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151.落陽と台頭

新章。

でももう全行程の半分以上は既に終わってる

200以内で終わるかは怪しいが、300までには間違いなく完結すると思われる

 ファーレンハイト領ロンバルディア地方にて発生した内乱。

 五万超という圧倒的大軍勢で鎮圧を試みた聖王都と精霊教会による合同軍は、ただの一人の少女によって壊滅状態に追い込まれたという。

 聖王都は内乱と周囲に触れているが、その実はただの言い掛かりを蹴散らされただけなのだが。

 また、まるで畳み掛けるかのように、精霊教会の総本山にてその頂点たる教皇が暗殺されたという訃報。

 未だレオパルド領の魔族とは小規模ながらも戦闘は続いている中、内輪揉めで大量の兵を喪失し、更には指導者の一角を失う。

 聖王都に蔓延する不穏な空気を察知した民が、徐々にロンバルディア地方へと流れ出すという事態になりつつあった。


 一方ロンバルディア地方は、徐々に肥大化を続けた結果、有しているその資源や財力は最早一地方、ましてや元々寒村だった場所とは思えぬ物にまで成長していた。

 常識を覆すミラという少女がもたらす知識の数々により、従来は不可能だと思われていた土地の数々を切り拓き利用する事が可能となった。

 またそれに加え、元々ファーレンハイト領内にて有力な商人であったルドルフ商会が協力関係として存在した為、ミラからの恩恵を受けてどんどんその幅を利かせていった。

 知識と財は存在していたが、今までロンバルディア地方は圧倒的に人手が不足していた。

 そんな中、此度起きたファーレンハイトからの流民。

 それを快く受け入れたロンバルディア地方は、不足していた人手を得た事で、今まで以上の速度で急激に成長を果たす事となる――。



―――――――――――――――――――――――



 鉄は、この世界では需要が多い。

 それも考えれば当然の話である。

 農民は大地を耕す鍬の刃に、兵士や傭兵は身を守る盾、鎧、そして敵を討つ為の剣。

 ありとあらゆる場面で使われているのだ、需要は何時だって存在している。

 しかしながら、私の依頼によってルドルフが大量に買い付け、ロンバルディア地方へと鉄を流しているにも関わらず、ファーレンハイト領にて鉄不足という事態は発生していない。

 多少は価格の上昇があったものの、それも軽微なレベルである。

 鉄の需要は多いが、このファーレンハイトでは鉄は供給量も非常に多いのだ。


 ラドキエフ鉱山地帯。


 位置としてはネイブル村より見て西に存在しており、ファーロン山脈にその鉱山の入り口がある。

 ファーロン山脈というファーレンハイトとロンバルディアを隔てる天然の国境線とでも言うべき位置に存在している鉱山だが、この鉱山はロンバルディアではなくファーレンハイトに属している。

 その理由は単に坑道の入り口がファーレンハイト側にしか存在していないという至極単純な理由だったりする。

 世界第二位の鉱物産出量を誇り、特に鉄に関してだけであらば世界一の産出量を有する巨大な鉱山である。

 掘れば容易に鉄の鉱脈にぶつかり、鉱夫達に「湯水のように鉄が出る」と言わせた脅威の地だ。

 この地で産出された鉄は産地にて即座に地属性の術士によって鉄へと加工され、ファーレンハイト全土へと供給されていく。

 このラドキエフ鉱山が存在するが故に、こと鉄に関しては戦時中でもない限りは需要より供給量の方が上回る状態となっているのだ。


 だが、このラドキエフ鉱山にも欠点がある。

 豊富な鉄資源があるが、逆に言うと「鉄しか」出てこないのだ。

 ファーレンハイトの貴族達がこぞって集めるダイヤやルビーやエメラルド……エトセトラエトセトラ。人々を魅了する美しい宝石類。

 はたまたこの世界で名剣、伝説と謳われる力を有する武器。

 その武器の製造に用いられる希少金属、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコン……エトセトラエトセトラ。

