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164.ドラゴン退治

「……リューテシア。一体何があったの? 説明を要求するわ」


 何時も通り、未来へと向けて時間跳躍を行った直後。

 そこに広がるのは、何時も通りの穏やかな日々――などでは無かった。

 大広間を含め、野戦病院を彷彿させるような状況。

 床には血痕後が掃除もされずに残っており、部屋の隅には浮浪者か死体か判別できないような人々の山。

 いや、微妙に呼吸で身体が上下している。生きてはいるようだ。

 怪我人や疲弊した人々の山を掻き分け、中枢部にて魔力供給を行っていたリューテシアを見付け、事情の説明を求める。


「! ミラ! やっと来たのね! 大変だったんだから!」


 獲物に飛び掛るネコのような機敏さで私の両肩に掴み掛かるリューテシア。

 大変なのは外の状況を見て分かってる。


「……もしかして、聖王都の馬鹿が何かしたのかしら?」

「違う。ドラゴンが来た」


 あれだけ釘を刺したのに……ん?


「ソルスチル街、地下拠点の地上部でアイスドラゴンが大暴れ。ルナール達が襲われた、被害甚大、地上部にクレーターが出来た、以上」


 簡潔な説明で実に宜しい。私好みの回答だ。


「……それと、その時ドラゴンの撃退にミラが作ってた銃や大砲を使用したわ」

「そう。まあ良いんじゃない? リューテシアが使うべきだって判断したなら、それで良いと思うよ」


 何時かは必要になると思ってたしね。

 使うタイミングが遅いか早いかの違いだ。

 地上部の損害状況を確認するべく、中枢部を後にし、大広間へと移動する。


「あっ! ミラの姉ちゃん!」


 ドラゴンに襲われたと聞いた割には、随分と元気そうな様子のルナールが客室方面から姿を現す。


「……ごめんなさい。ドラゴンから逃げ切る為に、蒸気機関車壊しちゃったんだ……直せるかな……?」

「ん? 蒸気機関車が破損したの?」


 それは聞き捨てならないわね。

 あれは相当な強度と堅牢さを維持出来るだけの性能に仕上げたつもりなのだけど。

 破損状況を目で確認するべく、一度駅へと向かう。


 そこにあったのは、生々しい傷跡が刻まれた蒸気機関車と牽引されていた車両の姿。

 ボイラー部に何故か溶解した鉄の塊がへばり付いており、また致命的でない物を含め、鋭い何かで引っ掛けたかのような傷跡が無数に蒸気機関車、そして車両全体に刻まれていた。

