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25.入浴

 翌朝。

 微妙にそわそわしているリューテシアを尻目に、今日も三人に仕事内容を振っていく。

 今日は、全員で風呂に入る予定だ。

 なので、相当量の水を確保する必要がある。

 今日はリューテシアは薪を集め、リュカが水を汲み上げて持ってくる。

 ルークは引き続き竹を伐採して貰う事にした。乾けば竹も燃料になるからね。

 私はというと、一度下へと降りて川の側にまで来ていた。

 今日はここで採取しなければならない物を集めようと思っている。

 といっても、今回私が回収しようとしている物は水でも薪でもない。

 それは他の三人に割り振れば良い仕事なのだから。


「……この位で良いかな」


 私が回収しているのは、石だ。

 川原で比較的大きく、それでいて角がしっかり取れて完全に丸くなった物を選んで回収している。

 数十個程回収して、一度ものぐさスイッチ内へと入れる。

 これを焚き火に放り込み、昨日作った浴槽に放り込む予定だ。

 いわゆる、石焼風呂である。

 直接水を熱した方が熱効率的には良いのだが、生憎浴槽は木製だ。

 なので浴槽に水を張って直接熱する手段は使えない、浴槽が焦げちゃう。

 熱湯をバケツリレーで運ぶのも手だが、手間が掛かる。

 なので比較的簡単にお湯を確保出来る石焼風呂を選択した。

 ゆくゆくはもっと簡単にお風呂に入れるようにしたい。

 石は早々に集め終わったので、さっさと次の準備に取り掛かる。

 私は昨日製作を終えた炭を取り出し、布の上に乗せる。

 その炭を川原の適当な石で叩いて砕き、潰していく。

 粉末状になるまで潰す訳では無いので、こんな原始的な手段でも充分である。

 荒く砕き終えた後に下の布で零れ落ちないように包み込み、川の流水に晒して炭を洗う。

 黒ずみが出なくなるまで流水で洗って、完成である。

 作成した炭全てを同様に叩き割り、水洗いの工程を終わらせる。

 これで目論んでいる形へと加工出来た。

 後の材料は簡単だ。

 小石、砂、砂利であるが、そんな物は川原付近であらば無尽蔵に存在する。

 必要量を手早く回収する。

 それと同時に、この滝がある水場から坑道入り口であり私達の拠点がある場所を改めて確認する。


 実は、このテューレ川の源流であるこの滝のある場所と、私達が活動拠点に据えている坑道入り口。

 この二点は高低差を無視して直線距離で繋ぐと、非常に距離が近いのだ。

 精々数百メートル程度しか離れていない。

 しかしその高低差があるが故に、わざわざ遠回りをしてスロープ状の山道をジグザグに降りて水場まで行かなければならないのが現状だ。

 たかが水を汲む為に、私達四人の内の最低一人が丸々時間を取られているのだ。

 無駄中の無駄であり、この部分こそが私達がここで快適に暮らす為に最優先で改善しなければならない箇所でもある。

 たかが水だが、されど水。水無くして生物は生きる事が出来ない。

 生物の繁栄は、常に水場の側が中心になっており、それは私達も同じである。


「――行ける」


 確信を持って一人呟く。

 私の術式に穴は無い、『知識』だけは無駄にあるから。

 だがそれを実行する為の力、魔力が私には伴っていない。

 明日から、本格的にこの作業に取り掛かろう。

 貴女はここに残る選択をした、だから私の指示にはしっかり従って貰うわよ。リューテシア。



―――――――――――――――――――――――



 長い距離を歩き、私は再び拠点である坑道入り口まで戻って来た。

 それ程時間が掛かる作業でもないので早速、お目当ての代物を作ってしまおうと思う。


 ルークやリュカが一生懸命下から切って運んでくれている竹の山。

 その内の一本を掴み、最早慣れた手付きで亜空間内からノコギリを取り出し、竹を適当な大きさに切る。

 そんな一日二日程度で伐採した竹が乾く訳が無いが、別に今回は乾き切った竹である必要も無い。

 竹の節を抜き、一番下の底の部分に穴を開ける。

 この穴が水の出口となるのだ、そしてこの出口部分に布を詰め込む。

 穴を開けた上から良く洗った炭、砂、砂利、石を詰め込み、上から棒で強く押し込むように叩き、ギュウギュウに詰める。

 ふんわり、では意味が無いので、底を破らない程度に気合を入れて突き入れる。


 そう、私が今回作っているのはろ過器である。

 川の水というのは直接飲むと細かいゴミや微生物の影響で体調を崩す危険がある。

 なので、この簡易ろ過器を使って飲用に耐える水を製造するのだ。

 この上から水を注ぎ込むと、出口部分に詰め込んだ布からじわりじわりと水が滴り落ちてくる。

 石、砂利、砂と徐々に目を細かくし、目に見える汚れ、見えない汚れはこの層が濾し取ってくれる。

 しかしこれだけでは汚れは取れても微生物を除去する事は出来ない。

 なので、ここで炭の出番である。

 炭には、殺菌作用がある。

 この炭の層で水中の微生物を殺す事で、飲用に何とか耐える水になるのだ。

 ただ、炭の殺菌効果は万能ではないので過信せず、完璧に殺菌する為にもろ過器を通過した水を更に煮沸消毒する事にする。

