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42.線路延長工事

 まとまった数が揃った石鹸をルドルフの元へ卸しに、そしてリューテシアが延長してくれている地下拠点まで線路を引き込む為の追加資材をオキから受け取りに。

 私はリュカと共に再びトロッコに乗ってオリジナ村へと向かった。

 しっかりと水平に、歪み無く伸ばされた路線に加え、サスペンション機構によって振動を吸収する仕組みを搭載したトロッコ。

 この要員が組み合わさった鉄道の旅は、それはそれは快適な物だ。

 揺れが殆ど無いので、後方へと流れ飛んで行く景色を堪能する余裕すらある。

 ただ、景色を見る為には速度の出ているトロッコから頭を出さないといけないので、風で髪の毛がとんでもない事になるけど。


 この線路の走行中、魔物からの襲撃を受けた事は今まで一度も無い。

 まぁ速度が速度だから、仮に襲われても進行方向に立ち塞がる形でもない限り大抵は振り切れそうだけど。

 にしても、ちょっとこの状況は何かおかしいなぁ。

 鉱山跡地付近に魔物の姿が無いのはまだ理解出来る。

 あの辺りは元々火山性ガスが噴出してたから、硫黄の臭いを嫌がった生物が近付かなくなり、それに伴って肉食性の魔物達も食料となる獲物が無いのだから近付かないのだろう。

 でも、この辺りは雪が残っていた頃に以前魔物と交戦した事がある平野部だ。

 魔物が存在している事は確認している、というか、近付いて来ないだけでかなり遠巻きに魔物達がこちらの様子を伺っているのが今現在も目視で確認出来ている。

 襲われても撃退出来るのだが、襲って来ない理由が分からない。

 もしかして、敷設した線路が原因か?

 急に見慣れない代物が出現したから、野性の本能が警戒して近付かないようにさせているのだろうか?

 まぁ、魔物が近付いて来ない理由は思い浮かべど断言出来る程の根拠が何処にも無い。

 何故近付かないのかは不明だが、近付いて来ない分にはこちらとしては有りがたい限りだ。

 安全に村まで往来出来る、こんなに素晴らしい状況を作り出せたのだから。


 線路の終端まで辿り着いた後、トロッコをものぐさスイッチに収納してオリジナ村へと向かう。

 最初にオキの作業場に向かい、完成している線路を受け取る。

 トロッコによって往来が楽になったといっても、線路を何本もトロッコに載せて帰れる程このトロッコの搬送力は強くない。

 なので私がリュカにくっ付いて行き、携帯端末であるものぐさスイッチの亜空間内にレールをサクサク収納していく。

 私にしか出来ない方法だが、この手段ならどれだけ線路があろうと一度に持って帰れる。

 今日までの製造代を一括でオキに手渡し、引き続き線路製作をお願いする。


 次に、ルドルフ宅へと向かう。

 どうやら間が悪く、ルドルフはつい先日再び商取引の為にこの村を発ったそうだ。

 ただ、近場での取引らしいのでそう長くは掛からないとアーニャが教えてくれた。

 折角来たのだから渡す物だけは渡しておこうという事で、アーニャにルドルフへの伝言と完成した石鹸を手渡しておく事にする。

 尚、既にルドルフは私が発注した鉄資材を何度か仕入れて来てくれたようなので、その分の支払いをアーニャを通じて済ませておいた。

 鉄資材の一部をものぐさスイッチに入れておき、残りはオキの作業場まで送って貰うよう頼んでおく。

 どうせ線路はまだまだ必要なのだ、予備分だけ確保して残りは全部線路に加工して貰おう。

 これで今回オリジナ村でやる作業は終わりだ。

 石鹸の販売結果は次回以降にお預けだ。


 オリジナ村で済ませる用事を粗方済ませた後は、とっとと拠点に戻る事にする。

 どうせ半日未満の時間で手軽に往復出来るようになったのだ、長居する理由も無いし、行きたくなったら気軽に行けば良いのだ。



―――――――――――――――――――――――



「お、終わった……」

「お疲れ様」


 地下拠点まで伸びる通路。

 その通路にバラスト敷設が完了し、精も根も尽き果てたといった様子で地べたに身体を投げ出すリューテシア。

 直線距離だから距離自体は1キロも無い程ではあるが、まさか一週間足らずで完成させるとは。

 ……奴隷市場だと、このリューテシアの価値は金貨五千枚だって事らしいけど。

 これ、恐ろしい位破格な買い物だったんじゃないかしら?

