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28.道路作り

 地形を変えるレベルの魔法を使用し、丸々二日の大掛かりな作業を経て、

 私達は遂に拠点の目と鼻の先に水場を引き込む事に成功した。

 これにより私達は飲み水や入浴の為の水を容易に確保出来るようになり、

 生活用水確保の為に常に割かれ続けた人手を別の事に回せるようになったのだ。


「な、何これ……?」


 完成した水場を見て、リューテシアは絶句していた。


「リューテシアには水汲みばっかりやらせてたけど、それも先日までのお話よ。これからは貴女の力は水汲みなんていうしょうもない事じゃなくて、もっと別の事に使って貰うから、宜しくね」


 リューテシアの肩を叩く。

 私とリューテシアの身長差は結構ある。

 肩を叩くには手を挙げてギリギリ背伸びをしなくても届く位である。

 私の身長が低いのかリューテシアが高いのか。

 多分両方臭い。


「別の事って、何をさせる気よ?」

「今回の一件で、貴女がどれ位の実力を持っているかは大体分かったわ。貴女にはこれからも地形をいじくる方面で活躍して貰おうと思ってるわ」

「……今度は何をすれば良いのよ」

「今日から貴女には、オリジナ村に向かう道を整備して貰おうと考えてるわ」


 大量の資金を用いて、私はファーレンハイトにて大量の資材、食料を買い揃えてきた。

 資金はまだ潤沢に残っており、食料や資材にもまだまだ余裕がある。

 しかし、余裕があっても有限である事には変わりが無い。

 底が尽きてから焦って行動を開始していては、無計画の極みである。

 オリジナ村への道程を整備するのは、必須項目の一つなのだ。


「他の二人は?」

「ルークとリュカにはとりあえず竹を切って貰ってるわ」

「何でそんなに竹が要るのよ……」

「リューテシアは分かって無いわね、竹って資材面で見ると本当に最強なのよ?」


 分からないのなら、別にそれでも良い。

 私が理解していればそれで構わない。

 さぁ、今日から土木工事の開始である!



―――――――――――――――――――――――



 リューテシアと共に下山し、オリジナ村の方角を確認する。

 オリジナ村と私達の拠点、その二つの点と点を線で結ぶように一直線に道を整備する考えである。

 その私の考えを、リューテシアにも説明する。

 そしてその為には魔法を使用する必要があるので、奴隷契約書を操作しリューテシアの魔法使用制限を解除する。


「――呆れた。あの村まで一体どれだけ距離があると思ってんのよ?」

「距離があるのは知ってるわよ。だからこの長い距離を少しでも早く、安全に快適に進む為にも道の整備は必須なのよ」

「それに、どれだけ時間を掛ける気なのよ?」

「時間が掛かるのは仕方ないわ。インフラ整備ってのは時間が掛かる物なんだから」


 私は知識だけは無駄にあるのだから。

 ある物は存分に使わせて貰うわよ。


「――分かったわよ、やれば良いんでしょやれば」

「そうそう。千里の道も一歩から、この作業は後々必ず身を結ぶから」


 それに、この道はただ歩いて移動する為だけに使う気は無い。

 まだまだ準備も足りないし、資材も足りない。

 私の望む快適な生活環境を作るには、無い無い尽くしだ。


「高さはそんなに必要では無いから程々で良いけど、横幅は二十メートル位は欲しいわね。魔法で土を盛り上げて、平坦な道を作るの。お願い出来るかしら?」

「……拒否権は無いんでしょ?」

「別に拒否しても良いわよ? 拒否するのも貴女の自由なんだから。でも、拒否すると私が食料の買出しにオリジナ村まで戻れないのよ。そうなったら私達全員、飢えるしか無いわね」

