#2.リューテシアが遺したモノ~希望の種~
777777PV&100000ユニーク記念に些細ではありますが少しの間更新します
更新日は未定不定期、話が完成し次第投下します
――豪華絢爛を体言する、見事なまでの装飾が施され、一目で高価で貴重なモノなのだろうと分かる壺や絵画の数々。
世界中の財がこの地に集結しているのではないかと考えてしまうが、案外正解なのかもしれない。
ここは、人類最古にして最大の都。
聖王都ファーレンハイトに一際高くそびえ立つ、王城の中なのだ。
最高権力者として、国名と同じ姓を持つファーレンハイト王家を枢軸とし、ファーレンハイト領内を自治する貴族達と共に国の方針を決め、実行している。
……のだが、斜陽の王国という印象しか無い。
貴族所か王家ですら汚職に塗れ腐敗し切り、犯罪を金で見逃す事など日常茶飯事。
持ち前の反則じみた国力によって現状維持はしているようだが、それも何処まで持つか疑わしいものだ。
何しろ、そこしか居場所が無かったが故に選択肢など存在しなかった民衆に、新たな選択肢が生まれたのだから。
ロンバルディアの独立戦争により、元々はファーレンハイト領の一地方にしか過ぎなかったファーロン山脈北方、ロンバルディア地方を勝ち取り独立。
魔法という既存技術だけでなく新たにもたらされた科学技術を活用し、凍土を物ともしない発展を遂げた、人でも魔族でもない、人と魔族の地。
蒸気船という海路も切り開いた結果、海の彼方に新たな島国も発見し、発展途上国だったのは既に過去の物になりつつある。
ファーレンハイトと比較しても遜色が無い所か上回る規模の都市もあり、特に首都となった元オリジナ村とソルスチル街に関しては、二つ併せれば既に聖王都の総住民の数では追い抜いている。
こうなれば、貴族達に苦しめられてまでわざわざ聖王都で暮らす理由も無く、流民がどんどんロンバルディア目指してやってくる。
人手に関してはどれだけあっても足りないし、ただただ農作業に向かない寒冷地帯なだけであって国土自体は非常に広いのだ。
ロンバルディアの未来は明るいし、ファーレンハイトの将来は暗い。
そうなった原因の結構な割合は私が原因だけどね。
主犯はミラだけど、数百年前にミラがこの世界から居なくなってからは私が大体主犯だったし。
ルークも一時期大統領とか随分な地位になってたけど、ルークは人間だったから流石にここまで長生き出来なかったから、やっぱり期間で見るなら私が一番の元凶だ。
ロンバルディアでは半人半魔も差別されないし、逃亡奴隷を受け入れてくれる。
そんな話をファーレンハイトに向けて流したし、実際制度も整えて奴隷身分から一般市民へと戻れるように法整備もした。
ファーレンハイトという奴隷に支えられた栄華も大分メッキが剥がれたんじゃないかしら? ざまーみろ。
元々は奴隷として苦しめられていたので、まぁこの位の嫌がらせはしても良いだろう。
本来、私なんかが来る事が出来ないし必要も無い王城内部の廊下を歩いていく。
床が凄くふかふかしてる。この真紅の絨毯もさぞ高価な代物なのだろう。
私がこのファーレンハイトを訪れたのは、教育の為だ。
この国には、余りにも科学技術に対する知識が無さ過ぎる。
精霊教会様が「科学技術は悪魔がもたらした異端の力だ」とか寝言をほざいてきたので、それに対抗する為に来たのだ。
魔法じゃない、理解できない強力な力、だから怖い。
そんな意識が人々にあるせいで、こんなデマが生まれたのだろう。
ロンバルディアに生きる人々はこの寝言に対し「寝言は棺桶の中で言え」というスタンスで徹底しているので、間違ってもロンバルディア共和国がこんなアホな思想に染まる事は無いのだが。
だが、ファーレンハイトの人々に未知を恐れる心があるのは確かだ。
だったら、未知じゃ無ければ良いのだ。
科学というのは、万人が平等に用いる事が出来る世界の法則であり、決められたルールに従えば子供から老人まで等しく働く力なのだ。
これが、ロンバルディアだけでなくファーレンハイトにも広がれば良い。
どうせ人の口に戸は立てられない、少しずつ技術は漏洩するものだ。
だったら遅いか早いかの違いでしかない。このファーレンハイトにも科学という知識を植え付けてしまおう。
そうすれば精霊教会みたいなとち狂った発言も鳴りを潜めるだろう。
宗教というのは厄介だ。精霊様の名を用いれば恐れを知らない信徒が尖兵として容易く命を捨ててくるからね。
