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23.炭

「それじゃあ、全員ここに残るって選択で良いのね。それじゃあ貴方達にはこれから、私と自分の生活環境をより良い物にする為に明日から頑張って貰うから」


 ルーク、リュカ、リューテシアの奴隷三名に自分がどうするかを決めさせた。

 限られた選択肢とはいえ、ここに残るという選択をしたのは彼等自身だ。

 これで、好きでこんな場所にいるんじゃない、命令されたから。という言い訳は不可能になった。

 命令はしないけど、指示は守って貰わないとね。

 今日は一日お休みだけど、明日からはバリバリ働いて貰うわよ。


「話し合いも済んだし、取り敢えず昼飯を食べましょうか」


 日がもう完全に昇り切ったにも関わらず、今日は未だに腹に食料を詰め込んでいない。

 好い加減私を含めた全員、空腹で腹が鳴る頃合だろう。

 ものぐさスイッチの亜空間内から、食事を取り出し皿に乗せて三人に配る。

 馬車の移動期間にここまでの道中、調理時間をケチって作業してたから流石にもう調理済みの食料に関しては底を突き始めた。

 もうそろそろファーレンハイトを発ってから一ヶ月が経とうとしているのであるから当然と言えば当然か。

 食材自体はまだあるのだが、そろそろ自分達で調理作業もしないといけなくなりそうである。


「そういえばさっきから気になっていたのですが……この壺、一体何をしてるんですか? どうも湯を沸かしている訳では無さそうですが」

「炭を作ってるの」

「炭?」

「炭位知ってるでしょう?」

「燃えた後に残る物の事でしょうか?」

「それは灰。炭とは違うわね」


 薪が乾いた音を立て、立ち昇る炎が壺の表面を舐めている。

 そんな焚き火の中心に鎮座している壺を見ていたルークの質問に淡々と答える。


 そう、今作っているのは炭である。

 高級、高品質な炭――いわゆる備長炭などか。

 そういった代物を作るとなると専用のかまどを作ったり、温度を一定に保ったり等、非常に手間隙が増すが。

 ただ単純に炭を作るだけであらばこんな風に簡単な手段でも作成は可能なのだ。

 要は、酸素を遮断して炎を起こさずに燃焼させる状況さえ作れれば炭は出来るのだ。


「ただそんな短時間では出来ないから、このまま焚き火に薪をくべながら火を絶やさないようにしないといけないわね」


 炭作りは、非常にコストが掛かる。

 炭一つを作るのに、その数倍の燃料が必要となるコストパフォーマンスの悪い物なのだ。

 だが、どうしてもここで早めに炭は作っておきたい。


「――で、今日は休みな訳だけど。三人はどうする? 別に寝てても良いけど」

「ほ、本当に何もしないんですか?」

「さっき薪を拾い終えたからね。水に関しては昨日、リューテシアに頑張って貰ったから今日一日分位は汲みに行かなくても大丈夫な量があるし」

「何もしなくても、怒ったりしないんですか……?」

「怒る訳無いじゃない。それに、しっかりと休むってのも仕事の内なのよ。疲れた身体や脳で最良のパフォーマンスなんて出来る訳無いんだから」


 そう、休息は大切だ。

 この数週間、同時進行しておきたい事が余りにも多くてあんまり休めなかった。

 私は本来、こんな働き者スケジュールを好む生き物ではないのだ。

 ニート生活は嫌だけど、働き詰めも勘弁。

 適度に働いて、適度に休む。

 メリハリは大切だよね。



―――――――――――――――――――――――



 今日一日は丸々休憩に費やす予定なので、実に何も無い一日だった。

 焚き火の火を絶やさぬように注意しながらではあるが、一日中周囲を観察していてもやはり魔物や野生動物の姿がこの辺りには見当たらない。

 この周囲には生物が近付いてこないと思っても良さそうだ。

 狩猟で肉を手に入れる事は出来ないが、私は始めから狩りなんてする気は無いので問題は無い。

 寧ろ魔物や危険生物の対処に気を割かないで済む分ありがたい。

 とはいえ、室内と呼べる安全な領域は未だに寝床のみなのだ。

 もっと安全に活動出来る範囲を広げていかないと。


 日が沈み、夕飯を食べた後にルーク、リュカ、リューテシアは早めに睡眠に入った。

 明日も朝早くから活動して貰う事になるので、少々早いが寝て貰っている。

 だが、私は一緒に寝ずに日没後も一人で黙々と作業をしている。

 現在炭を作っている最中なので、誰かが火を絶やさぬよう見ていないといけないのだ。

 なので昼までぐーすか寝ていた私が自主的に焚き火を見ている。

 このロンバルディア地方は春を迎えたとはいえ、夜はまだまだ凍える程に冷たくなる。

 しかし焚き火をしていないといけないので、その側にいる分にはとても暖かい。

 おまけに光源にもなるオマケ付きなので、夜間でも充分活動が出来る。

 さて、一日中この焚き火は絶やさぬよう燃やし続けていないといけないので必然的に今日、私は徹夜する事になる。

 だが、ただ黙って一夜もの間黙々と焚き火に薪をくべ続ける程、私の時間は安くない。

 今日は徹夜するが、三人が起きる時間である夜明けを迎えたら三人を起こした後に私は寝る予定だ。

 なので最初に、明日三人に割り振る仕事内容を決めてしまおうと思う。

 今日一日、身体を拭く為に少々水を使ったので、水瓶の中の水量的にもう一日持つか持たないかといった具合だ。

 明日はまた川まで水を汲みに行って貰う必要がありそうだ。

 それと薪だ。

 今日は漂着した流木をごっそりかき集めて薪を確保したが、そんな簡単に良く乾いた流木が集まる訳が無い。

 なので、明日からは下の竹林でガッツリと竹を集めて貰おう。

 建材にも小道具にも燃料にもなる、やはり竹は天然素材の中でも最高クラスに優秀で万能ね。

 どう使うにしろ竹は乾燥させておきたいから、早めに伐採して運び入れておきたい所である。

 それと後は、木材の加工である。

 ファーレンハイトの市場にて購入しておいた、比較的大きめの木板を数十個程亜空間内から取り出し、

 焚き火の明かりを頼りに板上に筆を走らせる。

 明日はこの板の製図通りにノコギリを動かして成形して貰うつもりだ。

 この線の通りに直接ピッタリ合わせて切ろうとすると、失敗した際に取り返しが付かなくなる。

 なので私は、前々から彼等三人には線の若干外側を切るように指示を出している。

 完成形も当然ながら目的のサイズより一回り大きくなるが、そこからヤスリ掛けで目的のサイズになるまで加工して貰っている。

 ヤスリを掛け過ぎた、というのはよっぽどの間抜けでなければ起きたりはしないだろうし。

 ただ、この木板加工は数があるので一日掛かりの作業になりそうだ。

 って事は、明日の作業内容は決まったわね。

 1、木材加工係。2、竹伐採係、3、水汲み係。

 竹伐採は丸一日やって貰って構わないからここは良いとして、木材加工は一人だけじゃ手に余りそうだなぁ。

 水汲みは明日は程々にして貰って、それが終わったら木材加工の補助に回って貰おうかしら。

 とにかく、住居を確保したのだから次はアレを用意しないと。


 衣食住が足りたのなら、次は清潔・衛生だ。

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