44.本拠地、稼動開始!
リューテシアとルークの二名には魔力の出力調整の訓練を続けて貰い、
どうにか魔法陣の色を青色圏内で留められるレベルまで感覚を掴めたようだ。
一番挙動が安定しているのはルークで、リューテシアの方は若干怪しい。
壊されても嫌なので、リューテシアにはもう少しの間練習を続けて貰い、
拠点の本格稼動、その先陣を切って貰う役目はルークに任せる事にした。
「ここで良いんですね?」
「そうよ。練習で感覚は掴めたわね? 同じ出力を保ったまま、この魔法陣内に居てくれれば良いの。多少スペースを広めに取ったから、その魔力出力量を維持し続けられるならここにいる間は何をしてても良いわ。椅子に座ってようが本を読んでようが寝転がってようが好きにしてて良いわ」
魔力さえこの魔法陣及びバッテリーに供給されてればそれで良いのだ。
必要なのは結果であり過程に意味は無い。
ルークが魔法陣の始端であるおよそ四畳半程度の円陣の中に入り、魔力を放出する。
足元の魔法陣が青く発光し、その魔法陣へと接続された導線を通じ、隣接する魔法陣へと次々に魔力が導通していく。
高きから低きへ水が流れ落ちるかのような勢いで、部屋一面に広がった大小様々な術式へ魔力が流れて行く。
導通した魔法陣が赤、青、黄色、白、彩り鮮やかな輝きとなって地面から光を迸らせる。
何一つ欠ける事無く、全ての術式が完璧に起動している。
私の術式に失敗など無いのだ。
ちゃんと術が稼動している事を証明するかのように、私達が居る中枢部となるこの部屋の天井付近に眩い球体が出現する。
大きさは私の頭より二回り程大きい位か。白く輝くその球体から放たれる光が室内を照らし、部屋の隅々までその光が行き渡る。
「よーし、完璧ね。流石私」
「何この球体?」
「そこで赤く光ってる術式がこの球体の正体よ。術式名プロメテウスノヴァ、但しコストパフォーマンスを重視して熱量も光量も物凄く控えめにしてあるわ。それでも読み書きするのに充分過ぎる程の光だけどね」
明るさ的には蛍光灯やLEDライトの光量になるよう調整した。
直視すると眩しいが、直視しなければ丁度良い明るさだ。
「ちょっと実験したいから、ルークはこのまま一時間程魔力を出し続けて」
「一時間位ならどうとでもなりますが、何の実験ですか?」
「ん、ちょっとバッテリーの具合を確かめようと思ってね」
私がこの世界に来る際、このバッテリーは残量がすっからかんになってしまった。
なのでこのバッテリーを使えるようにする為には充電しなければならないが、充電出来る環境が今まで存在しなかった。
だが今、ようやくこれで再びこの世界でも充電出来るようになったのだ。
このバッテリーは通常の交流電力と魔力の双方から充電出来るハイブリッド式になっているのだが、
魔力でも充電出来るという点がここに来て功を奏した形となる。
この魔法陣の上で魔力を放出する事で、本拠地の稼動に必要な術式を全て起動させるのと同時に、バッテリーの充電も行っている。
私のいた世界では電力と魔力の相互変換が既に実現しており、このバッテリーに関しても当然その技術を搭載してある。
そして、外部からの魔力供給が止まった際には自動的にバッテリーへと接続が切り替わり、バッテリーの内部魔力を消費して術式を稼動させ続ける仕組みとなっている。
これにより、バッテリーに充分な魔力さえ溜まっていれば誰かがこの術式を起動させ続けなくとも勝手に動き続けてくれるのだ。
私が実験したいのは、一時間の充電でどれ位この部屋が動き続けてくれるのか、である。
無論、これから拡張していくにあたって次々に魔力消費量は膨れ上がるのだろうが、デフォルトでの状態は知って置きたい。
リューテシアに引き続き魔力量の調整練習をして貰いながら、一時間の時間を潰す。
一時間後、ルークに魔力放出を止めて貰い、魔法陣から下がらせる。
ルークが下がった後も魔法陣は発光を続けており、バッテリーからの魔力供給へと問題なく切り替わっている事が分かる。
バッテリーの内部残量を確認出来るので、確認してみると0%表記で点滅しているままであった。
このバッテリーのフル充電状態からすれば、あの一時間で溜まった量というのは残りカスみたいな物なのだろう。
しかし残りカスと言えどもそれはこのバッテリーの許容量からの比率であり、それなりに量はあったようだ。
消えるまで待つつもりだったのでカンテラに火を入れっ放しにしていたが、先に油が切れそうだな、と心配していた丁度その時に再び室内が闇に飲まれた。
時間は……およそ三十分程か。
成る程、デフォルト状態での魔力消費ペースと充電量の大体のペースは掴めた。
「じゃ、ルークにまた魔力を放出して貰おうかしら。今日はこれだけしてくれれば良いわ。辛くなるようだったら途中で休憩挟んでも構わないから、お願いね」
「分かりました。……ミラさんはどうするのですか?」
ルークが再び魔法陣の中に立ち、魔力を放出し始める。
再び室内に光源が戻り、部屋の隅で赤青点灯を続けているリューテシアの姿が照らし出される。
そんな二人を確認して、この室内を後にしようとしたタイミングでルークに呼び止められる。
「――ちょっと光源の設定をしてくるだけよ」
大広間、そして私達の個室。
それぞれの部屋の天井に拡張術式を書き加える。
この二箇所に関しては踏み台があれば普通に天井まで届くので、カンテラ片手に私一人で済ませてしまう。
