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41.ちょっかい、もとい視察

 リューテシアに作って貰った中枢部、その空間に私の切れる手札、知識の数々を詰め込んだ。

 これでこの中枢部はかなり安心できる構造に出来たはずだ。

 だが、私がこの室内に刻んだ術式の数々は、結局魔力が無ければ動く事は無い。

 現状はただの幾何学模様がいっぱいあるただの空洞にしか過ぎない。

 ここでするべき事の大半は終了した、他の作業は私だけでは出来ない。

 とりあえず今日はもう疲れたからお風呂に入りに行きましょうか。

 この地下である程度部屋を作れたら、そろそろお風呂も第二段階を迎える頃合かもしれないわね。


 翌日。

 進展具合を確認するべくリューテシアにちょっかい、もとい様子を伺いに行く。

 リューテシアに作らせている通路は、魔法によって押し広げて圧縮、硬度を確保している。

 押し固めた箇所は岩と大差無い程度の硬度は得ているので、そう簡単には崩落しないだろう。

 理想を言うならば鉄筋コンクリートで仕上げたい所だが、無い物ねだりをしていても仕方あるまい。

 傾斜もムラは少なく、常に一定の角度で地上に向けて伸び続けている。

 良い調子だ。 


「やっほー。調子はどう?」

「良い訳無いでしょ。私はモグラじゃないのよ?」

「この通路開通は地下開拓の初期段階にしか過ぎないから。これからもまだそのモグラ生活続けて貰うから」


 モグラ生活が嬉しいのか、リューテシアは私に向けて無表情で無言の抗議の視線を投げてくる。

 私達の快適生活の為には絶対必要なのだから、頑張って貰わないと困る。


「この道が完成すれば貴女に休日あげるから。頑張ってねー」


 私の激励に気合を取り戻したのか、声にならない声を上げながら通路工事を再開するリューテシア。

 とか何とか言ってたら、唐突に頭上から目を細めたくなる眩い光が差し込む。

 知らない内に相当な距離をリューテシアは掘り進めていたようで、遂に地上へと伸びる直通ルートが開通したようだ。

 斜めに掘り進んだ結果、残念な事に頭上に見覚えのある代物が見えた。

 それは二本の棒と、その棒を支えるように下に滑り込ませてある木材。

 また、開通した際に頭上からバラストとして敷設した石が雨のように降ってきた。

 そう、ここは以前敷設した鉄道の真下である。

 レールと枕木の隙間から頭を覗かせ、周囲を見渡す。

 ここは鉄道の始端辺りであり、そんなに大きなズレは発生していなかった。


「……ん、ちょっと縦軸がズレたけど横軸はほぼピッタリね。見事な精度よリューテシア、褒めてあげるわ」


 この位のズレなら許容範囲内だ。

 寧ろ、目測にも関わらず良くここまでドンピシャで掘り抜けた物だ。

 鉄道が少しだけ崩壊してしまったが、これなら多少の手直しで充分行ける。


「またオキさんの所までレールを受け取りに行かないとなぁ」


 ま、既にオリジナ村までの往路である鉄道は完成している。

 余裕で日帰り出来る距離なのだから、気兼ねなく行ける。

 

「じゃ、約束通り明日と、あと明後日も休みにしてあげるわ。休みが明けたら、地下ターミナル部分を広げて、それからもう一回バラスト敷設やって貰うからね、地下まで」

「ま、またやるの!?」


 短い悲鳴を上げるリューテシア。

 やるのよー。これが出来れば、私達の拠点までトロッコに乗ったまま移動出来る訳だし。

 あと、ちょっとした利点としてここまでの道がスロープ状になってるから、降りる時限定でトロッコ操作に動力が必要ないという点が挙げられる。

 位置エネルギーとは偉大なのだ。


「さーて、男衆の方はどうなってるかしらね? 陣中見舞いにでも行ってやろうかしら?」



―――――――――――――――――――――――



「あっ! ミラさん!」


 石鹸製作の為に、石臼を黙々と回転させていたリュカがこちらに気付き、笑顔を向けてくる。

 機嫌が良いのか、リュカの尾てい骨辺りから生えている魔族特有のふさふさな尻尾が犬のようにブンブンと揺れている。


「別に手は止めなくて良いわよ。あれから結構経ったけど、どの位仕上がったのかしら?」

「ミラさんの言う通り、完全に固まるまでの熟成期間がありますから。本当の意味で完成した代物は以前ミラさんが作り上げた分だけですね」


 私の問いに丁寧に答えるルーク。

 まぁ、そりゃそうか。時間でも加速させない限り、石鹸の熟成期間は短縮させようが無いからね。


「僕達が作った分に関しては、とりあえずここまでは」


 坑道入り口付近、風通しは良いが雨が降っても中には吹き込んで来ない、そんな絶妙な位置に積み上げられた石鹸の数々。

 一つずつ布に包まれ、風通しが良くなるように一つ一つを重ねずに空間を空けて置いておけるように竹で作った棚の上に陳列されている。

 また、直射日光を避ける為に厚手の布を日除けとして上から被せてある。

 キチンと風が通るように、下までは覆わずに空気が抜けるスペースも確保する配慮も出来ている。

 完璧じゃない。


「それなりに数が出来てきたわね、これならもうちょっとでルドルフさんに卸せる量になりそうね」


 私は以前、ルドルフが荷物の搬送に使っていた木箱を見ている。

 あの木箱の規格から見て、おおよそ木箱二箱分程の石鹸が製造出来たようだ。

 多過ぎずかといって少な過ぎず。試販する量としては充分だろう。

 とりあえず現状は熟成待ちなのだが。


「引き続き石鹸作成を続けてくれるかしら? 燃料の竹が少なくなって来るようなら、石鹸作りの手を一旦止めて竹伐採をやって。竹は燃料に使えるレベルまで乾くのに時間が必要だから、早め早めの伐採を心掛けてね」

「分かってます。今は夏ですから良いですけど、ロンバルディア地方の冬は想像を絶する過酷さだと聞きます。そんな時に薪が無くては、凍死してしまいますからね」

「……まぁ、今はそうね」


 リューテシアには休日明けから再び線路となる道整備を行って貰い、それが済み次第地下開拓……私達の本拠点となる住処作りをして貰う。

 だが最近のリューテシアの作業効率を鑑みると、住処を作り終えるまでそれ程時間は掛からなそうだ。

 のんびりやったとしても、秋頃には終わるだろう。冬まで時間は掛からない。

 そうなれば、住まいをこの仮住まいから地下へ移せる。

 地下は常に地熱で一定の温度に保たれている。それも私達人間が快適に過ごせる適温だ。

 地熱で暖を取っているのだから、天変地異で地下の熱源が移動でもしない限りその温度は常に一定だ。

 夏だろうが冬だろうが、常に一定の温度に保たれる。

 あの地下に居る限り、燃料不足で凍死という悲劇は既に完全に回避が約束されている。


「今は、ですか?」

「ま、暖を取る為の燃料として竹を使う、ってのは近々無くなると思うわ。でも竹はあるに越した事は無いから、引き続き伐採を続けてね」


 暖まる為に竹を燃やさなくなると言っても、竹を使わなくなる訳ではない。

 あればあるだけ良い。

 雨後の筍、なんて言葉がある位竹は凄まじい勢いで繁殖する植物だ。

 伐採し過ぎて枯渇しちゃいました、なんて事はそうそう無い。

 その繁殖力で害草扱いされている経歴は伊達ではないのだ。


 今後は石鹸作りと地下開拓に専念。

 地下開拓が一段落付き次第、拠点を地下へ移す……かな。

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