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21.開拓開始!

 まだ白い吐息が見える肌寒い朝。

 肌を刺す寒さと朝日の眩さを目蓋(まぶた)越しに感じ、私は目を覚ます。

 周りは岩壁に囲まれた、見事なまでの洞穴。

 まともな住居すらない、完全な野晒し状態である。

 これでは完全に原始人の生活だ、文明人が送る生活ではない。

 こんな状態では、気が休まる訳が無い。

 一応睡眠は取ったが、こんな状態では質の高い睡眠が取れる訳が無いのだ。

 今日する事は必然的に決まっている。

 今現在、衣食住の内欠けている、住居の手配だ。


「よーし、日が昇ったわよ。全員起床! やんなきゃならない最優先作業を始めるわよ!」


 三人を起こす為、大きめの声で覚醒を促す。


「さて、寝起きの所悪いんだけど今日一日は全員馬車馬のように働いて貰うわよ。今の私達には拠点が無い、だから今日一日で簡単な住処を作るわよ! もう野宿はしたくないから、全員頑張って行きましょう!」


 ものぐさスイッチを操作し、全員分の簡単な食事を取り出す。

 その食事を胃袋に詰め込み、私達の住処を作る為に早朝から活動を開始するのであった。



―――――――――――――――――――――――



「先ずは下に生えてた竹を切り飛ばしに行くわよ。一番重要な場所、拠点を作らないといけないからね」


 ここまで来る道中、事前に竹が自生している場所は確認している。

 竹は、優秀な素材である。

 軽くて強靭、しかも凄まじい成長力と繁殖力を誇り、

 全部切り倒しても平然と生えてきたり、家屋の床をぶち破って生えてくる事もあるという力強さにしぶとさを持つ。

 これで建材などとして使える優秀な利便性が無かったら害草ってレベルじゃなかったわね。


「ルークとリュカはとにかく竹を切って上まで運んで。それから飲み水も確保しないといけないから、リューテシアはそこの川から水を汲んで上まで運んで」

「分かりました」

「は、はい!」

「…………」

「返事は?」

「……分かったわよ、やれば良いんでしょやれば」


 水汲み用に小さめの壺を手渡すと、不貞腐れながらしぶしぶ、といった具合に返事をするリューテシア。

 嫌だろうが嫌われようが、お仕事だけはして貰わなきゃ困る。

 働かざる者食うべからず、それにあんなクソみたいな地下牢生活と比べれば今の生活の方がよっぽどマシでしょうに。

 少なくとも今すぐには無理でも、そう思えるように私も力を尽くす気ではあるし。

 それが私の快適自堕落生活にも繋がると考えているし。


「ミラさんはどうなさるのですか?」

「私は今日一日、見に徹するわ。この前来た時は勇者とかいう規格外と一緒に居たのと、あんまりゆっくりこの周囲を見る暇が無かったからね。別にサボってる訳じゃないわよ?」


 三人が竹林と川へと向かうのを上から見ながら、入り口辺りにそこいらで拾った木の棒で線を引いていく。

 大きさは……これ位で良いか。

 大まかな拠点の大きさを決め、その近くに大瓶を一つ設置する。

 そうした上で私は入り口へと戻って眼下を見渡す。

 そう、私はサボる訳じゃない。

 私がサボってたら私自身が快適な生活を送れない。

 結局最後の仕上げや難しい所は私が手を入れなければいけないのだから。


 この鉱山跡地へと続く道は、どうやら山岳部を削り取りながら作られた人為的な道らしく、

 規則正しくスロープを付けられた道となっている。

 そのスロープを挟むように、意図的に木々が残されており、この木の天蓋(てんがい)のお陰でここまでの道には余り積雪が無い。

 またジグザグに降りていく必要があるので、見た目以上に下まで降りるのに距離がある。

 そのスロープを抜けた辺りに丁度竹林があり、スロープを挟んで反対側はこの鉱山跡地の入り口の真下にあたり、私が以前素材を拝借させて貰ったズリ山が放置されている。

 そして竹林の側、スロープ状の道を降りた先の対面には滝があり、豊富な水量を下流のテューレ川へと注ぎ込んでいた。

 この上からは近辺の状況がかなり隅々まで見渡せるので、ここで監視していれば魔物の接近にはすぐに気付けそうである。

 でも、この鉱山跡地一帯はさっきから魔物と言わず生物の類を全く見掛けないのよね。

 精々いても、高空を飛ぶ鳥位なものだ。

 ……もしかして、この辺りって生き物の類が近付かない環境なんじゃないかしら?