負ける気は無いが、それでもロンバルディアの人々が傷付くのは確かだ。
流さなくて済む血は、流したくない。回復魔法も医療技術も、限界というのがあるのだから。
取り敢えずその為に、聖王都に私の持つ科学技術を売り込む事にした。
ロンバルディアで学問を修め、科学という技術を学んだ人物。
これを用いれば、聖王都もまたロンバルディア同様に力強い、かつての栄光を取り戻せるだろう、と。
都合が悪いので貴族を通して精霊教会には圧力を掛け、貴族達にこの科学技術を流していく。
そうすれば貴族を通して科学技術もファーレンハイトの地へ染み込んで行くだろう。
売れる技術なら、いくらでもある。伊達にロンバルディアの中枢で二百年以上働いてないわよ。
ただ、売り渡す技術に関しては取捨選択させて貰う。
雷管や火薬の作り方みたいな、国の根幹に関わる技術の漏洩は断固阻止。
当たり障りの無い技術を中心に、それでいて生活が豊かになるような科学知識を中心に伝えようと思う。
その際、余計な先入観が無い方が良いので、貴族の子供に対して教育させて欲しいと進言した。
無論、大人達も学びたければ御自由にどうぞとは伝えておいた。
教育の場として宛がわれた、王城内の一室。
その扉を開ける。
室内は魔術灯の光が灯されており、会議室のような巨大な机を取り囲むようにいくつもの椅子が並んでいた。
椅子には既に二人の子供が腰掛けており、その周囲にはお目付け役なのか、家政婦の姿が見られた。
知識は確かだが、ロクに素性の知れない人物を相手に自分の子供を預けるという、そこまで馬鹿な頭は流石にしていないようだ。
でもまぁ、それでも別に構わない。知られても構わない知識だけを教えるのだから、監視の目は一切気にしない。
「取り敢えず、名前を聞かせて貰おうかな?」
椅子に腰掛けていた、青髪の少年と暗い目をした赤毛の少年に視線を走らせつつ、最初に自己紹介を切り出した。
私は偽名であるシアと名乗る。
偽名なら何でも良いのだが、何となく、お姉ちゃんの恋人であるクレイスさんが言っていたこの名前にした。
リューテシアという本名は、既にこの世界では有名になり過ぎている。
ロンバルディア建国の祖として知れ渡ってしまったのだ。こんな名前、もうそう簡単には名乗れない。
また、人ではない魔族であると一目でバレてしまう耳も、頭にターバンを巻く事で隠している。
ロンバルディアではもう差別意識は完全に排除出来たが、ファーレンハイトではまだまだ魔族の血を忌み嫌う風潮が強いからね。
王の前で被り物を取らないとは無礼な、と言われてこのターバンを取るように言われた時は素直に外したが。
耳には幻影魔法を掛けているので、直接触られたりでもしなければ早々バレはしない。
ただ、ずっと発動し続けているのは中々にしんどいので普段は楽をする為にターバンを巻いているだけだ。
「ガレシアと申します」
「……グラウベ、です」
礼儀正しく名乗りを上げたのが青髪のガレシアで、薄暗い雰囲気なのが赤毛のグラウベだ。
この二人しか、居ない。
興味を示したのが彼等だけなのだろうか? もしくは、得体の知れない人物に我が子を託して、いらん事を吹き込まれたりしないかと警戒したか。この可能性が高そうだ。
だが、それでも二人も居る。
二人居れば、科学に対する偏見も無くなるだろうし、科学知識をファーレンハイトにも伝播してくれるだろう。
特に、疫病絡みは発生すると厄介だしロンバルディアにも飛び火しかねないから、是非とも身に着けて貰いたい所だ。
「そう、ガレシアにグラウベね。私がこれから貴方達の家庭教師として教鞭を取るシアよ。ああ、それから私の事は呼び捨てで構わないわよ、貴方達は貴族の御子息なのだから、一市民に対し畏まらなくて良いわ」
王城に入る際、検閲を受けた手荷物を机の上に広げる。
科学を知らない兵達には変な物に見えるかもしれないが、怪しい物ではない。
好きなだけ調べて構わないと手渡し、検閲後に返して貰ったものだ。
不思議な物体の数々に興味が湧いたのか、ガレシアは机の上に広げた品々を好奇心に満ちた目で見ている。
「魔法という知識に関しても私はそれなりに有してるけど、そっちの教育は聖王都の学院教師がやるって話だから、私はロンバルディアで使われている技術、科学技術に関して貴方達に教える事になったわ」
取り敢えず、子供にも分かり易い実験をするべく、持ち込んだ道具の内、桶二つとゴムチューブを手に取る。