 車両も上部が陥没し、歪んでいる箇所がいくつも存在している。


「これは酷いわね」

「な、直るのかな……?」

「ここまで損傷が酷いと、直すより潰して一から作り直した方が早いわ」


 傷が無い場所の方が少ない位だ。

 無事な部分を探して流用しても、これだけ全体に損傷が広がってると一見無事に見える部品にも見えない損傷が入ってしまっている事も考慮しなければならない。

 そんな面倒な手間を掛ける位なら、新しく作った方がよっぽど良い。


「蒸気機関車、もう量産出来るようになってるんでしょう? だったら、これに固執する必要も無いわ」


 これもまた、遅いか早いかの違いだ。

 蒸気機関車も永久に走り続けられる訳ではない。

 いずれ損耗し、そして朽ちていく。

 大広間の光景を、視界に入れる。

 疲弊した人々、そして客室の奥からは苦痛に歪んだ悲鳴のような声も聞こえてくる。


 ドラゴンに襲われた、か。

 どんな魔物かは知らないけど、後ろの光景を見れば相当凶悪な相手だった事位は想像出来る。

 それだけの相手の攻撃を、その身で一身に受け続け、人命を守ったのだ。


「良く頑張ったわね、ルナール」


 ふと、蒸気機関車に記された車両番号が目に留まる。


 ――そうか。

 これは、私達がこの世界で初めて作った蒸気機関車なのか。


「……ここまでボロボロだと、もう修理は不可能、ね」


 心臓部と言える蒸気溜りが破損したのだ。

 もう、この蒸気機関車でこいち君は、二度とこの地を走る事は無い。

 その結論は変わらない。


「お疲れ様。今までありがとうね」


 ただの機械に感傷を抱いてる訳じゃないけど。

 人命を守って壊れたなら、機械として本望だろう。

 お疲れ様、でこいち君。

 貴方の魂は、後続の車両達に受け継がれていくから、安心しておやすみ。


「リューテシア。ちょっと出掛けてくるわ」

「出掛けるって……外に出ようにも線路も地面もズタズタにされたからトロッコすら走れないわよ?」

「私一人で行くから良いわ。ルナール、ドラゴンが何処にいるかって分かるかしら? それと姿なんかの詳細な情報が欲しいわ。刃を交えたってなら、当然知ってるでしょ?」

「えっ、ああ、それだったら――」


 ルナールから口伝で、ドラゴンという魔物の姿を把握していく。

 大きさは、大雑把に見ても全長2~30メートル位はありそうね。

 その体躯を普通の動物で当て嵌めるなら、この時点で二桁トンは確定しそうだ。

 そして全身は鋼のような鱗で覆われて、蒸気機関車の最高速度より僅かに速い速度で飛行して、あまつさえ上級魔法すら単身で使用してくる……と。


「――ルナール。あんた良くそんなの相手にして生きてられたわね」

「俺が生きてたのは、偶然みたいなもんだけどな……俺が、ああなってたかもしれない訳だし……」


 ルナールが向ける目線の先は、先のドラゴンの戦いで傷付いた人々。

 力無き人々が超えるには、まだ余りにも高過ぎる力の壁。

 こんなのが暴れてたら、折角根付いてきた科学技術が途絶えかねない。

 それは私の目的からすれば看過出来ないもの。


 だから、討ち取る。

 話し合いが出来ない害獣なら、駆除するしか無いからね。



―――――――――――――――――――――――



 ルナールから聞いた内容、逃走した方角、地上の爆撃痕とも言うべきクレーター跡。

 ドラゴンに唯一打撃を与える事に成功したというリサの爆弾の性能、その馬鹿デカい図体に対戦車砲を直撃させたにも関わらず、平然としているドラゴンという魔物。

 その情報を元に、初めからフレイヤの全スペック投入を決断する。


「聞いてた通りクソ硬いわね……リサのアレで抜けるって事なら、これでも行けるか?」


 だが如何せん、リサの作っている爆弾は魔力量というムラがある。

 また、今現在のフレイヤのバッテリー残量で上級魔法の行使は若干不安が残る。

 地下拠点のバッテリー製造にごっそり魔力を消費し、今自由に使える魔力はフレイヤ内に存在している魔力が全てだ。

 一応使ったらリューテシア達に供給して貰うという手段もあるが、それも限度がある。

 どれだけ有能な魔力供給元があったとしても、命を食い潰す以上の高効率な供給法は無い。

 聖王都の連中がまた争いをけし掛けてくるなら話は別だが、今のフレイヤは現状維持は出来ても、減ったのを回復する手段は無いと考えなければならない。


 消費は、なるべく抑える。

 その上で、このドラゴンを屠る。