大元の術式で制御と準備段階は済ませてあるので、大広間は五分程、個室に関しては一部屋一分程で拡張術式の書き込みが終わった。
天井に書き記した術式からぶら下がるような形で、白く眩い球体が出現する。
大広間は五箇所に設置して光量にムラが無くなるように配置、個室はそもそも一つあれば充分全体を照らせるので一箇所をそれぞれ設置する。
そして最後の一箇所だが、これはちょっと私の手では手が届かないな。
一度中枢部に戻り、今度は青黄点灯魔法陣の上に立っているリューテシアを呼び出し、大広間の奥に作った巨大な空間へと向かう。
ここにも光源を設置したいので、カンテラを持ちつつ開いた片手で天井へと術式を書き込んで行く。
この空間は天井までの高さが実に十メートル強もあるので、流石に踏み台云々程度ではとてもとても天井まで手が届かない。私の背丈とか関係無しに。
なのでリューテシアに肩車して貰い、風の魔力で足場を作って天井付近まで移動して貰う。
拡張術式自体は一つで良い。これも一分程で終わる作業だ、他の部屋と違う点は術式に指定する数値を変更する程度だ。
魔法陣からぶら下がる形で光源が膨れ上がるように出現したのを確認し、リューテシアに合図を送る。
「終わったわよ、降ろして頂戴」
羽毛が空から舞い降りるかのようにゆっくりと地面へ軟着陸し、リューテシアの肩から降りる。
片手で目元を庇いながら頭上を見上げると他の部屋と比べて明らかに巨大な、およそ直径二メートル強の巨大な光球が頭上に展開されている。
これだけ巨大な光源が部屋の中央に出現した事で、リューテシアに二週間近く掛けて延々と押し広げて貰ったこの巨大空間は部屋の隅々まで真昼の如き明るさで照らし出されている。
光量を増やしたのでその分球体の光は眩しくなっており、まともに頭上を直視すると目が焼けてしまいそうだ。
省エネ運用しているので熱くは無いが、光の量だけ見るなら擬似太陽と言っても差し支えない程だ。
「そういえば聞いてなかったんだけど、こんな馬鹿デカい空間なんて作って一体何をする気なのよ? 私達が住む、なんて大きさの部屋じゃないわよ?」
「ああ、ここね。ここの用途は決まってるわよ」
この地下空間は、地熱で常に適温に保たれている。
こんな暖かい空間があるのなら、是非ともやらなきゃね。
ファーレンハイトまで遠征に行った帰り際に見付けた、ステキ植物もあるし。
「ちょっとここで農作業でもしようかと思って」
「――は?」
二週間掛けて作ったこの空間はおよそ五キロ四方にも及ぶ。
それだけの規模があれば、十分に農作業は可能なのだ。
リューテシアは相変わらず変人でも見るかのような視線をこっちにブン投げて来てるけど。
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翌日、完全に蚊帳の外に置かれていたリュカをこの地下空間へと呼び出す。
これからは石鹸作成もこの地下でやって貰う予定だ。
そしてリューテシアに、追加で大広間の天井から鉄道用に空けた通路に沿う形で四角い穴を開けて貰う。
大きさは私の身体がスッポリ収まる程度の大きさだ。
穴を開けた後に、その穴の外周に拡張術式を刻む。
術式が稼動し、外から外気が次々にこの地下空間へと流れ込んでくる。
今開けた穴は通風孔だ、一先ずこれで外気を取り入れる事も可能になった。
外の涼しい空気と地熱で暖まった空気が混ざり合った結果、吹き込んでくる空気は妙に生温い。
このロンバルディア地方の冬の気温がどれ程か、ってのが知りたいわね。
地上からこの地下までは数百メートル単位で離れているので、多少外気が冷たくともここまで流れ込んでくる内に地熱で暖められる。
だが冷た過ぎると地熱での加熱が間に合わず、冷たい空気のまま流れ込んでくるかもしれない。
私がこの世界に来た時期は冬の終わり頃だったようなので、本当に一番辛い時期を知らない。
もし真冬の風が通風孔からそのまま届くようなら、対策を考えないといけないかもしれない。
だけどこれは、このロンバルディアが本格的な冬になったらの話しね。
通風孔の前に立っていると髪がバサ付く程の中々な強風が吹き付けて来るが、これだけ広い空間の換気をする事を考えるとこれ位の風量は必要だろう。
あと、更にリューテシアには私の頭程の大きさの穴を駅となる箇所の端っこから、テューレ川付近に向けて延ばして貰う。
こちらには通風孔とは違う拡張術式を刻む。
ちゃんと術式は青色に発光するが、今は動かない。
ここは、排水溝になるのだ。
水属性魔法によって制御管理され、ここに流れてきた水、液体の類は全てこの穴を通じて外へと流れ出るようになっている。
流れ出た汚水は水車による給水地点よりやや下流の位置からテューレ川へと流れ込むのだ。
垂れ流しだ。でもこの時代だとそんなもんでしょう。
膨大なテューレ川の水量で希釈されるし、大丈夫大丈夫。
ケミカルな工業汚水を垂れ流す訳じゃないんだから。
ただ少しだけ問題があり、地下へと拠点を移した事で、生活用水を汲んでいた水場から距離が離れてしまったのだ。
水を汲む為に昇り降りする生活へと逆戻りである。
無論、この状況を放置する気は更々無い。
と、言う訳で。次は水回りの改善作業をしてしまいましょうか。
次からはまた5の倍数日更新に戻ります