 これで熱に強い鉱毒の類でも含有されていない限り、安全に飲める水がこれで確保出来るようになった。

 ここは元々鉱山だったので、下流の川に鉱毒が溶け出していても不思議ではない。

 だが、下流の位置にあたるオリジナ村及びルシフル村では鉱毒に侵されたような人物は一人も見当たらなかった。

 オリジナ村には井戸があるのでそこを利用している可能性もあるが、少なくともルシフル村には井戸は見当たらなかった。

 近くにはテューレ川以外の水源が見当たらなかったので、ルシフル村の面々はテューレ川を飲用含めて水源にしているのは間違いない。

 ならば、状況証拠が鉱毒の危険性も否定している。

 なので、このろ過器を通してその水を煮沸。この工程を終えれば安心して飲める水が調達出来るようになる訳だ。

 水に関する現状の問題、その一が解決した。

 明日からはいよいよ、水の問題その二に着手しようと思う。



―――――――――――――――――――――――



 夕方。

 竹の伐採、薪の回収に水の採集。

 その作業を終えたルーク、リュカ、リューテシアの三名が拠点へと戻ってきた。


「おかえりなさい。もう少しで準備出来るから、先に浴槽に水を張ってて貰えるかしら?」


 そろそろ三人が今日の作業工程を終えて戻ってくるであろう時間を見計らい、

 事前に私は焚き火を起こして石を焼き始めていた。

 数十個の石を焚き火の中に投下し、淡々と石を焼き続けている。

 好い加減充分に石は熱せられたはずだ、なので後は浴槽に水を張るだけである。

 三人掛かりで浴槽に水を注ぎ、充分な水量となったので石を投下する。


「所で、どうやってあの石を取るんですか?」

「んなもん、両手に厳重に布を巻けば良いでしょうが」


 焚き火のど真ん中に石を入れてる訳ではないのだから。

 ちゃんと取り出す事を考えて、火が当たるが取り出し易いように焚き火の外周部分に円を描くように石を配置してある。

 布は可燃性だが、火に投じた途端一瞬で激しく燃え盛る物でもない。

 厚手の布をミトン代わりに使うのだ。


「リュカー、石の運搬任せるわ。手早く運んでね」

「は、はい!」


 リュカの両腕に布を何重にも巻き付ける。

 こりゃ後でミトンも作らないと駄目かもしれないわね。

 そんな考えを他所に、リュカは手に巻き付けている布が燃えないように注意しながら良く焼けた石を浴槽へと投じる。

 石が水面に触れた途端、激しい音と水蒸気を立てて一気に水温が上昇する。

 水に手を入れて攪拌(かくはん)しながら、丁度良い温度まで水温が上がるのを待つ。

 十個程投じた辺りで、お風呂と呼べる温もりと湯気を立ち昇らせ始めた。


「やっとここまで来れた……ッ! この世界に来て、やっとお風呂に入れるのね……!」


 感慨深い。

 タオルで拭くだけしか出来ない日々にさようなら。

 水源が近くにあるんだから、お風呂が贅沢品だなんて言わせない。

 ルークとリュカはあんまり感動した様子が見られないが、リューテシアは心なしか目が輝いているように思える。

 私と目が合った途端、不機嫌そうに視線を逸らすのは何時も通りだが。


「……あのさ、このお風呂私が一番最初に入っても良いかな?」

「別に僕達に許可を取らずとも良いのではないですか? それより寧ろ、そのお風呂に本当に僕達が入って良いのかという方が気になるのですが」

「当たり前でしょ。これは貴方達に出す対価の一つよ、まだ金を出せないから、この位が限界だけどね。それに、清潔な身体、清潔な環境は健康維持に欠かせない重要なファクターよ。ここにいる誰かが風邪を引くと、連鎖的に他の連中も倒れるの。誰も風邪を引かない、これ重要よ」

「成る程。衛生面でミラさんにも迷惑が掛かるとなっては、確かに僕達だけが入らないのも不味いのですね」

「よ、よし。じゃあ私が先に入るわね」


 さぁ、早速入ろう。

 この全身で、日々の疲れを身体から溶かし出すかのように、肩まで浸かろう。

 肩まで浸かって百まで数える。

 なので、今すべき事は。


「――とりあえず三人共、部屋に戻っててくれる?」

「……あっ! 済みませんミラさん、僕達は部屋で待機していますね」


 私の言わんとしている事は通じたようで、ルークとリュカ、リューテシアの三名は拠点へと戻る。

 ……まぁ、私自身は別に見たければ好きにしろって感じではあるけど。

 こういう性的な部分に置ける分別は弁えておかなければトラブルの元になる。

 男女の性的問題というのは、何時の時代だって面倒な物なのだから。


 衣服を脱ぎ去り、湯船へと足からゆっくりと浸かる。

 足元の加熱用に使用して水没した石が少々邪魔だが、気に障る程ではない。

 気に障るなら出せば良いだけだし。


「やっぱりお風呂、必要だわ」


 この異世界へと流れ着いた私は、今日この日。

 遂に異世界にてお風呂に入る手段を手に入れたのであった。

女の子が入浴するのに何故入浴シーンを書かないのかだと?

ばっかお前、ミラとかいう起伏の無いつるぺたなんざ描写して何が楽しいんだ。

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