 いや、絶対そうよね。

 公平な目線で見るように心掛けても、間違いなくこのリューテシアという娘はこと魔法の扱いに関しては「天才」と呼ばれるに値する実力がある。


「じゃ、次はこの空間広げるわよー」

「私は何時になったらモグラから卒業出来るのよ!?」

「モグラ、可愛いじゃない。モグラでも良いんじゃない?」

「可愛いとかそういうのじゃなくて!」

「それに、地下暮らしなら太陽に晒されて紫外線で肌を傷付ける事も無いのよ。UVケアもする必要もないし、白い肌を容易に保てるわよ。女性は肌が命って言うし、良かったじゃない」

「し、しがいせん……? ゆーぶい……? 何それ?」


 ……ああ、そういえばそうでしたね。

 この世界、科学に対する知識水準が極端に低いんだった。

 うーん、でも何か違和感があるのよね。

 何だかこの世界の科学知識って、凄く歪に感じる事が多い。

 この世界には、製鉄技術はある。

 鉄を溶かす温度を出す事が出来るし、剣といった武器を鍛造する事も出来ている。

 鎖だって存在しているし、オキに依頼すれば複雑な物でさえなければ鋳造で鉄製品を自在に作れる。

 鉄の成形は魔法ではない、科学知識の一端だ。

 この製鉄技術の類は、恐らく元を辿ればレオパルドの地の技術が脈々と継がれ続けて今に至るのだろう。

 にも関わらず、この世界は製鉄関連以外の科学知識の痕跡が微塵も感じられない。

 今、私が大いに利用しているこの鉄道、トロッコだってこの世界にかつて存在したはずなのだ。

 更に加えるならば、レオパルドの地の知識がこの世界に残っているなら、絶対に根付いていなければならないはずの「ある物」が何処にも見当たらない。

 戦争か何かで跡形も無く知識が断絶した?

 製鉄技術はちゃんと残ってるのに?

 複雑で再現できなくて技術を伝えられなかった?

 アレは原理としては簡単でしょうからこれは有り得ない。

 この世界に根付いている科学知識と跡形も無く消え失せている知識。

 差が理解出来ない。この不自然さは何か作為的な物が感じられる。

 誰か権力者が意図的に隠している?

 だが、人の口に戸は立てられない。

 何時か必ず、知識というのは漏洩する物だ。

 例え隠滅が完璧でも、模倣という形で再現する者だって現れるだろう。

 にも関わらず、この世界は不自然な位にその生活が魔法一辺倒で回っている。

 私の知らない空白期間、その間に一体何がこの世界で起きたのだろうか?


「――まぁ、良いや。とりあえず、少し休憩したらここ広げて行くからねー。制動距離分に余裕を持たせる必要があるから、もうちょっとだけ線路伸ばさないといけないけどね」

「って! それじゃあまだ終わって無いじゃない!」


 リューテシアの苦情を右の耳で受け止めて左の耳から受け流しつつ、考えても答えの出ない疑問は脇に除ける事にする。

 こんな疑問を考えるより、私にはまだしなければならない事がある。

 そう、私の快適生活に必要な基盤を整える事だ。

 知的好奇心はお腹を満たしてくれないし、寒さから身を守ってくれない。

 衣食住が足りた後に存分に考えれば良いのだ。


 さて、バラスト敷設と空間拡張が終わったらちょっとの間男衆とリューテシアのお仕事交代ね。

 リューテシアに石鹸作成をして貰って、リュカとルークにはこの地下までの線路敷設を行って貰わないと。

 ま、そんなに時間は掛からないでしょう。



―――――――――――――――――――――――



 一週間後。

 何のトラブルも無く順調に線路延長工事は終了を向かえた。

 これにより、オリジナ村郊外にある線路の始端からトロッコに乗った後は、降りる事無くノンストップでこの地下まで来る事が出来るようになった。

 これでまた一歩、移動環境が改善された事になる。

 流石にトロッコに乗ったままこの坂道を登る事は出来ないので、戻る時限定にはなるが。

 線路の敷設作業が終わったので、リューテシアには晴れて地下開拓に戻って貰う事になる。

 地下だから晴れてるかなんて分からないけど。

 リューテシアにはまた地下開拓に勤しんで貰う事を告げると、涙を流して喜んでくれた。

 嬉しさの余り「洞穴暮らしはドワーフがやる事であってエルフの私がする事なんかじゃない!」と錯乱の言葉を上げていた程である。

 私の、いや、皆の快適生活の為にもう少しだけリューテシアには頑張って貰おう。

 もう少しだから。

 もうちょっとだから。もうちょっとって言ったらもうちょっとなの。

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