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189.激動せし世界

「長閑な場所ね」


 (くるぶし)程度の高さに緑が生い茂り、さらさらと流れる小川が涼を感じさせる。

 近くには森があり、その森の更に向こうには、おぼろげながらもファーロン山脈を望む事が出来る。


 ここは聖王都ファーレンハイトの郊外にある平野部であり、温暖な気候と豊かな緑というファーレンハイト領特有の恵まれた土地の一端である。

 時間転移の後、私はロンバルディアにて換金を済ませ、蒸気機関車に乗り込みここファーレンハイト領へとやってきた。

 ソルスチル街に滞在していた最中、街中にて今現在の世界情勢の情報を聞き拾い集めていたのだが、随分と世界は変わっていた。


 先ず第一に、ロンバルディア地方が独立した。


 およそ200年強も前の話……と言うか、私が時間跳躍を行った数十年後、と言った方がいいか。

 聖王都の横暴がどうやら再び発動したようで、それに激怒したロンバルディア地方が蜂起。

 高名にして天才魔法科学者であるリューテシアが生み出した魔導具や銃火器の力により、錬度・数にて勝る聖王都の軍を武器の質で押し返した。

 また、蒸気機関車という馬を遥かに上回る高速移動手段が既に網の目のように張り巡らされていたが故に、負傷兵や人員、物資を高速で移動させられたのが最大の勝因とも呼ばれている。

 聖王都軍は敗走しつつも、勢いに乗って更に攻め込むロンバルディア軍を辛うじてファーロン山脈を境界として押し留める事には成功したようで、亡国とはならなかった模様。

 しかしこの騒乱により聖王都はロンバルディア地方と呼ばれた北方領土の全てを切り取られ、ロンバルディア地方はロンバルディア共和国として独立を宣言。

 初代大統領に就任したルーク・ラインハルトを旗頭に、ロンバルディア共和国はその歴史をスタートした、との事だ。

 随分と派手に活躍しちゃったわね、ルーク。

 それに天才魔法科学者とか、大層な冠文句が付いちゃったみたいね、リューテシア。


 ロンバルディアの敷いた路線は、意外な事にファーレンハイト領内部にまで伸びており、その道中かなりの距離を快適な蒸気機関車の旅として過ごす事が出来た。

 再びロンバルディアとファーレンハイトの間に争いが起きた際、この路線は起点にされかねない危険性を持ってはいるのだが。

 そのデメリット以上に、メリットの方が大きいと判断されたようだ。

 メリットとは即ち、交易に他ならない。

 ロンバルディア共和国、首都オリジナには地下に埋没するように建設された巨大な農場が存在している。

 そこでは自由自在に天候を管理出来、常に安定して高品質の食材を生み出し続ける事が出来る。

 これは例えファーレンハイト領の肥沃で広大な土地を有していても不可能な所業であり、ここで栽培された食料は好事家の貴族達に降ろされ、ロンバルディア共和国の財源にもなっているらしい。

 まあ、単純に食料の数を揃えるだけであらばどう足掻いてもファーレンハイトには勝てないんだけどね。

 少ないが高品質のロンバルディア、そこそこで大量のファーレンハイト、といった具合に落ち着いたのだろう。

 ロンバルディア地方――共和国に関してはこんな具合だ。


 第二に、聖王都が弾けた。


 どうやら聖王都にてとんでもない王様が生まれたらしい。

 その逸話を聞いて読んで、流石に私は「これ脚色してるのでは?」と疑いを持たざるを得なかった。

 しかしどうもその全てが真実らしい。


 グラウベ・トレイス・ハインリッヒ・ファーレンハイト――第107代ファーレンハイト国王。

 元、98代勇者、『勇者王』。

 そして現66代魔王、『夢想の開拓者』を名乗っていると言う。


 この元勇者である国王――当時第三王子であったグラウベという人物は、仲間を率い、自らを含め四名でレオパルド領に侵攻。

 魔族の抵抗を跳ね除け、単身魔王を討伐、拿捕したという。

 魔王を聖王都に連行し、広間にて処刑する――そのタイミングで反旗を翻し、その場にいた当時の国王、及び第二王子を斬殺。

 聖王都を武力的に制圧し、後に遠征していた第一王子とその軍勢を傭兵達の助力もありその全てを壊滅させ、拿捕した第一王子も処刑。

 その上で現、ファーレンハイト国王を名乗る――改めて思い出しても、何なのだこの国王は。という感想しか出て来ない。

 付け加えるならば、魔王の名を奪われたその元魔王という魔族は普通にレオパルド領に戻ったとの事だ。その後も暫定魔王を名乗り、この国の王と交流を続けているとの事。

 またこの騒動の際に聖王都は国王に権力が集中した、いわゆる独裁国家としての面が強くなり、貴族の力が昔と比べ遥かに弱まった。

 国王の意に反した貴族達は失脚させられ、家を潰され、酷ければ処刑すらされたという。

 これだけ血塗られた経歴を持つというのに、ファーレンハイト領内は実に平和である。

 市民達の反応も賛否両論であり、腐れきった聖王都の膿を全て絞り尽くしてくれた、富を弱者達に還元してくれるようになった、税が軽くなった。

 または親族を皆殺しにして王座を得た反逆者、歴史を踏み躙る大罪人、権利を理不尽に奪う略奪者――色々である。

 この国がどうなっているのかは……まあ、今向かってる聖王都の今の様子を見てから判断するって事になるわね。


 第三に、ラドキア半島に架け橋が生まれた。


 ラドキア半島というのは、ファーレンハイト領の端っこ、最もレオパルド領に近い場所にある半島の事だ。

 ロンバルディア共和国的には、グレイシアル村の山を越えた向こう側に位置する場所。

 そこに、現聖王都国王とレオパルドの王、両者の助力によって新たな都市が生まれた。

 そこでは人と魔族が共に暮らしており、また半人半魔の人々も迫害されずに日々を過ごせているとの事だ。

 その名を闘技場都市ラドキアアリーナと言い、地理的にはファーレンハイト領に属しているのだが、取り決めによりここではファーレンハイト、レオパルドの両方の法が適用されない。