「そういうのが拒否権が無いって言ってんのよ……! 性格悪いわねアンタ」

「心外ね。何時も大真面目な私に性格悪いだなんて」


 雪も溶け、多少凹凸がある平地をひたすら真っ直ぐに突き進む。

 多少土を盛って高さを確保し、窪みは埋め立て、隆起している場所は削って真っ直ぐに突き進む。

 どこまでも真っ直ぐに、オリジナ村目指して一直線である。

 この道さえ出来れば、『アレ』を配置出来るようになる。

 そうなればこっちの物である。


「――アッピーバルソイル!」


 リューテシアの詠唱により、リューテシアの目の前に土がゆっくりと持ち上がり、一直線に伸びていく。

 私の指示した通りの幅、高さで目測で約三メートル程の真っ直ぐな道が出来上がった。

 多少路面はデコボコしていて水平ではないが、大雑把に見れば平面である。

 最終的にこの上に石を敷き詰めるので、本当の意味で水平にするのはその時で良い。


「……うん、この質を保ちながらオリジナ村が見えるまで真っ直ぐ真っ直ぐ伸ばして行って頂戴」

「こ、これ凄い苦行じゃないの!?」

「魔力には限りがあるからね、疲れたと思ったらその時点で一日の作業は終わって良いわよ。これからリューテシアに割り振る仕事はオリジナ村に着くまではずっとこれだけにするから宜しくね」

「ず、ずっとこれをやるの――!?」


 絶句しているリューテシア。

 そんな事言っても、この道が出来ないとオリジナ村まで快適に戻る手段が無い。

 ここに最初来た時みたいに、野宿で夜を明かしながら戻るのなんてもう御免だ。

 オリジナ村からここまでの道中を思い返しても、雪といった道中の障害さえ無ければ、

 朝日と共に出発して日暮れには着ける位の距離ではあるのだ。

 魔物の襲撃だってあるかもしれないのだから、野宿はしないに越した事は無い。

 っと、そういえば思い出した。


「そういえばリューテシア、貴女って魔法で自分の身を守れる? もしかしたら魔物が襲ってくるかもしれないけど」

「魔物なんて、魔法が使えるなら問題にならないわよ」


 自信満々にリューテシアは言い放つ。

 彼女自身がそう言うなら問題は無いのだろう。


「そう、なら大丈夫ね。魔物が襲ってくるようなら自衛してね、この道をどれだけ早く完成させられるかが、私達の快適生活に直結してくるから」

「もう! こんな細かくて面倒な作業をずっと続けろなんて! この鬼!」

「鬼でもキュートガールでも良いから、後は宜しくね。テューレ川に辿り着いたら橋を作るから、着いたら教えてね」


 これから先、リューテシアには延々と土木作業一任だ。

 しばらくは食事と就寝、休日以外でリューテシアに会う事は無いかもしれないなぁ。



―――――――――――――――――――――――



 リューテシアに仕事を割り振った後、私は竹林で作業中のルークの所まで戻って来た。


「ただいまー」

「おかえりなさい、ミラさん。……リューテシアさんはどうしました?」

「リューテシアには、彼女にしか出来ない事をこれからずっとやって貰うわ」


 あんな地形を上書きする大規模な魔法、扱えるのはリューテシア位だ。

 流石に魔力量的にルークには荷が重過ぎる。


「それでルーク、相談なんだけど貴方って空気を操る魔法を使えるかしら?」

「空気……という事は風属性の魔法でしょうか? まぁ出来ない事も無いですが、何をする予定なのですか?」

「自分の周囲に空気の膜を張って、そのまま行動する事って出来るかしら? 水中の中でも呼吸が出来るような」

「それでしたら出来ると思います」

「なら、ちょっと明日からルークには私と一緒に行動して貰うから」

「構いませんが、どちらへ向かうのですか?」


 生活用水問題が解決した事で、同時進行出来る事が増えて来た。

 これからしばらくはリューテシアが道の開拓、リュカには竹や薪の調達をして貰い、何時でも火を起こせる状態を常に保って貰う。

 水は水車で勝手に運ばれてくるので、これで食料が尽きない内は生活するのに困らない。

 食料が尽きる前に人里との連絡通路を確保しなければならないが、そこはリューテシア次第だ。彼女には期待している。

 現状、私自らがわざわざしなければならない事が無いのだ。

 なのでそろそろ、一歩奥へと進もうと考えている。


「――鉱山跡地奥、まぁ坑道探索ね」


 そう、文字通りの意味で奥に進むのだ。

 現地の人々が呪いと恐れこの鉱山を閉山へと追いやった、その原因を拝みにね。

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