 こういった鉱物資源が豊富な鉄鉱脈に押し潰され、皆無でこそないものの、ほぼ出ないと言っても過言ではない。

 その為、このラドキエフ鉱山と真逆とでも言うべき鉱山――レオパルド領に属する、クロノキア鉱山地帯。

 その鉱山が有する豊富な貴金属を求め、聖王都の貴族達はレオパルド領に攻め込んだという世界の裏事情が存在している。


 尚、私が知っているこの世界の過去の時代。

 まだレオパルド領が人々の物であった頃、蒸気機関や鉄道、銃火器といった大量の鉄を要求する技術を利用していた為、世界の何処よりも鉄を欲していたレオパルド。

 自らの有するクロノキア鉱山が余りにも鉄を産出しない為、豊富な鉄資源を有するラドキエフ鉱山を求め、何度もファーレンハイトに侵攻を繰り返したという過去がある。

 隣の芝生は青い、とは正にこの事である。


「――ミラ。何でもルークから聞いた話だと、意図的にこっちに対して鉄の販売を渋ってるような動きが見られるっていう話だけど、どうする?」

「まあ、そういう動きはあっても不思議じゃないわよね。足元見られるのは仕方ないと思うわよ、あっちだって生活があるだろうからね。それに、商売に対して知識があるのなら、明らかに売れると分かってる代物の価格を吊り上げるのは当然の考えだろうしね。多少値が張るのは仕方ないし、これからもどんどん鉄の需要は増えるわよ。常識的な範囲で高いだけなら、仕方ないから買い付けるしかないわね」

「分かった。じゃあそう伝えておくわね」


 時間跳躍によって未来へ跳び続ける私は、何時も通りリューテシアと情報を共有し、今後の方針を決めていく。

 昨今、立て続けに鉄を買い続けるロンバルディアに対し鉄の供給を絞る傾向が見られるが、それは国としては当然の考えの範疇である。

 国は富を成し、その富を民へと還元するべきなのだから。実際に民に還元されるかどうかは……聖王都の上層部次第なのだが。

 なので私視点から見ても意味のある弾圧や締め付けには、私は関与する気は無い。

 現状このロンバルディア地方は、ファーレンハイト領の一地方にしか過ぎない。

 国が倒れれば、このロンバルディア地方にも当然影響が出る。

 私としても、国に倒れてもらうのは不本意なので、笑って流す事にした。

 わざわざ直接国の中枢に物理的に突入し、「良き商談相手」でいよう、と宣言したのだから。


「――それと、地下農場の拡張作業がやっと終わったわよ」

「あらそう。随分早かったわね」

「最近増えてるファーレンハイトからの移民が大きいわね。人手が足りないって嘆いてたのが嘘みたいよ」

「聖王都に見切りを付けた人が増えてるのかもね、無理も無いでしょうけど」


 ファーレンハイト領、レオパルド領、ラーディシオン領。

 この内、人と呼ばれている者はファーレンハイト領に。

 魔族と呼ばれる者はレオパルド領に。

 そして国外追放となった犯罪者がラーディシオン領へとそれぞれ居を構えている。

 この状況だと、人も魔族も、自国内から他へ移動する場所が存在していないのだ。

 片や戦争相手、残るラーディシオン領も犯罪者の吹き溜まりなのだから。

 だから聖王都の貴族達が民を弾圧したとしても、民の逃げ場が他に存在しない。

 なので民は辛いのを承知でその地に留まるしか無かったのだ。

 だが、そこでロンバルディア地方という新たな選択肢が生まれた。

 そこでは半人半魔という生まれの境遇で差別されず、また聖王都の貴族からの締め付けを退ける力があるというのを先の戦いで知らしめた。

 この地に希望を見出したという人々が流れ込むのは自明の理であろう。


「それで、人が増えたから少し食糧事情に問題が出そうだから、いっそこのまま新しい地下農場を切り拓いてしまおう、って案が出てるんだけど……ちょっと、現状ペース維持は不味いよね?」

「……そうね。今のペースは食糧危機っていう明確な問題が差し迫ってたから強行させたけど、今の農場が完成したなら、緊急性は低くなっただろうからね。次の地下農場を拓くってのは将来的に考えても私も賛成だけど、少なくとも今のペースの給金で続けるのは財政がパンクしかねないから駄目ね。やるなら、少し給金を抑えるのは必須よ」

