしまうので通風孔周りの除雪は必須作業だ。
そして通風孔の地上部分は、線路のすぐ側に設置してある。
これが何を意味するかと言うと、通風孔の除雪とお風呂の温度を下げる為に雪を運搬する事は両立出来るという事だ。
雪掻き作業にトロッコを持ち出し、除雪した雪を片っ端からトロッコに載せていく。
雪を積み終えたら、そのままトロッコに乗って一気に地下まで走り抜け、今度はその雪を浴槽に放り投げるという寸法である。
温度を下げる際には、源泉が流れ込む配管の向きを曲げて、浴槽に流れ込まずにそのまま排水管へと流れるようにしておく。
これで何時でも綺麗な温泉に入れるのだ。
そう、綺麗だよ。だってこの周囲所かこの世界には自動車や工場といった排気ガスを出すような原因が無いでしょう?
焚き火位なら世界中でやってるかもしれないけれど、個人が燃やす程度で大気なんて汚れない、そこまで自然はヤワでは無いのだ。
大気が汚れて無いから、雨も綺麗。雨が綺麗なら雪も綺麗なのよ。
食べても問題ないレベルよ、むしゃむしゃ。シロップが欲しいけど。
シロップかぁ。うーん、果物はまだちょっとなぁ。
「……風呂場、出来たわよ」
「あら、もう出来たの? もう少しスローペースでも別に構わなかったのに。そんなハイペースで働いてると疲れない?」
フルーツの事を考えていたら、風呂場のスペース拡張が完了したという報告を持ってリューテシアが訪れていた。
今は雪で外に出られないので、施設内の充実を図るのと雪解け後の行動にスタートダッシュを掛けられるように行動力を全振りしている。
とはいえ、火急の用事に関してはもう全て片は付いたのだ。
当面の活動資金、活動拠点、衣食住に人手、そして新たなる活動資金の入手手段と販売経路。
全部揃っているのだからもう急ぐ意味は無い。
だからもう、デスマーチなワークシフトはおしまい。
これからは程々に働いて程々に日々を過ごして行きましょう。
……という方針で行こうと思っているのだが、リューテシアだけペースが何時もデスマーチ状態な気がする。
「別に疲れてなんかいないわよ」
「そう、なら仕事が速い有能な子って事にしておくわ。それじゃあ今日の仕事はもう良いわ、予定だともう三日は風呂場に手を割かれる予定だったのだし……残りの三日はリューテシアだけ休んでて良いわよ。勿論、日々の生活に必要な労働に関しては別だけどね」
「……何もしなくて良いの?」
「寝てたきゃ寝てて良いし。というか、私はこれから寝るし。一緒に寝る?」
「寝ないわよ馬鹿」
悪態を突いてスタスタと去っていくリューテシア。
向かってる先はどうやら実験農場施設のようだ、そういえばまだ今日は水遣りしてなかったわね。
リューテシアが水遣りをしてくれるのだろう、なら私は今日はこのまま寝るとしよう。
さて、蒸気機関の製作。その第一号は無事完成し、しっかりと稼動する事も確認出来た。
拠点の拡張もリューテシアがやってくれているし、雪掻き作業もリュカやルークが頑張ってくれている。
また、拠点の稼動に必要な魔力供給も断続的にリューテシアとルークが行ってくれている。
石鹸の製作も今は一時的に停止しているが、再開しようと思えば何時でも再開出来るし、三人はもう完璧に石鹸製作の工程を覚えているだろう。
ならば次に私が作るべき代物は――アレね。
ただ、一人じゃ手が回らなくて無理ね、力仕事の面もあるからやっぱりリュカに協力して貰わないとなぁ。
……あ、そういえばそろそろ次の給料日だったわね。
今回渡す分も用意しないと。
今月は雪掻きに鉄加工とリュカの負担が大きいから、今回はリュカが多めかなぁ?
翌日。
給料を手渡した所リュカがまた何処か別の世界へ旅立ってしまいました。
休日を増やしたのに前回同様金貨五十枚は多すぎ……いやぁー、そうでもないんじゃないかなぁ?
顔が凍るような吹雪の中での雪掻き作業&溶鉱炉の側で鋳造作業とかいう超気温差作業の連続を考えたら妥当でしょ。
振り向けばそこにデスガイド




