666666PV記念:そのごのロンバルディアちほー
666666PV記念のおまけ。
189話にてサラッと話してた、聖王都とロンバルディア地方に起きた戦争の始まり的な。
オマケ話なので別に読まなくても問題ないです、蛇足とも言う。
流石に777777は行かんやろ……
ファーレンハイト領・ロンバルディア地方。元、鉱山跡地。
ミラという少女が目を付け、人材と資材を導入し、その姿を一変させた現、居住地。
その主であるミラは既にこの世界には居らず、彼女からその全てを託された者達の手で、この居住地はその後も拡大を続けていた。
地下の開拓も進めているが、それで確保される居住スペースよりも移民の量が圧倒的に多く、居住スペースが地上部分に溢れ出してから既に何十年経ったであろうか。
線路に沿う形で道が整備され、そこに家屋が建設され、地上を徐々に侵食していき、遂には鉱山跡地から最も近い集落であるオリジナ村までその侵食は伸びて行った。
最早ここまで来たなら、一つに統合してしまった方が良い。
鉱山跡地の住人が言ったのか、オリジナ村の住人が言ったのか。始めに口にしたのがどちらかは分からないが、双方の間からそんな提案が上がった。
元々、オリジナ村と鉱山跡地は線路という高速移動手段で繋がっており、度々この路線を利用して交流を行っていた。
それ故に、併合に対して双方共に何の問題も無く合併・吸収が進んだ。
その際、オリジナ村にはちゃんとした名前があったのだが、鉱山跡地には特に何の名前も無かった。
元主人であるミラが、鉱山跡地で通じるのだからと特に名前を決めていなかった為、この地で暮らす者も皆、この地を鉱山跡地という呼称で統一していたのだ。
名前が無いというのも何なので、この吸収合併の際にオリジナ村の名前をそのまま流用する事にした。
そして併合された事で、最早村とは呼べない規模の住人数に膨れ上がった結果、オリジナ村ではなくオリジナ街へとその名が書き換わるのであった。
「――リューテシアの姉ちゃん!」
そんな、元鉱山跡地にして現オリジナ街。
この街の心臓部とも呼べる、その中枢部に若い男の声が響く。
弾丸の如く飛び込んできたその男は、捜していた女性の下へと駆け寄って行く。
「何よそんなに慌てて。どうしたのルナール?」
リューテシアは、血相を変えて飛び込んできたルナールを見て、厄介事の気配を感じ取った。
しかし、慌てた所で何も事態は変わらない為、冷静にルナールへと返答した。
「また聖王都の奴等が攻めてくるよ!」
「ハァ……」
額に手を当てながら、リューテシアは深く溜息を吐いた。
「……ミラが置き土産として置いて行った楔、抜けるの早過ぎでしょ……もー、こっちは研究で忙しいのにー……!」
「取り敢えず迎撃準備を進めてるけど、やっちゃって良いかな?」
やっちゃう。
それは戦争の口火を切るという重い決断なはずなのだが、ルナールは随分と軽い口調で言ってのけた。
このロンバルディア地方は、聖王都の圧政や迫害から逃れて来た人々が集い、結束した事で数々の集落が生まれた経緯がある。
それ故に、対聖王都に対しての戦闘意欲は軒並み高い。
ましてや、防衛戦力として鍛錬に励んでいる兵達なら尚更。
それを束ねる立場になっているルナールともなれば、それは当然の事であった。
「……もう良いや。好きにやりなさい」
どうせ止めたって聞かないし、リューテシアも聖王都に対しては良い感情は無い。
それ所か憎しみすらあると言って良い。
ミラとの日々で、憎悪とも言うべき重苦しい感情は大分目減りしたが、それでもまだ心の中で燻った悪感情は消えていない。
「ただ、どうせやるなら完勝して、いっそ切り取っちゃいましょう」
「切り取る……?」
「このロンバルディア地方を、ファーレンハイト領じゃなくて、ロンバルディア領に書き換えてしまおうって言ったのよ」
リューテシアは、一切の淀み無く。恐るべき事を言ってのける。
それはつまり、独立。
