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47.好感触とネーミングセンス

良い店舗名が思い付きませんどうしましょう><

「――結論から言うと、やはり睨んだ通りこれは大金の臭いがするな。初日はイマイチだったが口コミの影響か翌日から爆発するように売れてな」


 一週間後。

 私はリュカと共にルドルフ宅へ伺い、オリジナ村へと戻って来たルドルフから石鹸の売れ行き、その結果を聞く。


「魔法も使わないで浄化魔法並みに綺麗になるから、行けるとは思ってたがここまでとはな。嬉しい誤算だったよ」

「それで、一個辺りの適正な価格ラインは?」

「――最終的には一つ辺り銀貨5枚に落ち着いたよ。これより安いと在庫不足になっちまうし、高いなら浄化魔法を使える術者に頼みに行くってなっちまうからな」


 石鹸の適正価格は銀貨5枚か。

 商売人のルドルフがそう睨んだなら、この世界の市場での最適解はそれなのだろう。

 私としては、一切文句は無い。

 それ所か、思っていたより高く売れているようなので嬉しい誤算だ。

 石鹸二つ売れば金貨1枚か、これはかなりの額だ。


「所で、一つ聞いて置きたいんだが。この石鹸の販売元、どう説明すれば良い? それをうっかり聞くのを忘れちまってな」

「販売元?」

「何処の誰が作ったか、ってのさ。販売してるのは俺だが、仕入先は何処だ、って客側に質問された時にちょいと困っちまってな」

「私の名前は出さなかったのかしら?」

「許可を貰ってねえからな。勝手に名前出してそっちに不都合があっても困るだろうしな」


 あら、義理堅いのね。

 でもそれがルドルフがここまで商売人として生き延びてきた武器の一つでもあるのかしら?


「販売元ねぇ……」

「個人名、商店名、何でも良いさ。そういう情報があればそっちも役に立つと思うぞ? ミラ、お前は以前俺に対して自分は無名だ、そう言ったな。なら名前を売れば良い。石鹸の売れ行きは好調だ、石鹸と一緒に名前を売って、有名になれば良い。名前が売れれば、石鹸以外に何かしら作った時にも目に留まりやすくなるからな」


 ルドルフが言っている事は分かる。

 要は、ブランド名を付けろという事だ。

 特定の商品に対し、熱狂的な信者が生まれる事はままある事だ。

 ルドルフの言う通り、ブランド名があればそれだけで名前買いという現象も発生する。

 ただ、それで期待外れの商品を掴ませてしまうと名前に泥を塗るという事態にもなるのだが。


「何を企んでるのか知らないが、オキの作業場に鉄資材を運び入れてる時にオキから聞いたぜ? 何か随分とへんてこりんな代物を量産してるらしいじゃねえか。どうせ石鹸以外にも何か作ってるんだろう?」


 当たりである。

 ただ今は拠点開拓が中心で販売するような物は石鹸以外に作ってはいないが。


「この石鹸とやらを売るついでに名前を売っておきゃ、次に何か新しい物を作った時にスタートダッシュを掛けられるからな。宣伝も手間が省けるし、悪い話じゃねえぞ?」

「そうね。何か考えておくわ」


 ルドルフの言う利点はこちらも重々理解している。

 後々の事を考えれば利点は多いのだし、考えるべきだろう。

 石鹸に関しての報告は終わったので、リュカにお願いして外に積んでおいた石鹸、その第二陣をルドルフに手渡す。

 ルドルフの報告次第では石鹸を引っ込める事もあったかもしれないが、売れ行き上々のようなので、持ってきた石鹸を全て渡す事にする。

 また、一度鉄資材の代金も払い込んでおく。こういうのは払える時に払うべき物だ。


「それで、今度は追加で頼みたいのだけれど」

「何だ? 鉄以外に何か必要なのか?」

「ええ。耐火レンガと、鋳砂に、それに魔石を作りたいからある程度大きい宝石。それと冬支度をそろそろ始めたいから、保存の利く食料を少しずつ仕入れて欲しいの」

「魔石? ミラはそんな物まで作れるのか? 魔石の製造はコストも手間も掛かると聞いてるが」


 魔石。

 オキの作業場である溶鉱炉にも取り付けられているが、その用途は幅広い。

 内部に術式を埋め込む事で、魔力を込めるだけで宝石に刻んだ術式を発動させる事が出来る。

 前々から何度か、羊皮紙に書き込んだ術式を起動させてはいたが、

 この方法だと魔力による反応熱で燃え上がってしまうのだ。

 反面、宝石は鉱物という石の一種なので、熱にもある程度耐性がある。

 一度使う度にイチイチ燃え上がったりしないので、何度も使う必要がある術式に関してはこちらの方が断然良い。

 だがしかし、これだけではわざわざ高価な宝石を使う必要は無い。

 熱にある程度強い、それこそ鉄板に術式を焼き付ければ、それで良いじゃないかとなるのがオチである。

 宝石でなければならない理由は、魔力伝導ロスによる効率面が原因である。

 原因は私の世界でも未だに解明されてはいないが、世界に存在する物質の中で、一番効率良く術式を起動させられる媒体が宝石なのだ。

 宝石に術式を刻んで起動した際、魔力伝導ロスの現象はほぼ発生せず、電気で例えるならばほぼ超伝導状態と言っても過言ではない効率を誇る。

 良い事尽くめなので欲を言うならば、地下施設の中枢部、その全てを魔石で管理したかったが流石にコスト面で断念せざるを得なかった。

 高出力低コストを実現する為にも、是非ともこの世界でも魔石は作っておきたい。

 製法なら、私の頭の中に入っているのだから。必要なのは材料だけだ。


「仕入れるのは構わんが、予算はどれ位だ?」

「そうね、金貨を3000枚程渡して置くわ。耐火レンガは使い道多そうだから1トン程、鋳砂はとりあえず200キロ程欲しいわ。それで食料は100キロ程度。それらを仕入れて残った代金の範囲でなるべく上等な宝石を買い上げてきて欲しいわね。勿論、運搬には時間が掛かりそうだし、このロンバルディアに雪が積もり始める前までに間に合えば良いわ、こっちの方が優先順位は上だから最悪、鉄の仕入れるペースが落ちても構わないわ」

