#3.世界の真実~ミラレポート~
※完全ネタバレモード全開※
この物語と隣接する世界観の根幹情報です
時間軸的には「本当の」最終決戦直前
いわゆる決戦前夜的なワンシーン
そういやこういう説明回を一度も入れてなかったなぁ
リュカのお話は、ま、待って……もう少し待って……
支配者の去った、閑散とした研究所。
以前の戦いの爪跡が残るこの世界は、復興に向けて慌しく人々は動き回っていた。
私が知っている頃の記憶では、何処の通路を覗いても大体何処かしらの部門の研究員が移動しているのを見掛けられた当時を考えれば、不気味な程に静まり返っている。
私以外の足音が聞こえない、静寂に包まれた研究所内を進んでいく。
かつてこの研究所、ひいてはこの世界の大部分を掌握していたあの男――アドリア・ジラーニイ。
彼は"勇者"と"魔王"を敵に回した事で、その全てを焼き尽くされ、無へと帰した。
アドリアの言う"最高傑作"とやらも、勇者の前では余りにも無力で、私はそれを呆然と見ている事しか出来なかった。
他人任せの決着という、私個人としてはスッキリしない終わり方ではあるが。
だからといって私一人でどうにか出来た問題なのかと問われれば、否としか答えられない。
それを考えれば、決着が付いただけ良しと考えるべきなのだろう。終わり良ければ全て良し、花より実だ。
研究所の最奥、神殺七光剣の座する一室に辿り着く。
そこに存在する神の存在は、私が居た頃と何も変わらず。
上から下へと流れ落ちる虹色の砂粒が、ただただ悠久の時を刻み続けていた。
無機質なモニターの光を湛えた、研究用のパソコンデスクの前に腰掛ける。
自重を預けた背もたれがキイと小さく乾いた音を立てた。
ふぅ。
さてと……アドリアが追い求め、結局辿り着く事が出来なかった世界の真実。
私という生体だけに留めて置くには余りにもこの情報は勿体無い。
なので、この情報を電子データとして残す事にした。
自分で調べたのではなく、あの男からの完全な伝聞なのだが。
私の知っている情報と比較して、一切食い違う点も無い事から、あの男の口にした情報は事実なのだろう。
……こうしてここに記している内容諸共、「抹消」されたら意味は無いのだけれど……
それでも、まぁ。
一応は私の生みの親でもあるあの男が、追い求め辿り着こうとした場所、世界の真実なのだ。
出来ればもう二度と、あのような凶行が繰り返されない事を祈りつつ。
供養の為、ここにこれを記す。
――私が作られた、"全知全能の神"を人の手で生み出そうと行われた神造プロジェクト。
既にその計画は勇者御一行様の手で頓挫したのだけれど、その計画が生まれた切欠となる存在は、未だ目の前に健在である。
今ここにある、巨大な砂時計とでも言うべき代物。
あの男を狂わせた力の結晶にして、この世界を司る、正真正銘の"神様"の力。
これはただの一柱にしか過ぎず、この世界は七柱の神――正式名称、神殺七光剣――の力によって動かされている。
この情報はその一柱からもたらされたモノであり、この世界を構成する根幹となる七柱の情報。
神殺七光剣 第七位存在。『記録』の神殺七光剣、ルードヴィッツ・ドクメント・レオンハルト。
世界全ての記録・知識を統括しており、正真正銘の「全知の神」であり、生きるアカシックレコードとでも言うべき存在。
しかし彼自身は全能である訳ではなく、あくまでも「知っている」だけだそうだ。
……外的手段によって強制的にあらゆる知識を詰め込まれた私からすれば、私という存在の完成形とでも言う存在だろう。
新たに生まれた情報がノータイムで自らの内に刻まれ、誰かの考えという脳裏の情報ですら、記録や知識という分類に入る為に事実上の読心術・未来予知とでも言うべき能力。
そして今代の化け物とでも例えるべき勇者リーゼロッテと、魔王の懐刀とでも言うべきライゼルを育てた張本人。
化け物を育てたのは神様だった、というオチか。そういうのは現実じゃなくて空想の中だけにして欲しいものね。
ここに残す情報は、全て彼からの伝聞である。また、無機物の形状をしている神殺七光剣の中で唯一人の形を取っている神でもある。
また、妙に厨二チックなビジュアルをしているが、どうもそういう風に神様の手でデザインされたらしい。
神殺七光剣 第六位存在。『認識』の神殺七光剣、有無自在リアライズアイズ。
世界全ての認識を統括しており、それがそこにある、という事実を捻じ曲げる存在。
この神が「カラスは白だ」と作為的な情報を流せば、全ての人々がそうだと「認識」してしまうのだ。
そして「魔族は忌むべき存在」「魔族は破壊神が遺した負の存在」「魔族は世界に災いをもたらす」……成る程、この認識をリューテシア達の世界に植え付けたのもコイツという訳か。
ただ、一度だけ力を行使した後は一切アクションを起こさなかったようで、時間は掛かったがその偏見を長い歴史の間で消化しきれたようだ。