ファーレンハイト領の地方ではなく、新たな国の建国宣言に等しかった。
「……マジで?」
「もう好い加減、聖王都からの干渉は飽き飽きなのよ。それに、もう聖王都と私達の力量には差なんてほとんど無いのよ?」
多少栄えたとはいえ、それでもただの寒村の寄せ集めであったロンバルディア地方は、最早かつて聖王都の考えていた烏合の衆では無くなっている。
数十年前に大規模戦闘が発生し、そこでミラがただ一人で。錬度の高い兵や、その旗頭となる有力な戦士を軒並み、皆殺しにしてしまった。
その後、ドラゴンの襲撃という惨事があったが、生きる災害とでも言うべきその襲撃に対し、私達は軽傷と言っても言い程の、最早勝利に等しい被害でドラゴンを退けた。
その報はファーレンハイト領内に響き渡り、移民の勢いを加速させていった。
あの地は、精霊様に祈って怯えるしかなかった、あの生きる天災と呼べるドラゴンでさえ退ける事が出来る力があるのだ、と。
対し、聖王都では何やら権力者の筆頭が斃れた事で動揺が生じ、幸先に不安が満ち始めている。
元々あった武力の差は、ミラが更地へと帰し。
その後に増えるはずの武力は、ミラが残した品々とうなぎ上りに増える人手によって、聖王都とロンバルディアの間にほとんど差は無くなっていた。
「もう良いでしょ。昔ならこの強固な地下拠点に引き篭もって篭城戦って言う所だけど――真正面から、叩き潰しちゃいましょうか」
「……リューテシアの姉ちゃん、真顔で凄い事言うなぁ……まるでミラの姉ちゃんみたいだ」
「私が? 冗談言わないでよ、私はミラみたいな突拍子も無い事言わないわよ。現実的な、出来る事だけしか言わないわよ」
そう、リューテシアは彼女の頭で真面目に考え、出来る事しかしない。
……もっとも、それはミラも同様であり、ミラも自分が出来る事しか言っていなかったのだが。
もう既に、軍団という戦闘能力において聖王都とロンバルディアの間に差は無い。
敵軍を壊滅させる必要は無い、全て倒す必要は無い。
何故なら聖王都はこちらを滅ぼす気なのかもしれないが、こちらは聖王都を滅ぼす気は無いんだから。敗走させればそれで勝ち。
「――あっちには無くて、こっちにはある。最高の手札が何枚もあるからね」
リューテシアは、ルナールにその手札を説明していく。
一つ。それは、張り巡らされた鉄道網。
ミラが去った後も鉄道網の拡大は続いており、各村落の希望や交通の便の向上の為に、ロンバルディア地方内は蜘蛛の巣の如く線路が張り巡らされていた。
そして、量産された蒸気機関車が走り続けており、その移動速度はこの世界で主流の移動手段である馬車を鼻で笑える速さなのだ。
聖王都は、馬車を率いて兵達の食料を乗せ、それに加えて馬自身の食料も含め、大量の荷物を抱えて進軍して来ている。
その速度は、蒸気機関車と比べて遥かに遅く、進軍の距離に比例して兵や馬も疲弊していく。
対し、蒸気機関車は馬のように疲弊しない。
水と燃料である石炭さえあれば、それが尽きぬ限り延々と走り続ける。
ロンバルディア地方は広大な土地だが、それを蒸気機関車であらば一日で横断出来る。
線路が巡らせてある圏内であらば、一日あれば何処から攻められても兵を即座に向かわせられる。これは馬では出来ない事だ。
圧倒的移動速度。それは、戦争時において後続の兵を速やかに最前線まで運び、負傷者を即座に最後尾まで下げる事が出来るという事であり、これは戦時に圧倒的なアドバンテージと成り得る。
二つ。それは蒸気機関車という存在。
聖王都でも戦争用の装甲馬車という代物は存在する。
しかし、蒸気機関車はその全身が鉄で出来ており、隙など存在しないし、速度も桁違いだ。
鎧を着せた馬でも、間接といった覆う事が出来ない場所を切り付けられればそれで崩れ去る。
しかし蒸気機関車は剣で切り付けられた所でだからどうした、で終わりである。