「やっぱりミラもそういう考えだよね。一応確認取りたかったからね、じゃあそうするね……畑は、何処に広げようか?」

「――それなんだけどさ。次に作る畑は、私達のこの地下拠点を利用しても良いから、もう私の判断なんて一切待たずに進めてみない?」

「えっ?」


 指示を仰ぐのは構わないが、私に依存されても困る。

 この地にはゆくゆくは自立して貰わねば私としても問題なのだから。

 地下を切り拓くのは地属性魔法を使える者や土木の知識がある者がいれば良し。

 作物を育てる為に必要なノウハウは、既に私から伝えてある。

 地下での光という問題も、私が取った手段に拘らなければ、代用の解決方法はいくらでも存在しているのだから。

 何なら、元々この一帯は鉱山として使われていた程度には鉱脈に恵まれているのだ。

 新たな鉱山を切り拓くのと地下農場増設を平行してやるのも良いかもしれない、鉄、高いしね。自分達で掘るのも良いかもね。


「中枢部での術式管理は、『私達の』地下拠点で終わり。これ以上広げると魔力消費も荒くなるしね。彼らの地下拠点、地下農場は彼らの手で作って貰いましょうか。私達の地下拠点は……そうね、そろそろ防衛拠点としての能力も欲しいわね」

「防衛……? 何で?」

「ファーレンハイトの言い掛かりを今回は私が退けたけど、私は何時までもこの地にいる訳じゃないのよ? この地下拠点から敵対勢力に対し攻撃出来るようにしないのは愚か者のする事よ」


 どうせまた喉元過ぎたらいちゃもん付けてくるわよ、と告げる。

 リューテシアは物凄く現実性が高そうな未来を想像したのか、苦笑を浮かべた。


「だから地上部分に伸びる防衛用の通路も欲しいわね。聖王都に刺した釘はまだ抜けてないだろうから焦る必要は無いけど、ゆくゆくはこっちも必要になると思うから、少しずつ開拓進めてくれるかしら」

「分かった。……所で、最近リュカがずっと地下の作業部屋に引き篭もってるんだけど、何か指示出してるの?」

「リュカには、時計作って貰ってるのよ。飽きたら息抜きしても良いし別の作業しても良いって言ってるんだけど……そんなに引き篭もってるの?」

「ミラ程じゃないけどね」


 私は引き篭もりじゃないわよ。

 ただ、出る用事が無いから出ないだけよ。


「……リュカにはいくつか仕事を与えてあるから、好きにさせてあげて」

「分かったわ。後は、蒸気機関車を増やすって話だけど……」

「それも任せるわ。でも作ったのは結構昔だから、忘れてる所もあるかもね。もし思い出せない所があったらその時は私直々に教えてあげるわよ」


 人が増えるにつれ、物資や人の動きも激しくなる。

 蒸気機関車の搬送能力は高いが、それでも一台ではそろそろ回らなくなっていた。

 なので、新たな蒸気機関車を製造しようという話が浮上したのだ。

 円滑な人と物資の搬送は今後の発展の助けとなるので、いずれは必要な作業だ。

 そのいずれ、が来ただけの事。


「それと蒸気機関車を増やすなら運転手の育成も必要だけど、そっちは大丈夫なのよね?」

「ルナールとリサがローテーションで教えてるわ。私達もそうだったけど、一年二年じゃ使い物にならないからまだまだ独り立ちには時間が掛かりそうね」

「こればっかりは、時間が掛かるからね。それと、可能なら線路も増やしたいんだけど……」

「うーん……ソルスチル街からネイブル村はそんなに距離が無いから増設したんだろうけど、ソルスチル街からここまで伸ばすのは流石に時間が掛かるわよ。……今思えば、私達ってとんでもない速度で線路を延ばしてたのね」

「必要だったからね」

「そしてその線路を製造してくれたオキさんって人も、とんでもない超人ね」

「……そうね」


 方法はなんであれ、私達が必要としていた線路を作り上げてくれた。

 出来ると言ったから深くは追求しなかったけど、オキさんが線路を作るペースは相当な物だ。

 一体、どうやって作ったのかしら?

 まあ別に知りたいとは思わないけど。


「――今の所は、こんな感じね」

「人手が増えたから、報告内容も濃密ねえ……」

「それとミラ。早速で悪いんだけど蒸気機関車の計器の作り方教えて欲しいんだけど……」

「ん、分かった。なら作業部屋に行くわよ」


 リューテシアとの情報交換も済ませ、改めてリューテシアに蒸気機関車の作り方を教える。

 熱心にメモを取るリューテシア。

 ファーレンハイトには牽制したし、しばらくはこのロンバルディア地方が騒動に巻き込まれる事は無いだろう。

 そう安堵しつつ、私は淡々と未来へと時を駆けていくのであった。

あとバックアップって大切ですね!!!

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