「……今更指摘する気も起きんが、金貨3000枚はポンと出す金額じゃねえぞ?」


 端金(はしたがね)、だなどと言う気は無いが、今後も使える設備費用としての先行投資と考えれば安い買い物である。

 ルドルフの話によると、今から買い集めても保存が利く食料となると乾き物ばかりになるとの事。

 その位は想定していたし覚悟の上なので、構わずルドルフにお願いする。

 栄養素が偏りがちになるが、その対策に関しては今すぐではないが後の布石を既に打ってある。

 最初の数年は、私の持つものぐさスイッチ内の亜空間による時間経過の停止、これを利用して凌ぐとしよう。



―――――――――――――――――――――――



「名前、ですか?」

「何でそんなのを私達に考えさせるのよ」

「三人寄らばなんとやらって言葉があってね、こういうのは全員で案を出しながら考えた方が良いのよ」


 拠点へと戻った私は、三人を巻き込んでこの石鹸の販売店舗名を考える事にした。

 ここで働いているのは、私一人だけではない。

 私の独断で決定して万が一にでも反感を買いたくないし。

 些細な問題かもしれないが、人の心というのは良く分からない物だ。

 (いさか)いの原因は少ないに限る。皆の意見を聞いて反映した店舗名にしたい。


「ぼ、僕も考えるんですか?」

「そうよ。私も含めて全員、何か一つ以上店舗名を考えてね」


 とりあえず、ある程度案が煮詰まるまでは石鹸作りを続行する。

 売れる事は分かったのだ、という事は石鹸生産を続けていれば活動資金及び生活費を稼げるという事だ。

 無論、材料として使用しているトロナ石が現状有限資源である以上、何時までもという訳には行かない。

 だが、あのボタ山の規模と現状での製作ペースから考えて、二年三年程度で枯渇する量には到底見えなかった。

 それに鉱床もほぼ丸々残っているので、無くなれば採掘も可能だ。

 当面の問題は無いだろう。


 石鹸を作りながら店舗名を考える時間を取り、三日後に案を募る。

 勿論、私も案は考えてある。

 各々に羊皮紙とペンを手渡し、自分が考えた店舗名を記入し、発表する事にする。

 一番最初に発表を切り出してきたのはルークであった。


「あくまでも僕が見てきた範囲での知識ですが、店舗名というのはその創業者名や何処で生産しているのか、というのが一目で分かるように店舗名にそれが組み込まれているパターンが多いように思えます。ですので、それを踏まえて僕は――」


 成る程、ルークの理論は一理有る。

 創業者名が店舗名に組み込まれているパターンはかなり多い。

 無論全部が全部そうではないのだが、傾向としては一定の量はある。


「こういう名前にしました」


 ミラのアトリエ~ロンバルディアの錬金術師~


「却下」

「駄目ですか?」

「その名前からは何故か凄く危ない気配を感じるわ」


 得体の知れない何処かから、睨まれお叱りを受けそう。そんな予感。


「というより、何で副題が付いてるのよ」

「そのままだと安直だと思いまして、創業者名と何処で生産しているかを明記した上で少々捻りを効かせてみました」


 捻り過ぎて雑巾絞りの勢い突き抜けて捻じ切れそうである。


「じゃ、次はリューテシアね」

「……」


 無言で羊皮紙を提出してくるリューテシア。

 その目線に若干黒い陰りを感じる気もしなくはない。

 リューテシアの考えた店舗名は……


 モグラ工房


「……なんでモグラ?」

「正に名は体を表すって状態でしょう。土いじりばっかりさせて」


 そんなに言う程土いじりばっかりさせて……させてるわね。

 これからもして貰う予定だし、頑張ってねリューテシア。


「それと、リュカはどんな感じの名前を考えたの?」

「ぼ、僕は……」


 ミラのお店


「そもそも、何で私の名前を入れるのよ」

「ご、ごごごごめんなさい! 頑張って考えてみたけど、僕の頭じゃ何も考え付かなくて……!」

「ん、別に怒ってる訳じゃないからそんなに怯えなくても大丈夫よ。ちゃんと提案した、提案する機会はあったって事実が大事なんだから」


 流石にリュカのこの名前は論議に値しない。

 安直っていうより、無地だ。絶対埋没する。


「……私達の提案にケチ付けてるみたいだけど、そういうあんたはどんな名前を考えたのよ?」

「別にケチ付けてるつもりは無いんだけれど、そう聞こえたなら謝っておくわ。それと、私が考えた名前はこれよ」


 別に私の名前を入れなければいけないというルールなんて存在しない。

 そして、何故こうして石鹸を作っているのか。その根幹を考えるのだ。

 私が快適な、満足出来る生活を送る為には路銀や環境が必要。

 それを整え、私が満足出来る居住空間を整える為に石鹸を作っているのだ。

 全ては満足の為、だから名前はこれ以外有り得ない。


 チームサティスファクション


「「「それは駄目」」」


 満場一致で蹴られた。

 駄目? 駄目か。

さすがはサティスファクションのリーダーだ!

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