 無論、そのままでは無法地帯になるだけなので最低限の法は存在しているようだが、原則的にこの街でのルールは「力」である。

 敗者は失い、力のある者が全てを得る、ファーレンハイトより魔族の住まうレオパルドの法に近い。

 人と魔族が互いに暮らす地故に、この地を通じてファーレンハイトの資源がレオパルドに、また逆にレオパルドの資源がファーレンハイトへと流れるようになった。

 何よりも、この街は存在自体が半人半魔にとっての希望の光となった。

 何しろ、ここはレオパルド、ファーレンハイトの両国家が注力し生み出された都市。

 それは即ち、半人半魔の人々に対する権利を公的に認めたという事に他ならない。

 この都市の建立により、元々ロンバルディア共和国内ではその地位を確立していた半人半魔の権利は更に回復し、レオパルド、ファーレンハイトの両国においても普通の人として扱われるようになった。

 また、この都市を通じて少しずつではあるが、レオパルド領を訪れる人間、ファーレンハイト領を訪れる魔族なんかが現れ、交流がスタートするようになったらしい。


 ……リュカ、ルナール、リサ。

 知らない内に、貴方達のような命が生まれても、過ごし易い時代が訪れたみたいだね。

 貴方達の頑張りも、多分にあるのだろうけれど。


「私の存在しない時代で、随分と色々な事があったみたいだねー」


 小川のせせらぎに身を委ねているアザラシに話し掛ける。

 このアザラシは当然、リューテシア達と白霊山へと向かった際に連れ帰ったアザラシである。

 久し振りの水場の為か、ここから中々動こうとしない。

 今は馬車旅の休息時間の為、別に問題は無いのだが。

 あんまりにも長いようなら問題だ。出発時間になっても何時までも動かないようなら、このアザラシはまたものぐさスイッチの中に放り込んでやる。

 そういえば馬車で思い出したが、ファーレンハイト領内を走る馬車も大分乗り心地が改善されていた。

 以前ルドルフに手渡した、衝撃緩衝機能を取り付けた馬車はきちんと世界に波及したようだ。

 前に乗ったシェイカーみたいな馬車なんて御免だから、実に有り難い。


「……ん?」


 あ、魔物だ。

 風とは違う、枝を折るような物音に気付き、視線を向けるとそれはいた。

 森の木々にギリギリ身が隠れる程度、およそ3メートル~4メートル程の巨体。深緑色の肌。横幅も広い肉付きの良い身体を持つ。

 ボロボロで薄汚れた衣服らしきモノを身に着けており、右手には木の幹をそのまま削りだしたような巨大な棍棒を握り締めている。

 豚の顔面を叩き潰したような醜悪な顔を持つそれは、大衆的にオーガという名称で認知されている魔物だ。

 雑食性で、勿論人を襲う事もある。

 こちらを視認したのか、鈍重ながらも力強さを感じさせる足取りでこちらに駆け寄ってくるオーガ。


「はい、時間よ」


 アザラシをものぐさスイッチの中に放り込む。

 魔物に襲われて死にました、なんて馬鹿馬鹿しいからね。

 あの魔物は初めて見掛けたわね。

 ……フレイヤを使うまでもないか。

 見た所、確かに分厚い肉体を持っているが、別に鉄鎧を身に付けているとかそういう訳でもない。

 なら、普通の銃火器で問題なく撃退、殺傷せしめる事は可能だ。

 突撃銃(アサルトライフル)を取り出し構え、オーガに向け――


「――伏せて!」


 ……射撃体勢を維持しつつ、伏せる。

 オーガの口元が僅かに歪む。

 直後、オーガの背後から巨大な爆裂。

 膝から力無く倒れ伏し、オーガはピクリとも動かなくなる。

 風に乗って、肉の焦げるような異臭が漂ってきた。


「大丈夫!? 怪我は無い?」


 森の中から現れたその少女は、こちらを心底心配するような様子を見せている。

 ただ、それは良いのだが。その少女の出で立ちが余りにも異質過ぎた。

 彼女は森の中から出て来た。それは間違いない。

 だが彼女が着ていた衣服は、いわゆるメイド服であった。

 それもフリルが沢山付いた、機能よりも見た目重視の代物である。

 更にその背中には背負い籠を背負い込み、中には何やら色々な植物が放り込まれていた。


「ええ、大丈夫よ」

「良かったー! 目の前で子供に死なれたら寝覚めが悪いからね」


 純朴そうな笑顔を浮かべ、カラカラと笑う少女。


「助けてくれてありがとう。そろそろ馬車が出る時間だから、悪いけどここでお暇させて貰うわね」

「あっ、もしかして馬車が近くに来てるの? ラッキー! ねえ、その馬車って何処に止まってるの?」


 助けられた礼もあるので、私はその少女を馬車の停泊してる場所まで案内する事にした。

エピローグ

確かにエピローグではあるが、このエピローグではかなりの数の新規キャラが出てきます

それはこの物語と言うより、次の物語の為の導入としての面が強いです

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