最も、再びこの存在が力を発動すれば、その積み上げた歴史も一瞬で塵と化すのだが。
科学技術がまるで栄えなかったという、不自然過ぎる状況を作り出した元凶でもある。
この力によって意図的に世界を停滞させ、魔法以外の技術が繁栄しないよう抑圧し続けていた。
私というブレイクスルーが現れなければ、リューテシア達の世界は未だ魔法一辺倒で回り続けていた事だろう。
また、自らを見付けようとする存在に対しこの力を発動すれば、究極と言っても過言ではない欺瞞工作となる。
事実、私達はこの存在を見付けられなかった。いや、見付けてはいたのだろう。ただ、見付けたという事実を「認識」出来ていなかっただけなのだ。
私達の世界の目の前を堂々と、軌道衛星上をぷかぷかと漂い続けていたのに。取るに足らないただのスペースデブリや隕石だとしか認識していなかった。
直接的に誰かを殺めるといった力ではないのだが、その振るう力は間違いなく神の力だと断言するに足るモノだ。
人々の認識をいじれるのだ。誰か一人を世界の敵だとこれが断じれば、世界全ての敵意と悪意がその一人に向けられる。これ程恐ろしい事は無い。
神殺七光剣 第五位存在。『時』の神殺七光剣、加減停時クロノスグラス。
これに関しては、正式名称を知っただけであり、詳細な情報に関しては既にこの世界で解析はあらかた済んでいる。
目の前に存在する、巨大な砂時計の形状をした存在。これこそが第五位存在だったのだ。
世界全ての時空間を統括しており、タイムワープも時間停止も全ての時の流れがこの神の思うがまま。
この神の力を徹底的に解析した結果、私の汎用人型強化外装やものぐさスイッチが誕生した。
時の流れを停止させるというのは破損すらしなくなるという事であり、この力を利用すれば最強の盾を生み出す事も出来る。
この神様の力に関して纏めたレポートであらば、この研究所を漁ればいくらでも出てくるのでここでの説明は割愛する。
神殺七光剣 第四位存在。『法則』の神殺七光剣、絶対遵守ルールルーラー。
世界全ての法則を統括しており、林檎が木から落ちるのも、鳥が空を飛ぶのも、この世の法則と呼べる代物はすべからくこの神が定めている。
私からすれば冗談じゃないと苦言を呈したくなる存在だ。
水を加熱すれば爆発する、とそういう風に法則を書き換えてしまえば、それがそのまま世界のルールとなってしまうのだ。
正に「私がルールだ」を体言する存在であり、こんな神に好き放題力を使われてしまっては世界が成り立たなくなってしまうだろう。
ルードヴィッツが真っ先に操作し無力化するように指示を出したのも、このルールルーラーであった。
何でも、思念滞留域を神殺七光剣は通過出来ない、というルールを定めていたのもこの神の力らしく、このルールによってルードヴィッツは思念滞留域を超える事が出来なかったそうだ。
最も、今はそのルールを無効化したお陰でフリーパスとなっているのだが。
更に言うならば、私のフレイヤのエネルギー残量がゴッソリと削り落とされたのもこのルールが原因だったらしい。
思念滞留域を通過する際、通過した対象の有機物無機物問わず、その魔力を9割削り落とされる状態だったそうだ。
リューテシア達の世界に辿り着いて早々、フレイヤが置物になったのも、私が倦怠感に襲われたのも、このロクでもないルールが原因だ。
やってくれたわね、本当。フレイヤがまともに稼動していればここまで苦労する事も無かったのに。
神殺七光剣 第三位存在。『命』の神殺七光剣、生者必滅レーヴェンドート。
ルードヴィッツ曰く、位で格付けなんかが成されてはいるが、神殺七光剣は別に誰が誰に実力で劣るという訳ではないらしい。
だが、この第三位存在はその中で頭一つ抜けているらしい。
世界全ての命を統括し、それが生きるも死ぬも全てはこの神が決める、それがこの神。
文字通りの意味で、死神というヤツなのだろう。
この神が誰かの命を終わらせると力を行使した時、その存在の命は潰えるのだ。いとも容易く。
生物の寿命というのを決めているのも、この神だと言って良い。
不興を買えば殺されるし、贔屓にされれば不死の存在にもなれるかもしれない。
いや、肉体が欠片も残さず消滅しても存命し続けるという事を考えれば、不死と言うより不滅と言うべきか。
更には死者すら完全な形で蘇らせるという、神の御業の代表みたいな所業すらやってのける。
そしてこの神が振るう死神の鎌を阻止する手段は、無い。
その時はただ死ぬだけだ。
まぁそれすら防ぐ理不尽な力も存在しているのだが。
……ああ、駄目ね。
流石に次のヤツは私怨が混ざるわ。
感情的な文章になっているかもしれないけれど、勘弁して欲しい。
ここから先は更に神殺七光剣の中でも格違いであり、そしてこの者に苦しめられた命は数え切れない程であり、私もまた苦しめられたのだから。
神殺七光剣 第二位存在。『抹消』の神殺七光剣、神殺剣レーヴァテイン。
神殺七光剣の名前の由来となり、名に偽り無く、本当に神を殺した存在。