 目の前に居る勇者よりも、こちらの方が難敵と認識したと思われるドラゴンが動き始める。

 その翼を広げ、滞空している私の所まで飛び立とうと――


「兵装解除、超電磁加速砲(レールガン)、発射」


 ――した所で、その土手っ腹にフレイヤ最大の矛を叩き込む。

 消費も軽く破壊力も充分、だけど発射に時間が必要なこの兵装、発射準備してない訳無いでしょ。

 ルナールの話で、蒸気機関車を上回る速度を出せるという話だが、それはあくまでも飛んでいる状態での事。

 飛ばない鳥が、飛んでる状態と同じ速度を出せる訳は無い。

 なら、地上に居るあのドラゴンは現時点ではただの鈍牛同然。


 スラスターを点火し、レールガンの直撃部位にむけ突進。

 フレイヤの機体重量を乗せた、光学剣(フラガラッハ)の一閃。

 その熱量がしかとドラゴンの肉組織を焼き切っていく。

 レールガンの一撃は、硬い竜鱗を剥がすだけの破壊力を有していたようだ。

 また、リサやルナールの銃火器が通ったという報告を聞いた時点で何となくそんな予感はしていたが、ドラゴンという種は竜鱗の下の防御力自体はそれ程でも無いようだ。

 事実、このフラガラッハで易々と体組織を切り刻める程に脆い。

 例えるなら、それは全身鎧で身を固めた獣。

 確かに硬いが、鎧を破壊出来るなら中身を傷付けるのは易い。

 苦痛で身を捩り、強引にその場から飛び立つドラゴン。

 逃がさない。

 更に上空へ逃げようとするドラゴンに更なる追撃を仕掛ける。

 速度は速いが、その図体が災いしたのか機敏な動きは不得手と見える。

 開いた傷口に更なる追撃を仕掛け、フレイヤの全身がドラゴンの返り血で赤く染まっていく。


「――ッ!」


 突如、ドラゴンの傷口から立ち上る赤い煙。

 不意にフレイヤの視界を覆われた事で、反射的にドラゴンから飛び退く。

 距離を置いて事態を確認する。


「傷口が……!」


 レールガンを直撃させ、先程から何度も刃にて傷を与えた傷口から、先程の血煙が立ち上っている。

 その煙は徐々に勢いを落とし、また噴出する量も減っていく。

 やがて完全に煙は消え――竜鱗を含め完全に再生する。


「嘘――でしょ――」


 生物が怪我をした際、自然治癒するのは分かる。

 だが、あのドラゴンの再生速度は異常だ。

 あの回復速度を見るに、恐らく私が退かずにフラガラッハの剣撃を見舞っていても傷口が塞がるのは阻止出来なかっただろう。

 その事実には、流石に絶句する。

 超電磁加速砲(レールガン)は通る。

 だが、ただ当てるだけじゃ駄目だ。そこからの追撃の攻撃力が足りない。

 コレは連射が利かない、また外皮に当てた所で二の轍を踏んで終わりだ。

 次弾の発射準備が整う前に、あの強固な外皮が復活してしまう。

 また、レールガンは点での攻撃というのも影響している。

 その破壊力を一点集中で放つからこそドラゴンの鱗を抜けている面もあるのだが、それと同時に点の攻撃であるが故に傷口が狭い。

 傷口が小さければ、早く治るのも道理だ。

 これでは撃退は出来るかもしれないが、致命傷には到底ならない。


「……ん?」


 てっきり傷口が塞がったので、追撃が来るかと思ったが。

 ドラゴンは完全に尻尾を巻いて、脱兎の如く敗走していく。

 ……怪我が治ったなら、そのまま攻めてくると思って身構えていたが。

 まあ、逃げてくれるなら有りがたい。

 レールガンはまだクールタイムが終わっていない、なのでここから追撃が来たら少々面倒だったかったかもしれない。


 ドラゴンという種が、ここまで頑強な生物だったとは。

 この世界の種として頂点に君臨する存在というのはこれ程に強大なのか。


「……ドラゴン一匹倒すのに苦労する外装手渡して神を名乗らせようとか、あの男、馬鹿なんじゃないの?」


 思わずそんな悪態――私の世界にいた天才科学者(あのおとこ)に対して吐き出してしまう。

 全知全能の神を生み出したいってならあの程度、片手間でくびり殺せる位の殺傷力出せなきゃ話にならないじゃない。

 魔力問題が無ければ、倒せたのだろうけど。


 殺せなかった。

 だが、ひとまず撃退には成功したようだ。

 傷は治ってしまったが、恐らくあれだけの打撃力を有する私に対し恐れを成したのかもしれない。

 そう、考えておこう。


 ひとまず、当面の危機を退ける事には成功したようなので、私は地上に降りてフレイヤをものぐさスイッチ内へと収納するのであった。

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