#6.ルナールが遺したモノ~これが俺の恩返し~
新年初投稿です
聖王都との戦争が終わり、一年が過ぎた。
多少の被害も出たが、戦争としては比較的軽傷で争いを終結させる事が出来、ロンバルディア地方はロンバルディア領として、新たな道を進み始めた。
人や物の傷もある程度癒えてきて、俺も含めて再び何時も通りの日常へと戻っていった。
人と人の争いという意味では一旦終わりを迎えたのだが、人と魔物の戦いは決して終わる事は無い。
人と人は話し合えるし、分かり合えるし、例え分かり合えずとも損得勘定が出来るので、打算的な行動を読んだり誘導したりとかは出来る。
だが、魔物はそうはいかない。
人や魔族のような知性を持たず、獣同然の行動をし、人を襲い時に殺める。
言って聞かせようにも聞く耳も理解する頭も無いので、こればっかりは倒す他選択肢が存在しない。
そして魔物は獣同様、畑――っと、ロンバルディアだと普通の畑はほぼ無いからこれはちょっと違うか。人の暮らす集落なんかを襲う。
そこに食料があると学習しているからだ。また、凶悪な魔物ともなれば人自体を食料とみなしてくる。
ロンバルディア領から魔物全てを駆逐するなんてのは到底不可能なので、こればっかりは定期巡回や場当たり的な対処をせざるを得ない。
「――全員、事前に聞いてるとは思うが。今日はグレイシアル村方面で魔物の探索、討伐を行う」
グレイシアル村方面の路線を走る、蒸気機関車の車両内。
ソルスチル街から発車し、各方面を回りつつ魔物を討伐していく、定期巡回の日常。
最早見慣れた顔の多い、古参新参老若男女の入り混じった、ロンバルディアでも中々異色の部隊。
謂れの無い罪で村を追われたとか、家族を魔物に殺されたとか、単純に戦い以外での生きる道が無いとか。
そんな理由で集まった、雑多な混成戦闘集団。
俺と同じ半人半魔も多いし、人間も居るし……今ではそれなりに、魔族も居る。
ファーレンハイトとロンバルディアは、ファーレンハイト側が突っ掛かってくるから対立があるけれど。
ファーレンハイトと袂を分かち独立したロンバルディアにとって、ファーレンハイトが目の仇にしているレオパルドという魔族の国は、特に敵対する理由が存在していない。
魔族は神に仇成す神敵と謳う、精霊教会の威光にまるで影響を受けていないロンバルディアは、レオパルドとしても特に敵対する理由が無い。
遺恨が無く、人種という差別意識に寧ろ反感を持つ者ばかりが集まったロンバルディアという国と、国交が始まるのはある意味自然な流れであった。
国交が始まれば、人も交わり始める。その流れで、レオパルドからロンバルディアに流れ着いた魔族もそれなりに居た。
お陰で、この部隊はドラゴンとかそういう特殊な例を除けば、あらかたの種族を網羅した人種の見本市みたいな状態になっていた。
……気付いたら何故か俺がそんな部隊のリーダーみたいな立ち位置になってたけど、出来れば誰かに代わって欲しい。
俺、戦う事なら出来るけどこういうまとめ役みたいなのは正直向いてないと思うんだ。
だから、この部隊の中でも頭の回転が速かったり人望が厚かったり、そういうリーダーに向いてそうな人に話を持ち掛けたりもするんだが、全員にやんわりと拒否られた。
あれ? もしかしてこの部隊のリーダーって立ち位置、罰ゲームか何かなんじゃ?