無機物が痛いなどと泣き言を言う訳も無く、確かに全身鋼鉄の蒸気機関車といえど脆い所はあるが、それこそ鎧を着た馬同様に、蒸気機関車にも鎧を着せてしまえば良い。
装甲列車と呼ばれるそれは、ロンバルディア地方内の防衛力を上げる為の策として製造され、既に配備が完了している。
三つ。それはミラが去り際に残した、銃火器という存在。
火薬の量産は順調に続いており、この火薬を利用する銃という武器も量産され続けている。
その威力は下級魔法~中級魔法程度にはあり、戦争で使用する破壊力としては充分な威力である。
薄い鉄鎧程度であらば容易く貫き、弓よりも遥かに早く、遥かに強い打撃力を叩き込む。
それをロクに訓練もしていない女子供でも多少の指示で扱えるようになるのだ。
未だに玉込めの速度という問題点はあるが、これは量産して手数を増やすという手段で有る程度解決出来た。
また、ドラゴン相手に多少よろめかせる程度には効力を発揮した大砲もある。
ドラゴンにさえ届くのだ。人間相手であらば最早これは言うに及ばずだ。
これらを組み合わせる。
装甲車両に兵を乗せ、大砲と銃の雨あられを浴びせる。
その援護を受けて前線の兵が交戦する。
兵が負傷すれば即座に下げ、鉄道網を利用して後衛の衛生兵が負傷兵を治療する。
元気な兵を次々に前線へピストン輸送し、その波状攻撃を浴びせる。当然ながら例え長距離でも、兵士達の移動に伴う消耗なんてのはゼロに等しい。
装甲車両が盾になる事で後衛である魔法や弓なんかを使う兵への攻撃を阻止し、装甲車両も下級魔法程度であらばビクともしない程の防御力があるのは確認済みだ。
素材頼りの防御力の時点でこれなので、術者による防御魔法が加わった際には中級魔法ですら容易く耐える。
上級魔法に関しては――そもそも一般人がポンポン撃てるようなモノではない。
撃とうとすれば確実に目立つ。見付けたなら発動前に潰せば良いのだから。
怖いのはそれを単身で撃てる、いわゆる勇者とか英雄とか呼ばれる部類の人物だが――勇者はまだ存命で、ルシフル村にて隠居中だ。
そして勇者にも届くかも、なんてレベルの人物が現れれば、普通その名は聞こえてくるはずなのにそれも無い。
故に今は、一騎当千の戦闘能力を警戒する事も無い。……もし来たとしても、常識の範囲内であらば押し潰せるのだが。
……それらを踏まえても、元々の地力が高かった聖王都だ。
楽勝だなどと言う気は無い。
だが、勝機は普通に手の届く位置にある。勇者や魔王でなくとも、英雄でなくとも。一般人の手だけでも充分届く。
多少の不測の事態があっても、ゴリ押せる程度には手札が揃っているのだから。
「そういやさ、リサの奴がまた新兵器を生み出したみたいだけど。それも使って良いんだよな?」
「……初耳なんだけど。一体何を作ったのよ?」
「何か、凄い爆発で破壊って言うより薙ぎ払う感じの爆風を起こす事に特化した爆弾だってさ」
更なる手札が増えたリューテシアだが、これには一切喜ぶ素振りを見せず、寧ろ眉をひそめた。
「……もし使うならルナール、貴方が横に付いて厳重な監視の上で使いなさい」
「言われなくてもそうするよ……!」
その後、戦力の総括であるルナールと話を詰め、進軍してくる聖王都の軍に対する対策を進める。
数週間後。
聖王都とロンバルディア地方の軍事衝突が発生する。
数ヶ月続けられたその戦争は、聖王都の敗北に終わり。リューテシアの目論見通り、ロンバルディア地方はロンバルディア領として独立を勝ち取った。
この戦いの後、ロンバルディア地方はロンバルディア共和国として世界に名乗りを上げ。
新たなる国家として世界の歴史にページを刻み始めるのであった。
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時代が地続きになってる続編、書き進めてます(宣伝)
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