 この周囲の生物達が、鉱山跡地から漏れ出したあの独特な臭い、硫黄の臭いを悪臭だと学習したなら有り得ない話ではない。実際臭いし。

 でもそうだとしたらこっちからしたら有り難い話ね。

 魔物という余計な外敵が近付かないなら、命の危険はグッと減る。

 まぁ、この鉱山の奥の状況を確認して、必要なら適切な処置も比較的早めにしておかないとこっち側も命の危険があるかもしれないけどね。

 

「ミラさん、取り敢えず二本程切って持って来ましたが」

「も、持って来ました!」

「ご苦労さん、じゃあそこの角にどんどん積み上げちゃって。私が指示するまでとにかく切って切って運んで頂戴。竹はいくらでも使い道があるからね」

「分かりました。リュカ、行こうか」

「は、はい」


 再び二人はスロープ状の道を下り、竹林へと戻っていく。

 それから入れ違いに、水を注いだ壺を持ってリューテシアが戻って来た。


「……持って来ましたよ」

「うん、それじゃあそこの奥に水瓶を置いたから、そこに入れて。そしたらまた汲んで来てね」

「……」


 返事はせずに、水瓶に水を注いだ後にまた道を下っていくリューテシア。

 さて、私もちょっと仕事をしますかね。

 まだ本当にこの周囲には魔物が近付かないのか確証が出た訳じゃないから、下の三人が危険な状態になったらすぐ呼び戻せるようにしないといけないけど。

 監視しながらでも、ノコギリを動かす事位は出来る。

 先程二人が持ってきてくれた竹を、私が望む大きさに切り揃えるべくノコギリを動かすのであった。



―――――――――――――――――――――――



 葉っぱを落とし、竹を等間隔に切り揃えていく。

 途中で食事休憩を挟みながら黙々と作業に没頭する。 

 早朝から作業を開始した為か、もうじき夕方になろうという頃合で充分な竹が集まった。

 リューテシアにも水を延々と汲んできて貰ったので、今日だけでなく明日使う分の水にも困らなそうだ。

 もう日没もそう遠くない、外での活動は今日は打ち止めだ。


「よし、材料も水も最低限集まったからここで一旦収集作業は終了! 全員でここに部屋を作るわよ!」


 欲を言うなら、こんな切ったばかりの竹は使いたくないのだけれど。

 これが乾くまで放置するとなると今日も野宿となる、そんなの嫌だ。

 理想は完全に乾いてて欲しかったんだけど、この際半日干しの生乾きの竹でも文句は言わない。

 どうせ今から作るのは仮拠点なのだ、目くじらを立ててあそこもここも完璧に、なんてやる意味は無い。

 雨風を凌げて、気温と湿度を適度に保ってさえくれれば贅沢は言わない。


「そこに線を引いて置いたわ、この線の内側に高さ5センチ位まで土を積み上げて」


 朝に坑道入り口から少しだけ奥に位置する場所、

 横風が吹いてもギリギリ雨が直接当たらない程度の距離を置いて地面に線を引いておいた。

 広さ的には十五畳程度だろうか、四人で共同生活するにはこれ位あれば何とかなるだろう。

 その位置に、土台となる土を積み上げて盛り上げる。

 全員にシャベルを持たせ、近場からドンドン土を掘って固めていく。


「次に、この土の上にさっき切り飛ばしてきた竹を敷き詰めるように積み上げて」


 若干土台の土に埋めるような感じで固定し、隙間無く並べていく。

 敷き詰めた竹の上に、ファーレンハイトにて買い上げてきた木の板を乗せていく。

 その後、板と竹を釘で固定する。

 今回、この竹は断熱材もどきとして使わせて貰った。

 竹には節があり、この節と節の間には空洞があり、その中には空気が入っている。