「あー、何時も通り適当に編成組んで見付け次第交戦、何かあったら無線で連絡。それで良いだろ? 説明これ位で良いよね?」
「んな適当で良いんスか隊長」
ファーレンハイトとの戦争時でも活躍した、戦斧使いの蜥蜴系半人半魔の一人が声を上げる。
「だったら適当じゃなくて全員纏められる有望格連れて来いよ」
「んな無茶な」
「無茶なって言ったな! お前言ったな!? その無茶を押し付けられてる俺の身にもなれよマジで!」
この部隊は、ロンバルディアの保有する戦力としては非常に強力だ。
というか、俺は実感が無いんだけど国内評価としては寧ろ、ロンバルディアの誇る最強の戦闘軍団とすら呼ばれているらしい。
人手と力が必要だった為、「強ければそれで良い」「仲間に迷惑は掛けるな」後はどうでも良いのスタイルで人材を吸収し続けた。
結果、人種問わずの人種の坩堝状態になり、そして強いんだけど偏屈な連中が多く集まってしまった。
最低限の言う事は聞くし、守らないとヤバいと感じた強敵相手には結託するんだが、それ以外……主に日常での行動に難が有り過ぎる。
酒場で難癖付けられ市民と殴り合いの乱闘なんて日常茶飯事。
釣り銭間違いでバーの店主を殴って出禁食らったり、酔い潰れて気付いたらソルスチル街の街灯に簀巻きで吊るされてたり。
罰ゲームと称してソルスチル街の外壁を全裸で一周する馬鹿もいれば、魔法の試し撃ちと称して折角植林を進めていた山岳地帯の一部を吹き飛ばした奴も居たり。
最強の戦闘軍団とか言われてるのに、そこに所属してる事が名誉所か汚名になるレベルである。
……今思ったら俺に迷惑掛かりまくってんじゃんか! 俺が何度頭を下げたと思ってんだ! 仲間に迷惑掛けるなは何処行った!?
「俺はコイツの試射が出来れば何でも良いさ」
「はー、魔物に綺麗な女性が襲われててそれを颯爽と助けて始まるフォーリンラブとかねーかなー」
「テメーの面じゃ王子様じゃなくて王子様の乗ってる馬役が良い所だろ」
「んだとコラ!」
「喧嘩売るな! そして買うな! 車両内で暴れんじゃねー!!」
襟首掴んでそのまま殴り合いに発展しそうだったので、火種の内に消火する。
「なー、ルナール隊長ー。リサさんの事マジで紹介して下さいよー。紹介してくれたら俺、頑張っちゃいますよ!?」
「おめーじゃリサの隣は務まんねーよ」
「隊長って、シスコンだよな」
「おう今度は俺が街灯に吊るしてやろうか?」
つーか、リサのストッパーになってくれるような奴が居るならマジで紹介しても良いんだけどな。
絶対コイツ等じゃ歯止め役にならないって確信出来る。
お前等、リサの顔と表面上の性格しか見てないだろ。
アイツの本質、爆弾魔だぞ?
お前等もすぐ隣で爆発物を起爆させられたらその儚い夢も吹き飛ぶぞ。主に爆風で物理的に。
「つーか無駄話してないで無線の調子位は確認しとけ。お前等扱いが荒いからすぐに故障させるじゃねえか。いざって時に繋がらなくても知らねえぞ?」
「隊長だって俺の知ってる限りで3回位壊してるじゃないですか」
あ、あれは不可抗力だから。
ワイバーンと一時的とはいえサシの状況とか死ぬかと思った。
結局、無駄話ばかりでロクに作戦内容とかが決まらなかった。
目的地への到着を知らせる、警笛が鳴り響く。
各々が信頼する武器を手に、車両から駅へと降り立つ。
「――よし、それじゃあ行くか」
何時も通り、適当につるんで適当に魔物を撃破して回る、そんな流れになるのだろう。
だけどそれで、今までしっかり戦い抜いてきた。生き抜いてきた。
俺は、リサやリューテシアの姉ちゃんみたいに科学ってヤツに長けてはいない。
リュカの兄ちゃんみたいにモノを作れる訳でもないし、ルークの兄ちゃんみたいに人を纏め上げる事も出来ない。現在進行形で。
俺に出来る事なんて、精々この剣を振るう事だけだ。
ミラの姉ちゃんは言った。
感謝の気持ちがあるなら、この世界の技術を高めていけと。
技術者が頑張って、市民の生活水準が上がれば上がる程、未来を生きるミラの姉ちゃんの生活もまた豊かになるから。
だけど俺には、それをする事が出来ない。そんな頭は持ち合わせていなかった。
だったらせめて、技術者を傷付けるような外敵を退けられるだけの力を身に付けよう。
そして未来の技術者に成り得るような、力無き子供達を一人でも多く守ろう。
俺に出来る生き方。
あの時、無力な子供だった頃。何の偏見も持たず、俺とリサを拾い上げてくれた。
生きる事すら困難だった俺達に、生きる場所を与えてくれた。
その恩は、まだまだ返せていない。
ミラの姉ちゃん、未来で見ててくれよ。
これが俺なりの、恩返しだ。