「突っ込んでいくと色々難しいんだけど……取り敢えず、遊びながら学びましょうか」
桶に水を張り、ガレシアとグラウベに近くに来るよう手招きする。
変な事をしないかと、一緒にお目付けの家政婦も来たが、別に見たければどうぞ。
桶の中にゴムチューブを沈め、片方の口を指で塞ぐ。
もう片方は水に浸したまま、ゴムチューブを持ち上げて桶から出す。
もう一つの空の桶を床に置き、そこに向けてゴムチューブを伸ばし、口を塞いでいた指を離す。
当然ながら、ゴムチューブから次々に桶の水を吸い上げられ、空っぽの桶の方へ水が流れていく。
科学を知っていれば、当然の現象。だが、科学に疎い子供から見れば不思議な現象にしか見えないだろう。
「……魔法を使ってる訳でも無いのに、何で水が勝手に流れるんですか?」
「あら、私が魔法を使ってるか使ってないかは判別が付くのね」
「これでも、魔法学院に通ってますから」
「そうなのね。確かに私は魔法を使ってないわ、そしてこのゴムチューブの中に限り、水が一部下から上へ流れてるのも、魔法ではなく科学の現象の一つよ」
ガレシアは興味深そうに流れる水を見ているが、グラウベの方はぼんやりと水を眺めている。
「サイフォンの原理って言うのよ。ゴムチューブとかが割りと簡単に手に入るようになったから、これを知ってると日常生活でも便利よ。お風呂の水を庭の水撒きに使ったりとかね」
へー、と関心を示すガレシア。
対し、グラウベは無関心とでも言うべき態度だ。
「……これ、あんまり役に立たなそう」
ポツリと呟くグラウベ。
「んー、まぁ確かに子供の視点だとちょっと面白い現象にしか見えないかもしれないけどね。これを知ってると、野外で活動する時に色々便利なのよ」
ドラム缶に入った水を、水道水のように蛇口を捻ったら出てくる状態にする時とかね。
野外活動で便利なサイフォンさん。野営設置時に改めて知ってて便利だと思いました。お世話になってます。
「こういう風に小さい状態だから微妙に見えるけど、規模を大きくしても動くのよ。」
これだとチョロチョロとしか流れないが、もっとチューブの規模を大きくしてバケツがあっという間に満水になる程の勢いであらば、また見方も変わってくる。
それ程の勢いになれば農地に水を引く事にも使えるし、少し離れた川や湖から配管を通じて飛び地に水を引き込んだり、なんて事も可能だ。
水は人々の暮らしに密接に関係している関係上、使用用途は無限大だ。
そして、そういった活用方法を考えるのは貴族の仕事である。
だから、科学の知識を貴族が覚えるというのは未来の何か、に繋がる可能性は高い。
「あ、それからこんなおもちゃを作ってきたんだけど、やってみる?」
サイフォンの原理でそこそこ科学に興味を持ったガレシアへそれを手渡す。
「そのコップの部分を耳に当ててみて」
ガレシアが耳元にコップを当て、私ももう片方のコップを口へ当てる。
それらを繋ぐ糸をピンと張り。
「どう? 聞こえるよね?」
「声が聞こえる!」
「糸電話っていうのよ。声の振動をコップから糸へ伝えて、糸から伝わった振動がコップに伝わって空気を振動させる。声っていうのが空気を震わせて発生しているというのを利用したおもちゃよ」
子供の工作の定番、糸電話である。
可愛らしい無邪気な笑顔を浮かべるガレシア。
そんなガレシアの空気に触発されたのか、グラウベも少し興味を持ったようだ。
「……グラウベくんもやってみる?」
糸電話を差し出す。
しばし考えるような素振りをした後、コクリと無言で頷くグラウベ。
ピンと糸を張るよう、コツを伝えた所、グラウベとガレシアの間で糸電話による言葉のキャッチボールがスタートした。
貴族とか、割と欲に濡れたどす黒い人間ばっかりとか思ってたけど。
最初からそうなってた訳じゃなくて、環境に染まって変わってしまうんだな、と思う。
目の前に居る貴族の子供は、そこらの街中で見掛けるような無邪気な笑顔を浮かべ、子供らしく糸電話で遊んでいた。
子供、か。
私も持つ日が来るのかな?
そんな相手、まるで思い付かないけどなぁ。
ミラ、リューテシア、ルーク、リュカ、ルナール、リサ
ちょうど6人居るのでトップバッターを誰にするか、厳正なサイコロ審査の結果リューテシアからになりました
主人公差し置いて
次の投下はリュカ、そこからミラ、ルナール、ルーク、リサという順番です