 地べたに直接触れるより、この空気の層が地面と床の間にある事で熱伝導率が大きく変わる。

 完全に冷たさを無くす事は出来ないだろうが、これでかなりマシになるはずだ。


「……良し、最初の部屋だしこれ以上高望みしない方が良いわね。それじゃ、残りの竹で壁を作って行きましょうか」


 完成した床は、立ったり座ったりしている分には何の違和感も感じないが、

 地面に伏せて見てみると微妙に床は傾斜していて水平になっていない。

 まあ、仕方ない。妥協しましょう妥協。突き詰めてると今日中に終わらない。

 さっさと壁を作ろうそうしよう。

 壁面は地面に竹を突き刺し、内側に木材の板を配置し、床同様釘で打ち付ける。

 外側には竹と竹の隙間を埋めるように泥を塗り付けておく。

 これで隙間風が冷たく感じる事は無いだろう。

 天井部分も同様に竹を並べ、余った隙間には土を放り込んでここも隙間風を防止しておく。

 内側に入り、ここは自分では手が届かないのでリュカに頼んで肩車をしてもらい、

 口に釘を咥えながら手早く天井も釘で固定していく。

 最後に簡素ながらも木板で扉を作り、(かんぬき)を取り付ける。


 これで、部屋が出来た。

 流石に人手が増えると早いわね、私一人じゃ一日で終わらなかっただろうね。

 ただ、時間はそれなりに掛かった。もう既に外は完全に日没を迎えていた。

 多分、この洞窟の奥はそもそも生物が生きられる環境になっていないと思うから、こっちは気にしなくて良い。

 入り口には竹を斜めに切って竹槍状にしたものを縄で括り、簡易バリケードにして並べておいた。

 無いよりはマシだろう、気休めにはなる。


「やっと、寝床が出来た。これで一息付けるわね。ルーク、リュカ、リューテシア、三人共今日は良く頑張ってくれたわね。悪いんだけど、今日はこれで勘弁してね」


 たき火を起こし、リューテシアが溜めてくれた水瓶の水を使い、外で湯を沸かす。

 今日流した汗は、沸かした湯とタオルで拭き取る。

 三人にもタオルを取り出し、これで身体を軽く拭けるように手渡す。

 まだまだ、私の快適生活には程遠い。


「じゃ、寝床を用意するわ。今日はもう暗いし疲れたし、おやすみ」


 即興であつらえた部屋へと全員で入り、ものぐさスイッチ内からベッドを取り出す。

 四人全員分、等間隔で配置する。


「ぼ、僕達もベッドで寝て良いんですか?」

「何言ってんのよ、当たり前でしょう? 私は働く人にはちゃんと対価を出すわよ」


 リュカはベッドで寝れるとは考えていなかったらしく、野宿に使っていた寝袋を使って床で寝ようとしていた。

 何の為に拠点を作ったと思ってるのよ、一息付ける場所を確保する為なんだからそんな事してたら意味無いでしょうに。


「その寝袋、しばらく使わないと思うから適当に片付けておきなさい。それから明日の予定を伝えて置くわ。明日は多分、この坑道からほとんど外に出ないと思うから。多少は作業をするけど、基本的にゆっくり休めると思って良いわよ」


 明日の予定をザックリと三人に伝え、私はさっさとベッドの中へと潜り込んだ。

 あー、ふかふかだー。

 やっぱり、落ち着ける寝床があるというのは素晴らしい事だ。

 借り物でもなく、居候でもなく、ここが私の住まいだ、私の城だ、私の寝床だ。

 そんな事を考えながら、私は徐々に体温で温まってきた布団の中で意識を手放すのであった。

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