神を殺し、かつて存在していた天国と地獄を無へと消し去り、空座となった席へと腰を下ろし、新たな死後の世界という概念を作る土壌を整えた神。
リューテシア達の暮らす世界で壮大な自作自演を行い、数え切れぬ程の歪みを引き起こした、悪神。
全てを消し去る力を有し、かつては「破壊神」という名でリューテシア達の暮らす世界に悲劇をもたらした。
初代勇者に討ち取られた、というのもただの自作自演で下準備の一部だというのだから、失笑すら起きない。あの世界での出来事は全部この神とやらの掌の上という訳か。
ナイアルという分身を生み出し、直々に動く事が出来ない自身に代わり、世界で暗躍した。
性格は残虐で冷酷で非情で自尊心が高く他者を見下し加虐趣味を持ち……簡単に言えば、クソ野郎だ。
全てを消し去る。そう、本当に何でも消し去る事が出来るのだ。
かつてあの世界にあったはずの、人々が集うレオパルドという国も、その国にあったはずの科学知識も。
人々が持っていたであろう科学知識や、それに関する文献も。積み上げた文明も。
人の口に戸は立てられない、という常識を吹き飛ばしてしまった存在。
科学知識を、『抹消』してしまったのだ。
この神が暗躍してくれたお陰で、私はあの世界に来て早々、最初に科学技術を根付かせるという作業を強いられた。
本当、余計な事をしてくれた。
しかもルードヴィッツの話では、このレーヴァテインは第六位存在のリアライズアイズの力を自由に使える権限を有しているそうだ。
リアライズアイズはこのレーヴァテインの眷属神とでも言うべき存在らしく、ぶっちゃけると、舎弟である。
よりにもよって何でこんな性格捩じくれたヤツに『認識』の力が与えられてるのよ……!
弄ぶ趣向を持つヤツに、その為の玩具を与えられたようなものだ。鬼に金棒、いや、鬼じゃなくて神か。
ぶっ飛ばしてやりたくなるわね。いや、ぶっ飛ばしたんだけど。
いけない、感情的になり過ぎた。
ただまぁ、その悪行もこれ以上行われる事は無いのだろう。
レーヴァテインは、私達の手で討ち取った。
正確には行動不能に追いやっただけであり、不滅の神である神殺七光剣を殺す事は出来ないのだが。
理屈はルードヴィッツにも良く分かっていないらしいが、何故かレーヴァテインに対しては魔法攻撃よりも銃火器といった兵器による攻撃の方が通りが良いらしい。
お陰で私はかなり有利に立ち回る事が出来、勝負の明暗を分かつ分岐点ともなった。
全知であるはずのルードヴィッツが分からない、というのが納得が行かないのだが。彼曰く、自分よりも上位存在からの干渉を受けて一部の情報が閲覧出来ない状態だとの事だ。
そして閲覧出来ない情報の全てが、次に記す存在に関する事ばかりだそうだ。
神殺七光剣 第一位存在。『創造』の神殺七光剣。
全てを生み出す力を持つ、創造神。
ルードヴィッツが全知の神であるならば、これこそが全能の神なのだろう。
その情報は徹底的に隠蔽されており、存在自体が不明。名称も不明。
しかしルードヴィッツ曰く、神殺七光剣は七柱全てが集まる事で「全知全能の神」となるらしく、例え情報が隠蔽されていても予想する事は出来るとの事。
巻尺が無い状態で物体の体積を求める為に、知識という水に沈めるような感じである。
それ自体は分からなくても、歯抜けの情報部分を繋ぎ合せれば予測位は出来る、という訳か。まぁ納得出来る話ではある。
神殺七光剣が世界運行を行う上で、足りていない存在を考えれば答えは創造神しか存在しない。
他の全ての神が集まっても、何かを生み出す事が出来ないのでは全知全能足り得ないからだ。
レーヴァテインが片っ端から何もかも抹消し続けていたら、世界からモノが無くなってしまうからね。生み出す存在は必ず存在しなければならないのだ。
――以上が、この世界の真実。
世界はこの七柱の存在によって動かされており、私達はその掌で踊っているだけなのだ。
貴方の知る友人家族、そして自分の持つ知識や信条。
その全ては彼等に見られており、もしかしたらそれらは彼等によって植え付けられた認識なのかもしれない。
それを確かめる術は、果たしてあるのかしらね?
でもまぁ、ルードヴィッツの話では創造神様とやらは眠りこけているらしいし。
好き放題していたレーヴァテインを機能停止に追い込んだ現状、ルードヴィッツ以外の神殺七光剣とやらは沈黙を貫いているそうだ。
この情報をもたらしたルードヴィッツはレーヴァテインのようにこの世界をどうこうしようという気は無いらしく、現状維持の方針との事。
一番の問題児である神様を叩きのめした現状、意識が無いか寝てる神様だけなので世界は平和になったはずである。
創造神様とやらが起きてこなければ、だが……
何でも創造神様は人の世界に興味津々のタイプらしい。お願いだからそっとしておいて欲しい。
寝た子を起こすな、の方針で創造神様にはそのまま永年寝続けて欲しいものだ。
この後起きる。
創造神「おはよう」




