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173.燻る炎、果てぬ反逆

ちょっと短め

 ――ああ、成る程。

 私自ら手を出す必要もあるまいと、舐めていた。

 考えを改める必要がありそうだ。

 ……アレは駄目だ、アレでは無理だ。



 その時、俺は白霊山にてドラゴンが討ち取られるその様を目の当たりにした。

 ドラゴンは私の期待通りに動き、このロンバルディアの地に爪痕を刻んだ。

 だが、一番倒さねばならない相手にとって、あの程度のドラゴンでは何の役にも立たない事が証明された。

 しかしそれもあの女の使った術式を思えば、無理からぬ話だろう。

 どういう経緯で使えるようになったのかは知らないが、そうか。

 あの女、「時」の力を利用している。


 ――私同様、劣化根源術(・・・)を使うのか。


 それではあのドラゴンが()られるのも頷ける。

 ともすれば、今代の勇者や魔王すら屠りかねない程に。


「私直々に、抹消(・・)せねばならないようですね」


 最早、手段は選んでいられない。

 聖王都も最強の魔物も、手駒としては不十分だった。

 良いだろう、認めてやろう。

 お前は、私が直々に動くに足るだけの「敵」であるとな。

 貴様を「抹消」し、その上で再び森羅万消ヴァニッシュアルマゲドンを発動。

 この世界から、完全に科学文明を断絶させる。

 無論、その代償としてこちらも相当な消耗を強いられるだろう。

 だが、このまま捨て置けば未来に被る被害も計り知れない。

 我が主は、最強だ。ええ、最強ですとも。

 何故なら、我が主には魔法という力が例外を除き、通用しないのだから。

 我が主を傷付け得るのは、純粋な物理攻撃。

 即ち、魔法に一切頼らぬ、科学技術による攻撃のみ。

 だからこそ、我等は一番最初にこの世界からレオパルド王国を葬ったのだから。

 総力を挙げ、私を傷付けられる唯一の可能性を完璧に潰す。

 これでこの世界に、私を傷付けられる存在は完全に消滅した。

 そう、潰した筈なのに。


「余計な手間を掛けさせおって……ッッ!」


 この私相手に、舐めた真似をしてくれた例は、キッチリ落とし前付けさせて貰いますよ!

 私は執念深いですからね。絶対に忘れませんとも。


限定(リミテッド)幻影認識(ファントムミラージュ)


 俺自身の外見的「認識」を捻じ曲げ、近くにいた男に話し掛ける。


「あ、あの……! すみません、少しお尋ねしたい事がありまして……!」

「おや。どうかしましたかお嬢さん?」

限定(リミテッド)幻影認識(ファントムミラージュ)


 その男の私に対する「認識」を書き換える。


「私は、貴方とは十年来の付き合いです。とても大切な女性で、将来は結婚も考えている親密な関係、分かりましたね?」

「は……い……そう、ですね……」

「ここの管理者は何処だ? 案内しろ」

「地下にいます、入り口はこっちです」


 男に道案内を任せ、禍根を断ち切るべく行動を開始する。

 この世界に、私を害し得る代物は不要なのですよ。


 ――神ならば、無敵であらねばおかしいでしょう?



―――――――――――――――――――――――



 足元の瓦礫が、俺自身の体重を支え切れず、崩れて砂礫となっていく。

 俺は今、ナイアルの行方を追い、ソルスチル街と呼ばれている都市部へと足を運んでいた。

 崩壊した街並みは廃墟と呼ぶに相応しく、人気は一切この場所に存在していなかった。

 しかしながら街の規模に対し、転がっている遺体の数が釣り合っていない。

 恐らく大多数は逃げ遂せたのだろう。ドラゴン相手に、何の力も無い人間風情が良くやるものだ。


「――残滓があるな」


 この地をドラゴンが襲った、という話だったか。

 魔力反応を感じ取るに、この襲撃は意図的なモノだろう。

 在り方を歪める「認識」の力の気配を感じ取れた。

 その背後にいるのは無論、ヤツだ。

 ……さて。

 以前の騒動といい、このロンバルディアの地を舞台に奴が暴れているのは間違いないだろう。

 故に、ここで網を張っていれば、ナイアルは確実に引っ掛かる。

 だが奴も馬鹿ではない。見え見えの罠を仕掛けていた所で警戒して引っ掛かりはしない。

 俺の位置を、ナイアルに気取られないようにする必要がある。

 ……待て。逆、だな。

 敢えて悟らせる方が有効か。

 ならば、その前提で動くか。一先ず、ナイアルに安心して貰う為に、このロンバルディアから離れる必要があるな。


「まだ俺は、アイツの見ていた世界を知れていない」


 あの男には見えていて、俺には見えていないモノ。

 あれ程の男が、自らの肉体を投げ打ち、命を賭してでも守りたかったモノ。それがこの世界にはあるはずなのだ。

 それを理解出来なかったからこそ、あの男は勝ち、俺は敗れた。

 それを見付けるまで、貴様(ナイアル)にこの世界を壊されては困るのだ。

 そうなれば、俺は永久にあの男に勝つ事は出来ない。


 ――勇者(あのおとこ)の背を、永劫追い続ける事になる。


 この俺が、完敗など有り得ん。

 今は及ばずとも、最後には必ずお前を越える。


 今、この地ではドラゴンが暴れているようだが、そんなモノは俺の知った事ではない。

 この地でどれだけ人が死のうが、俺には関係無い話。

 それに、人間如きでも血を覚悟すればドラゴンの一体二体程度、討ち取れる。

 この程度の物理的障害は、お前達で何とかしろ。

 ……俺は、貴様等には到底適わぬ、世界の病巣を斬って捨てる。

 成る程、確かにお前は不死身なのだろう。一度はあの男の連れに、二度目はこの俺の手で葬ったにも関わらず、また湧いて出るとはな。

 だが、お前とて正真正銘の無敵ではあるまい。

 この俺がそうであるように、神を自称しようとその根本は全てが魔力によって行われている。

 お前の復活も、自らの魔力を消耗して行われているのだろう?

 ならば、お前の不死身は有限だ。貴様の有している魔力残量という、底がある。

 簡単な話だ。お前が本当の意味で動かなくなるまで、斬り捨てれば良い。


 瓦礫と化した風景を背後へと置き去りにし、俺はロンバルディアの地を後にする。

 この大剣を有しているが故に、俺の存在は「抹消」の力で打ち消され、ナイアルに悟られる事は無い。

 逆に手放せば、ナイアルに察知される(・・・)事も可能だ。

 ナイアルの虚を突いて急襲するには、この剣の力を利用する必要がありそうだ。


「――まだまだ、お前の力を借りさせて貰うぞ」


 自らの背負う剣に対して投げ掛けた言葉は、誰に聞かれるでもなく風に掻き消される。

 さあ、仕掛けて来いナイアル。


 貴様に、三度目の死をくれてやる。


この(・・)ミラの物語におけるラスボスは、前回のアイスドラゴンです

なので最終章でミラが戦闘する回数はゼロです

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