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19.戦力把握

 ロンバルディア領へと舞い戻り、オリジナ村にて所用を済ませた後、

 私は再び馬車にてルシフル村へと向かった。

 目的はただ一つ、勇者アレクサンドラの父であり、ロンバルディア領を治める領主から鉱山跡地の権利書を買い上げる為だ。

 その為に私はルシフル村に到着するや否や、真っ直ぐに領主の館へと向かう。

 ノックをし、要件を告げると中の家政婦が二つ返事で室内へと案内してくれた。

 事前に顔合わせを済ませていたのが功を奏したのか、仮にも領主の館にも関わらず、すんなりと面通しが叶った。

 それともアレクサンドラが事前に何か言っておいてくれたのだろうか? だとしたらますます彼女には頭が上がらなくなる。

 執務室へと通されると、そこには既に鉱山跡地の権利書を手にして、私の到着を待っていた領主の姿があった。

 実際に買い上げる前に、一言断りを入れて権利書を隅々まで確認する。

 疑っている訳ではないけれど、こういう重要な契約書類に関してはしっかりと目を通すのは基本中の基本である。

 書類に不備があれば、この契約書はただの紙切れになるという事も有り得るのだから。

 しっかりと目を通し、書類内容に不備が無い事を確認した後に、領主へと対価である金貨五万枚を支払う。

 ものぐさスイッチによって生成された亜空間内から金貨の詰まった麻袋を五十袋、計五万枚分を室内へと積み上げた。


「――確かに受け取りました。では、これが契約書です」


 手渡された鉱山跡地の契約書は、さっさとものぐさスイッチ内の亜空間へと放り込む。

 これで私は名実共にあの鉱山跡地の所有者となったのだ。

 一国一城の主、住む所無いけど。

 無いなら作れば良い、あそこには材料素材が唸る程あるのだから。


「有難うございます。お手数をお掛けして申し訳ありませんでした、それでは私はこれで失礼させて頂きます」


 良し、もうこの村に用は無い。さっさと撤収!

 脇目も振らず、三人を待たせている馬車へと即座に乗り込む。


「ただいま」

「お、おかえりなさい」


 ビクビクしながらも、返事をしてくれるリュカ。

 そんな怯えなくても取って食ったりしないのに。

 しかし、ルークとリュカはそれなりに会話に絡んでくれるのに、この娘は何時になったらまともに会話してくれるのかしら。

 車窓から外を眺め、視線を一切こちらに向ける事の無いリューテシアを見ながら、そんな事を考えるのであった。



―――――――――――――――――――――――



 再びオリジナ村へと戻り、私達はここで馬車を降りた。

 流石に鉱山跡地までは馬車は通っていないので、ここからは有無を言わさず徒歩となる。

 ルシフル村への往路の期間内にオキはしっかりと仕事を果たしてくれており、

 鋳造でしっかりと形になった部品を用意しておいてくれた。

 湯道の切除とバリ取りまでしっかり済ませてあり、即座に使える状態に仕上がっている。

 これを作ってくれた当の本人は、現在昼間にも関わらず赤ら顔で上機嫌に酒をかっくらっている。

 邪魔したら悪そうなので、適当に礼を投げ掛けてオキの仕事場件自宅を後にした。

 さっさと三人の下へと戻り、防寒着を手渡す。

 山に近付くにつれて寒さが辛くなるだろうから、当然の支給だ。

 渡し終えた後に、三人に行き先を告げる。


「さて、これから私達はここから北西にある鉱山跡地へと向かうわ。生憎道はもう荒れ果ててるから悪路は確定。それから、もしかしたら魔物と出くわすかもしれないから、それ相応の覚悟はしておいてね」


 別にむざむざ怪我も死なせもしないけど、それでも確実に大丈夫なんて保証は無い。

 私の言葉を受けて、ルーク、リュカ、リューテシアの三人の顔付きが変わる。


「それでルークに聞きたいんだけどさ。貴方、剣が使えるって聞いたから拾い上げたんだけど、剣はどの位出来るの?」

「僕ですか?」

「貴方自身の素直な評価を言って。使えないから切るとか、そういうの一切無いから。でも絶対に見栄を張ったりとかしないで、冷静な意見を頂戴。過小評価の結果圧勝しちゃったってのはともかく、命のやり取りが関わる状況での過大評価を信じた結果負けました、ってのは命に関わるから」


 大抵の人間は、常時だろうが窮地だろうが出せる能力の上限は決まっている。

 追い詰められた状況下で秘められた力が覚醒して大逆転、そういうのは勇者とか英雄の類にだけ許された特権なのだ。

 生憎私達はそういう輩ではないので、窮地になればあっけなく死ぬしかない。

 だからこそ冷静な戦力分析は生き残る上で絶対に必要な項目なのだ。


「そうですね、そういう事でしたら実際にミラさん自身に見て頂いて判断して貰えれば良いかと」

「……ん、それもそうね」


 ルークの実力を見るべく、鉱山跡地へと向けて村を発ち、

 すぐ近くの空き地へと向かった。

 村の外は以前見た時と比べて大分雪が減っており、

 雪の壁、が雪の垣根、位には(かさ)が減っている。


「それじゃルーク、貴方に剣を貸すわ。店で適当に買ってきたからどんな代物かは分からないけど我慢してね」


 ものぐさスイッチ内からファーレンハイトにて購入した一振りの剣を取り出し、ルークへと渡す。


「これは……ただの数打ちの剣では無さそうですね、それなりの業物のようですね」

「へえ、分かるもんなのね」

「まあ、多少は剣を齧っているので」

「それじゃ、試しに披露して貰っても良いかしら?」

「そうですね……じゃあ、何か壊しても良いような物とかはありますか?」


 要は、的が欲しいのだろう。

 私は適当な木板を取り出し、ルークへと手渡した。

 その後、ルークの奴隷契約書を取り出し、そこに私の魔力を微量に流して操作を行う。


「今、ルークの首輪に付いている魔法機能を一時的に無効化したわ。私が元に戻すまでは貴方は自由に魔力を使えるようになってるから、全力でやってみなさい」

「あの、そんな簡単に解除しても良いのですか? ミラさんは私達が反旗を翻すとかそういうのは考えてないんですか?」

「――へぇ。何? 私を裏切る気なのかしら?」


 僅かにリューテシアの眉が動いたのを目敏く見付けながら、自信満々に言ってのける。

 そんな可能性があるのは百も承知だ。

 生身でやり合う事になったら、私はこの中の三人、誰にも勝つ事は出来ないだろう。

 そう、「生身なら」である。

 戦う手段ならものぐさスイッチの亜空間内に、有限だが多量に存在する。

 もしここの三人が裏切るようなら、私は遠慮なくその有限の切り札を切るだけだ。


「……いえ、そんな気はありませんよ。今までの行動を鑑みるに辺り、ミラさんはどうも奴隷を買い上げる他の方々とは一線を隔しているようですし。それに、私達の事を気遣ってくれているのは少なくとも私は理解しているつもりです」

「あらそう。ならその言葉を信じる事にするわ」


 しばしの沈黙の後、ルークは手にしていた木板を宙へと放る。

 高めに投げ、落ちてくる前にルークは剣を構え、落ちてくる木板を待つ。

 木板が自らの目線に落ちてくるのを見るや否や、瞬時にその剣を放つ。


「――アサルトワルツ!」


 魔力を用いて自らの身体を強化し、振り抜いた瞬速の剣。

 瞬きをする間の間に放たれた剣閃は木板を容易く切り裂き、

 木板は十個近い木片へとその姿を変え、地面を転がる。


「僕の実力ですと、こんな感じですね」

「ふーん、それじゃあ続けてルークに訊ねるけど、魔物と戦った事はある?」

「二度だけありますね。何分昔の事なので、実戦の腕はどうなっているかは分かりませんが、剣の腕は落ちていないつもりです」

「戦った事はあるのね、それなら大丈夫そうね」


 駄目なら私も切り札を切って行けば良いだけだ。

 鉱山跡地に辿り着きさえすれば、しばらくはそこの周囲で作業に没頭するつもりである。

 引き篭もってる分には戦闘が発生する可能性は低いだろうしね。


「リュカはどう?」

「えっ? ぼ、僕ですか? 僕は……その……」

「戦えない感じ? 出来ないなら出来ないって素直に言ってね、別にそれで責めたりなんてしないから」

「は、はい……僕、戦った事なんて無いから……」


 ガタイはこの中で誰よりも良いのにねえ。

 ま、図体がデカいからイコール強い、なんて事は無いのだから仕方ないか。


「じゃあ仕方ないわね。リュカはもし魔物と遭遇したなら適当にそこらへんの石でも魔物に投げてて。当たらなくても牽制位にはなるから。後、魔物が向かってくるようなら逃げてね」

「は、はい」

「それで最後に……リューテシアね」


 ムスッ、とした表情のままこっちを睨み付けて来るリューテシア。

 奴隷なんて扱い受けてたんだし、色々積もった感情もあるんだろうけど。

 それを関係ない私にぶつけるのは止めて欲しいんだけどね。


「貴女、戦いの経験ってあるのかしら?」

「無いですよ、そんなの」

「無いのね、了解。やっとまともに口利いてくれたわね?」


 そう言った途端、また無言になるリューテシア。

 何があったのか知らないし、積極的に絡めとかも言わないけど。

 何もしてないのに敵意を向けるのだけはやめてくれないかなぁ。


「ま、仕方ないか。それじゃあ戦いはルーク一人に押し付ける感じになっちゃうけど、なるべく頑張ってね」

「僕一人で何処まで出来るかは分かりませんが、ミラさんのご期待に添えられるよう努力させて頂きます」


 ま、ルークが頑張ってくれるなら切り札を切る回数が少なくなってくれそうね。

 それじゃあ、私の土地になった鉱山跡地へと向かうとしますか!

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